第15話:魔物
これから本格的な迷宮探索が始まる・・・はずだったのだが、俺達は最初の部屋で行き詰っていた。
「最初の部屋で、完全な行き止まりなんて聞いてないぞ。」
階段を下りた最初の20m四方の部屋で、灰色の壁だけで扉も何もない。
「これは隠し扉があるパターンか?」
(こういう場合は盗賊職を持っているキャラに任せるのが得策だな・・・っと俺も持っていたか。)
「ココノ、壁に隠し扉がないか確認してくれないか?俺は床を調べてみる。」
「承知した。」
調べていくと、壁に扉型に線があるところがあった。
叩いてみると、他の場所とは音が違うので、この先に空洞がある事が推論できた。
(ここが隠し扉か?薄暗いとわからなかったな・・・ミコに明るくしてもらってよかった。)
扉を開けるためのドアノブもないので引くことができない。
とりあえず押してみるがビクともしない。
他に何か仕掛けがないか部屋を探って見るが何も見つけられない。
「ココノ、こういう場合はどういう事が考えられる?」
「そうだな・・・開けるための仕掛けが考えられるが見つからないな。魔法的な仕掛けかもしれない・・・ミコ、何か感じるか?」
「何も感じません。」
(最初の部屋でこんなにも行き詰るものか?いきなりハードだな・・・。)
俺がどうしようかと考えていると、大きなものが横を通り過ぎた。
「え?」
「ど~ん!」
可愛らしい掛け声と共に振動が部屋全体を震わした。
「いた~い!」
俺が声がした場所を見ると、ナナミが腕を抑えながら倒れていた。
どうも腕から壁に体当たりしたらしい。
「ナナミ・・・一体何してんの?」
「いた~い!いた~い!」
問いに答えず、叫んで足をジタバタして痛いアピールをしてくる。
小さい女の子なら可愛いリアクションなんだろうが、デカい奴にやられるとただただメンドイ・・・。
「わかった、わかった。見てやるから、座って痛い場所を見せてみろ。」
すると彼女はすぐにペタンと女の子座りをして、右腕を俺に突き出してきた。
彼女の右腕は傷一つなく、触ると硬くてスベスベだった。
(あの勢いで壁に体当たりして無傷なのか?内出血してたら赤くなるだろうし。いくら鍛えて硬いといっても人間の腕だ、傷一つ付かないなんてあるのか?)
「どうしたの~、そんなに私の腕きもちい~の?」
「え、ああすまん、見た感じ大丈夫そうだけど、ミコに見てもらおう。」
声を掛けようとミコの方を見ると、ミコとココノが壁を見て何か話し合っているようだった。
「どうしたんだ?何かあったのか?」
「勇者様、壁を見てください。」
隠し扉がある壁を見てみると、扉型に少しへこんでいた。
「どうも、ナナミが体当たりした事で押されて動いたようだ。つまりは隠し扉というよりは、押して動かす扉型の壁だったようだな。」
「という事は・・・押したら開く、いや・・・動く仕掛けか?」
(単純な力押しとは・・・ナナミがバカやってくれて助かったな。)
「じゃあ、私が押すね~。」
いつの間にかスタンバイしていたナナミが力強く壁を押すと、少しづつ動き出した。
そして、ある程度動いた時点で「ガコッ」という音と共に扉型の壁が外れ、向こう側に倒れた。
「扉と言うより、扉型の壁をはめ込んでいたという感じだな。随分と面倒な仕掛けだが、もっと普通でよかったんじゃないか・・・。」
「勇者様、おそらくこの仕掛けによって、魔物の侵入を防いでいたんだと思う。この重さなら、小型の魔物は突破できない。」
「いや・・・ちょっと待て、それだとこれからは魔物がここからどんどん侵入してくるって事か?」
「そうなりますね・・・音を立ててしまったせいで、魔物の気配が近づいてきます・・・数は約5匹。小型の魔物ですね。」
「ええ、いきなり!え~っと迎え撃つ準備を・・・。」
「勇者様!部屋の中心で迎え撃ちます!こちらへ!」
「勇者様を中心にして陣形を組む!ナナミは前へ!私と、ミコは両横に!」
俺は言われるがまま移動し、ココノの指示のもとみな素早く陣形を組む。
俺はナナミの大きな背中から少し顔を出して様子をうかがう。
とたんに何かが近づく音がして、扉穴から小さい影が無数に飛びかかってきた。
ナナミが素早く前に出て、小さい影をショートソードで流れるように薙ぎ払っていく。
すると小さい影が左右の壁へと、地面にへと叩きつけられていく。
俺は何も出来ないままその光景を眺めることしかできない。
「第二波来ます!数は約10!」
さっきより大きな音がして、また影が飛び込んでくるがナナミはお構いなしに剣を振るい続けている。
さっきと同じように影が吹っ飛んでいくが、よく見るといつの間にか彼女の体に何匹か小さな影が取りついている。
(これはやばい、何とかしないと・・・だが俺は武器すら持ってない・・・。)
「ナナミ!風魔術いくぞ!」
唐突に声が聞こえてそちらを見ると、ココノが杖の宝石に語り掛けるように、何かを呟いている姿だった。
「ローサル、サイデル、バリカ」
すると杖の宝石から風が唸り、ナナミの方向に飛んでいく。
(呪文・・・なのか?)
風はナナミに取り付いている影を切り裂き、引き剝がす。
「え!」
思ったより、殺傷能力がある魔術だったので驚いた。
(これではナナミも傷つける可能性が・・・。)
ただ彼女は何もなかったかのように動き続けている。
目を凝らして体を見ても、傷など受けているように見えない。
(なんだ・・・さっきもそうだがこの頑丈さはおかしい・・・。)
さっきまで激しく動いていた彼女だが、動きが止まった。
肩で息をしながら、構えは解いてはいない。
「敵が来なくなったんだけど~、まだ何か感じる~?」
「大丈夫です。もう感じません、撃退成功です。」
(終わったのか・・・。)
少し落ち着いて、ふと部屋全体を見ると、小さな生物の死体があちこちに散乱していた。
壁や床、天井に至るまで、血が飛び散っており、異臭を放ち始めていた。
(ウッグ・・・この雰囲気と匂い・・・ゲームとしてはやりすぎなんじゃないか?)
その中心にいるナナミがにこやかな顔で振り返る。
「勇者様!私やったよ!なんか、興奮しちゃった~!」
そんな彼女を俺は恐ろしく感じた。
そして、彼女はあれだけ戦っていたのに、体に血の跡が一つもなかった。
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