第3話:召喚士への誘い

「召喚士やってみませんか?」

「・・・え?」


上田さんの言葉に俺は混乱していた。


(「しょうかんし」・・・っていったよな?いや、消防士とかと聞き間違えたのかもしれん・・・)


「あの・・・すみません。聞き取れなかったのでもう一度お願いします。」

「召喚士です。ご存じありませんか?」


ますます混乱した。


(今たしかに「召喚士」って言ったよな・・・。今やってる「迷宮伝説サモナー」とかファンタジー小説とかに出てくる召喚士のことだよな・・・。)


俺は落ち着いて考えを整理しようとした。


(ここは職業安定所だから、当然「召喚士」と言う職業だよな。現代にそんな職業は俺が知る限りない・・・が、もしかしてあるのかも知れない。たとえば・・・魔王転生のゲームみたいに国が秘密裏に悪魔と戦っていて、天使召喚プログラムによって戦う「召喚士」なるものが存在しているのかもしれない。)


頭がゲーム脳のせいか、現実的ではない考えしか浮かばない。


「浅学ですみませんが、私が知っているのはゲームとかの「召喚士」ぐらいですけど違いますよね?」


俺は真剣な眼差しで聞いた。

すると彼は少し笑って、


「ゲームの「召喚士」であってますよ。」

「?」

「実は秘密裏に国が支援して制作している仮想世界体感型ゲームがありまして、そのテストプレイヤーを探しているんです。ファンタジー世界を題材としていまして、プレイヤーはいろんな職業について冒険をするという内容なんですよ。」

「つまり・・・どういうことですか?」

「あなたにテストプレイヤーとして「召喚士」になって欲しいという事です。」


まったく考えもしなかったところからの答えで驚いたが、たしかにゲームならおかしくはない。

ただ、なぜいきなりそんな話を俺に持ち掛けてきたのか理由がよくわからない。

たしかに俺はゲームが好きな方だが、そんな事は知りようがないはずだ。


「すみませんが、なぜ私にテストプレイヤーの話を?それに秘密裏に進めているなら話していい事なんですか?」


彼は少し考えて、


「最近不景気で失業者も増加傾向です。そこで世界に向けたゲームを成功させる事で外貨を取得し、雇用を増やす計画なのです。そして、その一環としてテストプレイヤーの雇用もあなたのような失業者をターゲットにしています。」

「そうなんですか・・・それだと他にいっぱいいると思いますが・・・なぜ私なのですか?」

「もちろんすでに何人かは雇用しております。あなたは犯罪歴もなく、その他さまざまな協議をした結果選ばれました。」


俺は深く考え込んだ。


(国の職員が言っているから嘘ではないとは思うけど、国家の秘密をこんな簡単に話すものなんだろうか?)


「なんとなくはわかりました。そこで質問が何点かあるのですが、テストプレーヤーとして雇用ということは給料はでるんですよね?」

「ええ、参加するだけで手取り30万ぐらいですね。拘束期間は2週間となってます。詳細は契約書にサインする時に伝えます。」


(プレイするだけで二週間で30万?話がうますぎる・・・。)


「ちなみに断ることは可能ですか?」

「もちろん可能です。ただ秘密裡に進めている計画なので情報を漏らさないでほしいですね。」

「漏らした場合は法的処置を取られたりしないですよね?」

「そこまではしません、あなたが約束を守ることを信じるだけです。まあ・・・そんなに重要な情報でもないですから。」

「そうなんですか・・・。」

「あなたは報酬が高いから警戒されていると思いますが、テストプレイは遊びではないですから正当な報酬ですよ。もちろん危険性はありませんよ。今まで何人もテストプレイしていますから。」

「・・・。」

「まあ・・・ここだけの話、失業者に金を配るのにも理由がいる・・という事ですよ。だからやっておいた方がお得ですよ。」

「・・・。」

「まあどちらにせよ、するかしないかは今決めて下さいね。もしダメな場合は他の候補者にふらないと私が困るんで・・・」

「・・・わかりました、お願いします。」

「それは賢明な判断です。では、さっそく契約書にサインをお願いします。」


上田さんはどこからか素早く契約書とサインペンを取り出し、机に並べた。

その後、慣れた口調で細かい契約内容を説明する。


「え、30万以外にクリア報酬として100万って本当ですか?」

「ええ、本当です。真剣にプレイしてもらう目的で賞金を設定したようですね。」

「いくらなんでも出しすぎじゃないですか?」

「私は契約書にサインをいただくまでが仕事なので、その辺の事情はよくわかりませんね。」


彼はもう早くサインしろという雰囲気で、質問に答えるのも面倒そうだ。

俺は促されるまま指示された場所にサインした。


「これで問題ないですか?」

「ええ問題ありません。あとはゲームに関して詳しいものが来ますので少々お待ちください。」


彼は書類をまとめて、素早く部屋を出て行った。


(まだ説明あるのかあ・・・今日はもう帰りたい・・・。)


スマホを取り出し時間をチェックするともう12時になっていた。

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