第16話:悪夢
「それぐらい自分で考えてほしいんですけど?」
「え・・・いや何でも聞いてと言われましたので・・・」
「そりゃ言うでしょ・・・変なミスされたら困るから。でも一から十まで教えないと動けないの?」
「その・・・最初の方は出来るだけ聞かないと、ミスして大惨事になってからでは遅いと思いますし・・・」
「はあ?じゃあいつになったら自分で行動出来るんですか?もう私が教えれることは教えました。これからは自分の責任でミスして覚えてください。」
「・・・わかりました・・・。」
(これは・・・俺が最後に派遣されたところだ・・・。そういえばいつも怒られていたな・・)
なぜか俺は、自分自身が現実世界で怒られている光景を俯瞰で眺めていた。
いつも俺を叱っていたのが、俺の教育係になった関本さんという若い女性だった。
年を取って派遣されたせいか、新しい事がなかなか覚えられず完全なお荷物となっていた。
うまくいかないから怒られて、怒られると自信がなくなり、また聞いて怒られる・・・いつもその繰り返しだった。
(結局、精神と体調を崩してやめちゃったんだよなあ。)
もちろん夢だとわかっているが、もうこんなものは見たくなかった。
早く目が覚めてほしいと願っていると、場面が切り替わり野原でなぜか俺は木刀を持っていた。
(なんだ・・・ここはどこだ。)
俺は目の前の木刀を持った男と対峙しており、周りには俺達を囲むように男達が立って何やら叫んでいる。
目の前の男は酷くオドオドしており、俺にはただの獲物に見えた。
「だぁあああああああ!」
俺は雄たけびをあげて目の前の男に木刀を叩きつける。
何度も何度も何度も何度も・・・。
「やめてください、やめてください・・」
男はすぐ戦意をなくし、許しを乞う。
だが俺はやめない、相手を叩くほど興奮してくる・・・なんと素晴らしい高揚感!こんな快感があったとは!
「やめよ!勝負あり!」
周りの男達の中からよく通る威厳ある声が響く。
俺の動きはピタリと止まり、声の方向を見る。
そこには大柄ではないが威厳ある男が立っていた。
そして、なぜか俺は彼が誰だか知っていた。
「親父!どうだ俺が優勝だ!」
「ふふ・・・さすが私の息子だ!」
「これで俺が騎士になること事を了承してくれるか!」
「もちろんだ!我が息子、サルファよ!」
(サルファ・・・どこかで聞いたような・・・視界がゆがんでいく、この感覚は・・・夢から覚める・・・)
◇・◇・◇
目が覚めると、知らない天井と、3人の仲間の心配そうな顔が見えた。
(さっきの夢は俺の過去・・・、それとサルファって俺のキャラだよな・・・。)
「俺はどうしたんだ・・・。」
「魔物の群れを撃退した後、勇者様は倒れたのです。覚えてらっしゃいませんか?」
「そうか・・・たしかにその時から記憶がない。」
「そうだよ~、私が勇者様の部屋まで運んだんだよ~。」
周りを確認すると、ゲーム世界の最初の部屋のベッドに寝ていたことがわかった。
「そうか・・・それはすまない。・・・そういえば魔物を遮断していた壁を外してしまったが大丈夫なのか?」
「今のところはこの部屋に近づく魔物はいないようです。気配を感じません。」
「そうか・・・。」
(ゲームの世界とはいえこうもリアルだとまいってしまうな。腐臭、血の匂い・・・彼女達はここの住民だから慣れていて当然だが・・・情けない!)
「これからどうする?はっきりとした時間はわからないが、もう遅い。今日はもう休んだ方がいいと思うが・・・。」
時間をスマホで確認すると「1日目 18:22:41」を示していた。
(もうこんな時間か・・・俺は長い時間寝込んでいたようだ。普通のゲームならいくら迷宮に籠っていようと睡眠不足による疲れはないが、このゲームなら危険かもしれない。実際、俺は疲れを感じている・・・。)
「たしかにそうだな。みんなは俺より疲れているだろうし、今日はもう休むとしよう。」
「承知した。」
「わかりました。」
「わかった~。」
彼女達は返事をした後、全員俺のベッドに入り込もうとしてきた。
「いや、まて!なんで俺のベッドで寝ようとする?」
「勇者様が休んでいる間に魔物が襲ってくる可能性があるから、少しでも近くにいる必要がある。」
「魔物の気配を感じる事が出来る私がいれば、安全です。」
「なんか一緒にいたいから~。」
(まるで酷いハーレム物のエロゲ展開みたいだな。とはいえ魔物が侵入してくる可能性があるから一理あるかもしれん・・・一部おかしい事言ってる奴もいるが。)
「たしかに魔物への備えは必要かもしれないが、それなら扉の前に物を積んでバリケードにしたらいいんじゃないか?魔物は小さかったし、それで大丈夫だと思うが?」
「大型の魔物が襲ってくる可能性がある。備えている必要がある。」
「そうだとしても、俺のベッドで寝る必要はないだろう?・・・っと君達は寝る場所がないのか?」
「いえ、召喚陣を使えば私達は元の場所に戻れるので、睡眠を取ってまた戻ってこれます。」
(そんな事が出来たのか・・・。それなら一緒に寝る必要はないが、寝込みを襲わ
れてゲームオーバーも間抜けすぎるな。保険は必要か?)
「さすがにこのベッドは元々一人用だから、2人が限界だ。だから、魔物の気配が感じられるミコだけ残って他は戻って休んでくれ。」
「承知致しました。正しい判断だと思います。」
「それおかしくない~。今日、魔物を倒しまくった私が残るべきじゃない~?」
「いや、だからこそゆっくり休んでくれ。明日からも活躍してもらわないといけないからな。」
「そうなの~、それじゃあ仕方ないよね~。」
(体デカすぎてベッドに入らんからな。俺が眠れん!)
「ではそういう事で!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます