本国からの増援
地獄行き志願
日本国首都東京、退魔省中央会議場にて――――
「先の異世界に赴いている冷泉准将から通達があった」
「冷泉はなんと? 元帥は無事なのか?」
「元帥は無事だが……どうも向こう側の世界で「魔の物」をはるかに超える敵対生物が発生しているらしく、元帥が対応に追われているらしい。なんでも、オーバードライブを使用したとか」
「…………それは、由々しき事態ね」
集まっている軍高官たちが、異世界に行っている冷泉雪都からもたらされた報告を確認していたが、どうやら向こう側は予想以上の危機に見舞われているらしい。
見捨てるのは簡単だが、向こうで玄公斎が最後居間で介入する意思を見せているうえに、何か間違ってこっちまで被害が及べば面倒なことになりそうだった。
彼らは話し合った結果、こちらからも増援部隊を編成することを決定した。
「しかし……誰を向かわせる? 半端な戦力では役に立たんぞ」
「かといって、これ以上軍の主柱を異世界に回すとなると、世間への隠ぺいができんぞ。最近ただでさえ、退魔士不要論が勃興しているというのに」
問題は、だれを向かわせるかだった。
そもそも異世界の存在は世間には極秘中の極秘であり、このことを知っているのは軍幹部の一部に限られている。
それゆえ、口が堅いうえにある程度消耗しても大丈夫な戦力を向かわせる必要がある。
「あの、それでしたら私に考えがあります」
「聞こうか、鹿島中将」
おもむろに挙手をしたのは、海軍のような白い軍服に身を包む、長い黒髪の女性――――
一流退魔士であり、30代前半にして中将まで上り詰めた才媛。
そして、前回の異世界案件で活躍した「
「前年に問題を起こして解体された『第1天兵団』を再編成し、現地に送ります」
「第1天兵団をだと!?」
部隊の名前が出た瞬間、出席者たちは一様に困惑しザワザワとしはじめた。
「しかし……あれを使うのはさすがにまずいのでは? すでに前科者が何名もいますし」
「だからこそ、です。彼らはもはやこの国での使い道はない。けれども、使いどころさえあれば、勇者となるだけの素質がある。私たちは厄介者の処分になるし、彼らは生き様を見つける。一挙両得ではないですか」
「…………そうね、彼らなら編成にもさほど時間は要しないし、適任ではある。けど条件があるわ。言い出しっぺの鹿島中将が、責任をもって狂犬たちの面倒を見なさい」
「元よりそのつもりです」
こうして密かに派兵承認を得た綾乃中将は、いくつか身支度を済ませると、退魔省を後にして池袋の一角へと赴いた。
そこは、引退した退魔士が個人で経営する酒場だった。
「邪魔するわよマスター」
「邪魔するなら帰って…………って、なんだ綾乃ちゃんか。こんな汚いところに何しに来たんだよ」
「汚いと思うなら掃除しなさいよ。私のような美人が思わず長居したくなるくらいに。そんなことより、梶原中佐いるかしら?」
「なんだ、梶原に用か。お前、いつの間にかあいつのスケにでもなったか?」
「いるのかいないのかだけ答えなさい。ふざけてると、顔を摩り下ろすわよ」
「おっかねぇなぁ、冗談だよ。奴なら上でゴロゴロしてるぜ」
マスターの許可をとった綾乃は階段を上っていくと、果たしてそこは酒とたばこのにおいが充満したキャバレーのような空間で、何人もの屈強な男たちが酒や博打にうつつを抜かしていた。
「あん、誰だテメエ?」
「制服組の若いネエチャンが何の用だ? ササツかなんかか?」
「梶原中佐、それとあなたたち全員に用があってきたわ」
「俺が梶原だ。あんたもしかして、鹿島さんちの妹さんか」
奥まった場所で暇そうに酒瓶をラッパしていた、禿頭で筋骨隆々の男……
「で、俺たちに何の用だ?」
「あなたたちはずいぶんと暇そうにしているのね」
「俺たちゃ戦いだけが生きがいだからな。結局死に場所がなくてこのざまよ」
「やっぱりね。ならば私が戦場に連れて行ってあげるわ」
『!!!!』
戦場に連れていく――――その一言を聞いただけで、彼らの目の色が変わった。
「俺たちを、また戦場に連れて行ってくれるんですか!!」
「ええ、喜ぶといいわ。ただし、行先はおそらく「この世の地獄」だけど」
「地獄…………! 素敵な響きだ! 俺たちは地獄が大好きだ!」
「ならよかったわ。ところで、あなたたちのお友達は何人いるの? 刑務所にいる子がいれば、特別に出してあげるわ」
「それならざっと800人ってとこだ!」
「いいでしょう。全員連れて行ってあげるから、明日の朝6時に所定の場所に集合すること、いいわね?」
「おうよ! 任せろ! 聞いたかお前ら、またあの楽しい日々が帰ってくるぞ!」
『おお!!』
こうして綾乃は、鐵之助をはじめとする第1天兵団を動員することに成功した。
戦場という地獄を欲していた彼らにとっては、渡りに船であった。
特殊作戦部隊屈指の「狂人」連隊が、異世界へと向かう…………
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