第23話:対決

何がなんだかわからなかった。

とにかくわかる事は左ももを負傷しているという事だけだった。


(なんでいきなり損傷しているんだ?)

俺は自分の傷を詳しく見ると、刺し傷でたいして深くないようだ。

急に痛みが走ったので動揺したが、血もすぐ止まりそうで問題ないようだ。


「どうしたのですか勇者様!」

ミコが驚いて声を張り上げる。


「騒ぐんじゃねえよ!ゴミどもが!」

いきなりの罵声に全員の動きが止まる。

信じられない事だが、その声の主は勇者ターレスだった。


「おい、そこから動くんじゃねえぞ。死ぬぞ。」

今までとは違う口調でまるで別人のようだ。

いや、これが奴の本性なのかもしれない。


「どういう事だ?」


すると彼はため息をつき、呆れた表情になった。


「はあっ・・馬鹿は困る。いちいち説明しないと状況が理解出来ない。今あんたの左脚を狙って魔術を発動して攻撃した。つまりは下手に動くとその力で殺すっていってんの!それぐらいわかんねえの?」


(これが魔術?)

俺は相手の魔術師を見ると、たしかに杖を構えて臨戦態勢になっていた。


「勇者ターレス様、勇者同士の私闘は禁止されている!私達は悪魔を滅するために戦うのが使命!意味のない事はやめろ!」

ココノが激昂して叫ぶ。


(勇者同士の私闘が許されない・・・NPCがここまで言っているならゲームとしてタブーの可能性がある。それならペナルティか運営からなにか助けがあるはずだが・・・。)


「お前、なにタメ口で命令してくれてんの?はい、どーん!」


その言葉と共に俺の目の前の景色が少しゆがみ、右ももに痛みが走る。

左と同じように小さな刺し傷が出来て血が流れる。


(痛え・・・なんのペナルティもないのかよ・・・。ただ、さっきと同じような刺し傷で深くはない。こういう時こそ冷静にならないと。)


これが現実世界なら冷静にはなれないが、ゲームの世界という事が俺を落ち着かせてくれた。


「「勇者様!」」

そして冷静じゃないのが仲間達だ。

何が起こったかわからず困惑している。


「あ~あ、お前が余計な事言うから攻撃しちゃったわ~!もう、俺に命令すんじゃねえぞ!」

彼は興奮状態で刺激すると何をするかわからない様子だ。


「それと全員動くなよ!持ってる物を床に置いて、両手を上に上げろ!」

なすすべもなく俺達は黙って両手を上に上げた。


何とか交渉するために話しかけてみる。

「わかった共闘しよう。だから攻撃をやめてくれないか?」

「共闘?」

「それが目的なんだろう?」

「ギャハハハハ、まあそうだなあ~。ただお前はいらねえから殺すけどな。」

「・・・。」


(殺すつもりならとっくに殺されているはず・・・やはりペナルティを警戒している?とはいえ目的がわからない以上、敵の攻撃を防がないと。)


「待て!勇者様を攻撃するのはやめろ!私達がなんでもするから・・・頼む!」

いきなりココノがとんでもない事を言い出した。


「ん・・・なんでも?そこまで言われたらなあ、見逃してやろうかな~。」

彼はニヤニヤしながら、スマホを開き俺達に向ける。


「へえ~、お前☆3かあ、いいねえ。☆2の奴は回復役としてはまだ使えるかなあ。☆1はまあ、姿もアレだし捨て駒としてなら利用価値があるかもね~。」

彼はスマホの画面と俺の仲間達を確認して何やら呟いている。

こちらから目を離しており、随分と余裕だ。


俺は奴が目をそらしている間に、隣で動揺している魔術師のココノに出来るだけ静かな声で話しかける。

「ココノ、俺の脚に攻撃されたが、これは魔術なのか?」


俺の静かな声に冷静さを取り戻したのか彼女は俺に冷静に返してきた。

「敵の魔術師は杖を構えているが呪文詠唱をしていない。私が知っている限りではそんな魔術はない。」


(ではとりあえず魔術ではないと考えて、推理しよう。)

俺は敵の魔術師以外の様子も確認する。

そこである既視感を感じた。


(全身鎧の戦士と青い髪の女の子、どこかで見たような気がするが・・・。)

その特徴的な姿に心当たりがあり、必死に記憶を探る。


(思い出した!今日ピックアップされていた人形使いのドワーフじゃないか!)

絵ではディフォルメされていたとはいえ、そのままのデザインなので間違いないだろう。

それを知ったことで、俺に対する攻撃方法にある仮説が浮かんだ。

しかしその考えが正しいか確実性を得るにはポケットに入っている指輪の力がいる。

俺は奴の様子をうかがいながら腰のポケットに近づけるために左手を下げようとすると、目の前の景色がブレて手の平に痛みが走る。


(いてぇ!手を下げようとしただけで攻撃かよ!くそう、なんとかポケットに手を入れる理由を作れないものか・・・。まてよ?あれを使えば・・・)


「ココノ、答えなくてもいいから俺の左手の薬指見てくれる?俺は受け取る準備できているから。」

俺は手の平を彼女に見せながら目を見て合図する。

ただ彼女の表情から読み取れる感情は困惑のみだった。


(ダメか・・・なら別の手を使うしかないか。)













































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