第24話:提案

この状況をしのぐ案を実行しようとすると、勇者ターレスは提案をしてきた。


「俺は優しい平和主義者なんだ・・・心が痛むから、お前の命を助けてやろう。」


彼はまるでミュージカルの舞台俳優のように大げさなしぐさで、俺に話しかけてきた。


「とはいえタダで命助けてもらおうなんてフェアではないよなあ。だから、お前らはこれから俺の言う事に絶対服従してもらう。俺の言ってる事って正しいよなあ?」


彼は動きを止め、何か舞台を最後までやり切った顔で理不尽な事を言ってきた。


(俺達を脅して服従させる事が目的か・・・となると俺を殺す事には抵抗がありそうだな。)


「随分と理不尽な事を言ってくるじゃないか。それなら、こちらにも考えがあるぞ。」

「はあ?考えだと?言ってみろよ。」

「・・・そろそろ運営から電話がかかってくる頃だ。」

「電話?」

「お前たちと接触する前に保険のために、運営にしばらくしたら連絡するように言っておいた。現状を伝えたらどう思うかな?」

「脅しているつもりか?」

「着信のメロディが流れてくると、さすがに出ないわけにはいかないしなあ。」

「だから?」

「引いた方が得策だと思うんだがなあ。」

「はあ・・・そんなことでビビると思ってんのかよ?」


彼の表情を観察するが動揺してる様子はなく、ただ俺が従わない事へのいら立ちのみ見て取れた。


(的外れだったか?なら強引に行くしかない。)


「なら、こちらから電話で運営に連絡しても問題ないってことだよな?」

「はあ?駄目に決まってんだろ!」

「なんで駄目なんだ?ビビってるのか?」


軽い挑発だったが、彼は顔を真っ赤にして怒り出した。

「・・・お前殺す!絶対殺す!」


このままだと勢いだけで本当に殺されかねない。

上手く誘導して電話を掛ける状況を作るつもりだったが、現実社会でも口下手な俺には厳しいミッションだったらしい。


何か他に手がないか考えていると、着信のメロディが突然流れた。


(携帯から連絡?まさか運営から?いや、これは・・・。)


突然の事で驚いたが、冷静にココノを横目で確認する。

彼女は手を後ろに回して隠すように手を組んでおり、音の所在と彼女のポーズから、自分が思った通りの状況であることに確信が持てた。


(よくやってくれたココノ。)


俺は心の中で彼女に礼をいい、勇者ターレスの様子をうかがう。

彼は明らかに動揺しており、さっきまで顔を真っ赤にして怒っていたが、今は時間が止まったかのように何の表情もなく立ち尽くしていた。


「勇者ターレスさんよ、申し訳ないが電話がかかってきたようだ。出ていいかな?」


彼は我に返ったように俺の方を見て、当たり散らしてきた。

「クソ!ハッタリじゃなかったのかよ!クソ!クソ!クソ!」


動揺するとは思ったが、彼の行動はまるで癇癪を起した子供のようだった。


(プレイヤーを襲うなんて大胆な行動をするぐらいだから、肝が据わっているか、計算高い人物だと思っていたが・・・。)


だが癇癪を起している彼に、配下のドワーフ娘が何か耳打ちをしていた。

すると彼は先ほどとは違い、感情のない言葉使いで俺に命令してきた。


「電話に出るな。今すぐ切れ。」

「え?そんな事をすれば運営に怪しまれますよ?ここはいったん出て何もなかったと返答するべきでは?」

「・・・早く切れ。」


(この変わりよう、ドワーフ娘が彼に何を言ったかわからないが、真に恐るべきはあの娘か?)


「わかった。すぐ切るよ。」


俺は腰にあるポケットに手を伸ばすが、今回は攻撃はしてこない。


「えっと、どこに入れたかな?ここか?いやここかな?」


迷っているフリをしていろんな場所のポケットに手を入れる。

そうして目的の指輪も装備する事が出来た。


まずは「完全防御の指輪」でバリアを張る。

これで動くことは出来ないが攻撃を完全に防ぐことが出来る。


そして「感覚強化の指輪」で感覚を強化して周りの気配をさぐる。

すると目の前の景色の微妙なゆがみや、近くで聞こえる小さな物音等、今まで曖昧だったものをより鮮明に感じることが出来た。


その感覚から導き出された答えは、


(やはり、目の前に誰かいる!)

























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る