フレンチキス
タバコを吸い終えベランダから部屋に戻ろうとしたところ、親友と俺が好意を抱いていた女の子がお互いの舌を絡ませていた。
俺たちは仲良し3人組だった。きっかけは大学のゼミで一緒のグループになったこと。お調子者の友人と、ツッコミ役の俺、そして大ゲラの彼女。気が合わないはずもなく、当初は何をする上でも3人一緒だった。
俺はどうやら単純な性格らしく。異性の中で最も交友している彼女を好きになっていた。別にそれだけが理由というわけではない。純粋無垢で、感情豊かな子で、大袈裟に笑い、大袈裟に泣き、大袈裟に怒るのが可愛らしくて、魅力的で。俺が風邪気味で体調を崩していると知るとすっ飛んできて、風邪がうつるかもしれないというのに手際良くお粥を振る舞ってくれて、付きっきりで看病してくれて。
彼女に惹かれていき、何度か2人きりでのデートだって行った。友人に引け目はなかった。彼は地元に恋人がいて、彼女とも友人として接している。だから大丈夫だと。
満点の星空、海を眺めながら、俺はどうしても彼女への気持ちが抑えきれず、その感情に背中を押されるまま隣に座る彼女の名前を呼び顔を近づける。彼女も俺が言わんとする事を察し、静かに目を閉じた。星々に囲まれ、俺は彼女と甘く優しいフレンチなキスをした。
キスを拒まれなかった、ということは、彼女も俺に気があるのだと思っていたし、実際そうしたそぶりもあった。少しずつ関係を深めていって、お互いを理解して、そして恋人になりたい。そんな矢先、久々に集まらね?と友人が飲み会の音頭を取り、俺の家で集まる運びとなった。
断る理由もなかったため部屋を掃除して待っていると、大量の酒を両手に掲げる彼がやってきた。彼女はバイトで少し遅れるようで、俺と彼で先に飲み会を始めた。
酒も進み酔いが回ってきたタイミングで、彼は脈絡もなくとんでもないことを言い出した。
「…そろそろアイツもヤらせてくんねぇかなぁ」
訳も分からず聞き返すと、彼は彼女の名前を口に出す。飲んでいた酒を噴き出しかけた。冗談でも言っちゃいかんことあるだろ、付き合ってもないのに、とツッコミを入れると、大真面目な顔をする彼。
「…あのなぁ、そもそもこれまで何もしてこなかったのが異常なんだよ。大学生の男女がお互いに求めるのはカラダだけだ。性の道具としてしか見てねーんだ。学生における恋愛なんて、相手を恋人って関係で縛り付けて自分のものにし、性欲のはけ口にするただそれだけ。恋だの愛だのなんてピストンで吹き飛ばして盛ったウサギみてーに腰を動かすんだよ、俺らは」
暴論だと思った。大学生だとしても、本気で好きになって、本気で相手に夢中になる。性行為だって、お互いの愛の大きさを確認しあうためのもの。貪るものではない。少なくとも俺はそう考えているし、きっと彼女だってそう考えている。これまで女1人で俺や彼の部屋に遊びに来てもそれらしい色気を見せていなかったのが何よりの証拠だ。
「アイツは顔も良いし、身体も俺好みだ。ガードがかてーのか緩いのか知らねーが、そろそろ一発ぶちまけてもいいと思うんだよな」
元々冗談が好きな彼だ。酒も入り舌が回っているのだろう。彼には恋人がいるんだ、彼女に手を出してしまうそれすなわち浮気ということになる。そうして自分を納得させ不安を払拭しようとした。
この時、関係が壊れてでも彼をぶん殴っていたら。
数十分後、彼女がやってきた。彼は遅れてきた罰だと言い放ち酒を飲ませ、その後もハイペースで飲ませていく。彼女も、久々の3人での飲み会だからか酷く拒む真似もせず、ぐびぐびとアルコールを摂取する。
