第3話 meet again by chance
それから3日、俺は早朝からデスクに向かっている。新ブランドのロゴやフライヤーのデザインを決めるためだ。
「全然思いつかねーな」
4日後にはざっくりとした案を打ち合わせで見せなければならない。俺は基本的に1人の方が集中しやすいので、こんな日は自宅の部屋にこもって作業をするのだが、今回は裏目に出てしまったようだ。
「もうこんな時間か…」
時計を見ると1時を少し過ぎていた。この時間は当然腹も減る。普段であれば冷蔵庫の中の作り置きを温めるが、ここ数日特に慌ただしかったこともあり、全て食べきってしまっていた。たまには外食でもするか、と近所にあるキッシュで有名なカフェでも行こうかと財布を手に取った。
外に出ると、高い湿度のせいで一気に体から汗が吹き出してくる。思わずTシャツの裾で軽く仰いで風を送った。子供の頃はここまで暑くはなかったはずだ。地球温暖化もいよいよ深刻だなー、なんてぼんやりと考えていると
「…あれ?」
数m程先に見知った顔がいる。目は綺麗な切れ長でまつ毛はわっさり長い。前回会った時とは違い、ラフな私服に身を包んでいる。今日は髪を下ろしているようだ。
「澪ちゃん?」
小さな声で発したつもりが向こうにも聞こえていたようで、彼女は目を丸くするとこちらに向かってスタスタと歩いてくる。
「多賀さんですか?奇遇ですね。こんなところで」
「俺の家この近くなんだよね。澪ちゃんは大学?」
「はい。今日は午前中で終わる日だったので、ここのカフェでお昼でも食べようかと思いまして」
そう言って彼女は俺が行こうとしていたカフェを指さした。
「多賀さんももしかしてお昼でしょうか」
「うん。もし良かったら一緒にどう?」
「ええ、喜んで」
笑顔ですぐに返事を貰えたことに少しほっとする。
ピークを少し過ぎた店内は奥の窓際の席が空いていたので、2人とも自然とそこに収まった。メニューには通常あるキッシュ以外にも期間限定のものがあり、少し迷ってしまう。
「俺ほうれん草とトマトのやつにするけど、澪ちゃんどうする?」
「そうですね…。私はかぼちゃとおからのキッシュにします」
注文を決めている時の澪ちゃんの顔は真剣だ。彼女はいつも涼しい顔をしている印象があったので、少し意外だと思ってしまった。
席に料理が届いて食べ始める。やっぱりここのキッシュは美味しい。濃厚なチーズや野菜と、サクサクのパイ生地が絶品だ。
「澪ちゃんはすごいね。20歳になったばっかなのにバーテンの仕事って」
「ありがとうございます。私大学の学費を自分で払っていて、バーテンのバイトは高時給ですしお酒も好きなので気に入っているんです」
「なるほど、そうなんだ」
相槌をうちながら澪ちゃんの顔を盗み見た。心做しか前回会った時よりも、表情のバリエーションが増えている。少しだけ親しく慣れたかも、とポジティブに捉えることにする。
「今週末辺り後輩と一緒にまた行くね。」
「本当ですか、楽しみにしています」
楽しい食事を終え澪ちゃんと別れて自宅へ向かう。そういえば、と思い出し建にメッセージを送った。
『さっき道で澪ちゃんと会って週末行くって言ったんだけど、空いてるよな。確認のため』
『え、会ったんですか?偶然?もちろん空いてますよ!この勢いでデートとか誘っちゃいましょ!』
速攻で既読がつきクマが飛び跳ねているスタンプが送られてくる。
「週末、楽しみだな」
思わず口元が緩んだ。
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