第25話:逆襲

(やはり、目の前に誰かいる!)


見えはしないが強化した五感で、目の前に敵がいるのが確認できた。

おそらくは透明化能力を持ち、ミコの魔力感知もかいくぐる隠密能力に優れた職業なのだろう。


(さて、指輪の能力は強力だがMP消費が激しいから素早く行動しなければいけないな。)


俺は感覚を研ぎ澄まし、味方の位置を特定する。

左にココノ、後ろにナナミ、そして左後ろにミコが等間隔で立っている。


(とはいえRPGやソシャゲではコマンド選ぶだけだから、俺に戦略立てたりする能力はないんだよなあ。とりあえず前で待機している敵だけでも排除したいが・・・。)


ポケットから携帯を取り出す。


「ああ、見つかった・・・切ればいいんだっけ?」

「そうだ。」

「その前に、俺達を見逃す事を約束してくれないか?」

「は?お前立場わかってんのか?お前らに選べるのは、殺されるか、俺の下僕になるかしかねえよ。」

「じゃあ、一騎打ちで決めないか?」

「一騎打ち?」

「俺が選んだ仲間とあんたが選んだ仲間を一対一で戦わせて、俺が勝ったら俺達を見逃してもう二度と襲ってこない。負けたら、一生下僕。それでどうだい?」

「・・・面白そうじゃないか、いいだろう。」


彼は自信満々で承諾した。

おそらく透明化している仲間が俺を常時狙っているため、負けても勝っても問題ないと思っているのだろう。


「では俺からは、後ろにいる女戦士を代表として出す。あんたはどうする?」


突然の指名で背中越しにナナミの多少の反応は感じたが、予想はしていたらしく何も言わなかった。


「じゃあ俺はこいつで。」


彼が言うとの仲間の全身鎧の戦士が一歩前に出てきた。


「では部屋の中央に2人とも進んでくれ。それから合図で勝負」


敵の戦士が無言で中央に向かって歩き出すと、ナナミも俺の左横を通って中央へと進んで行った。


(俺の横を通り過ぎて・・・一、二、三歩、今だ。)


「ナナミ!待て!」


彼女を大声で呼び止めたので、この部屋にいるものは全員俺の方を見た。

ただ、全員何も言わずに様子をうかがっている。


「な~に?勇者様?」

「すまないな・・・勝手に指名して・・・。」

「いいよ~。頼られてうれしかった~。」

「勝つと信じているが、勝敗に絶対はないから・・・。」


俺は体の周りのバリアに当たらないように小さく腕を広げた。


「最後に抱きしめさせてくれ。」


俺は我ながら気持ち悪いセリフだと後悔しながら彼女の様子を見た。


するとナナミは両手を広げて、


「ゆ・・・ゆうしゃさまああああ!」


という掛け声と共に俺に突進してきた。

そのバキバキボディの威圧感と凄まじい突進力に俺は恐怖を感じて体が動かなかったが、透明化している敵もそう感じたらしくその場から動かなかった。


「ゴキィ!」


彼女は俺に激突し、鈍い音と共に止まった。


「あれ~、勇者様に届かないよ~。」


彼女はのんびりとしたセリフを言いながら、俺の周りのバリアを砕かんばかりに抱きしめていた。

そしてその間でサンドイッチされた者がいた。


「誰この子、大丈夫~?」


彼女が驚いて、力を緩めると何者かが力なく地面へと倒れた。

確認すると黒装束で仮面をつけた人物で、その手にはナイフが握られている。

今まで透明化して俺を狙っている敵であったことは間違いなかった。


「ナナミ!そいつの武器を奪え!」


倒れているが、いつ動き出すかわからない。

とりあえず武器を奪えば安心だと思い、彼女に命令する。


「は~い。」


彼女は倒れている敵のナイフを握っている手を踏みつけた。


「ゴキャ!」


何かが砕ける嫌な音がした。


「じゃあこっちも潰しておこうね~。」


また嫌な音がした。

彼女は武器を奪うより、敵の手を破壊して武器を扱えなくする方を優先した。

確かに合理的だが、目の前で見るとなかなか残酷な光景だった。

しかし見るからに痛そうなのに、敵はうめき声すら発しなかった。


(我慢する訓練をしているのか?それとも声自体が出ないのか?)


考えている暇もなく、声が聞こえてきた。


「ローサル、サイデル、バリカ」


ココノの風の呪文だった。












































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