俺はタバコを吸うためベランダに出た。喫煙者である彼にも一緒にどうだと誘ったものの、俺ぁいいや、と、これだから喫煙者はクソなんだとぎゃーすか騒ぐ彼女の肩に手を回していた。
別に、手を回すくらいなら構わない。それくらいのスキンシップ、友人同士ならする。まさか俺が窓を一つ挟んだ位置にいるのに、彼が言っていた荒唐無稽な行為をするはずはない、と、吐いた煙の行き先を漫然と眺めていた。
火を消し部屋に戻ろうと窓の取手に手を触れると、彼と彼女が舌を絡ませていた。俺が何度も思い返してはニヤニヤと笑みが溢れてしまった彼女との初めてのキスを鼻で笑われるほど、濃厚なソレ。
唇を離さずに、彼は彼女をベッドに押し倒した。彼女の服に彼が手を入れると、胸元の辺りが生き物が蠢いているように乱暴に動き出す。彼女は顔をのけぞらせ息継ぎをするが、すぐさまその唇を彼がむしゃぶりつく。ようやく状況を理解した俺は、きっと彼女は嫌がっている、苦しんでいる。そう思い彼を蹴り飛ばしてやろうと勢いよく窓を開けようとするも、紅潮し蕩けたような彼女の横顔が見えてしまい身体が固まる。
彼が彼女の腕を掴み、その手を自らの膨らんだ股間に擦り寄せた時。窓越しに彼女と俺の視線が交錯した。服をはだけさせ、地味なベージュのブラジャーが見え隠れする彼女が、荒い呼吸をしながらふらふらと俺の元へやってくる。
俺は安心していた。あぁ、良かった。彼女は正気に戻ってくれた。それも、俺を見たことによって。それってつまり、彼女も俺のことを––––
彼女はシャッとカーテンを閉めてきた。俺から中の様子を見ることができないように。その行動の意味が分からなくて、その場に立ち尽くすことしかできない。部屋からは微かにベッドの軋む音と、必死に抑えつけるも漏れている彼女の嬌声が聞こえてくる。
そこからどれだけの時間が経ったのかは分からない。カーテンが開かれた。半裸の彼と、とりあえず下着だけは履いて、上から部屋にあったバスローブを巻く彼女が手を繋いでベランダに出てきた。
「タバコ、一本くれてやんね?コイツも吸いたいんだと」
嫌煙家の彼女がタバコを吸うなんて考えられない。喫煙所にたむろする俺と彼を、遠くから暇そうに頬を膨らませて眺めてくる彼女が愛おしかったのに。
促されるままに彼女にタバコを渡す。ありがと、とウインクする彼女は不自然なほどいつも通りだった。
3人が横並びで座れるほど俺の部屋のベランダは広くない。そしてこの状況、邪魔者は俺だ。
俺は部屋の中で初めてタバコを吸った。煙は天井にぶち当たると広がって消えた。なんだかその光景が面白くて、声を出して笑ってしまう。チクタクとうるさい時計の針も、飲みかけのサワーの炭酸が弾けるぱちんという音も、ベランダで激しく咳き込む彼女の声も、全部が全部愉快だ。
部屋に戻ってきた彼と彼女は、最早俺のことなんてお構いなしに2回戦を始めていた。ベッドから放り出された彼女の足の間に彼がおさまり、彼女の股下を弄っている。規則性なくびくりびくりと身体を震わせ、指を噛みながら声を押し殺す彼女を見て、彼が俺に振り返る。
「お前も混ざるか?」
俺はこくりと首を縦に振り、ベッドに上がると性器を露出させる。上を向くソレを手で押さえつつ、彼女の頬にぺたんと乗せた。躊躇いなく舌を這わせる彼女。腹の底からむず痒い快感が込み上げてくる。
彼女は首だけを起こして俺の股間の根元に手を添えると、先っぽあたりに優しくキスをした。初めてのはずなのに、どこか覚えのあるフレンチなキスだった。
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