身の丈に合った恋愛を

僕にはもったいないくらいの彼女ができた。


容姿端麗で、いつも輪の中心にいる彼女。おまけに気が利いてTHE普通の僕にも話題を振ってくれて、まさに才色兼備が服を着ているような子だった。


だから、というか、言い訳をしたいわけではなく、ただの事実として。彼女とのデートではいつも周りの目線が気になってしまった。モデルみたいな彼女と、良く言ったとしてもフツメンの僕がどうして並んで歩いてるのだと思われてるんじゃないかって。レンタル彼女だと思われてるんじゃないかって。


僕自身、彼女と付き合った時点でそういう目で見られるのは仕方のないことだとは分かっていた。でも、彼女はどう思っているのだろう。男として情けない僕を隣に連れて恥をかいていないだろうか。


僕はとことん彼女に尽くした。夕食は柄にもなく高いお店を予約して、彼女がトイレに行っている間に会計を済ます、なんてギザなことをして。


彼女が太鼓判を押す映画を観に行って、正直微妙だなと思ったけど、感動して涙を流す彼女に寄り添い「いい映画だったね」なんて内容のない感想を漏らす。


彼女が自分の分と僕の分、2種類のアイスを買ってきて。どっちがいい?と聞いてくる彼女に、僕は君が先に選んでと答える。君から選んで、という彼女に、君が買ったんだから君に選ぶ権利がある、と何度も押し問答を繰り返し、感情を爆発させアイスを2つとも勢いよく食べ、頬をパンパンに膨らませる彼女を見て気が抜けて2人で笑い合った。


彼女の要望は100%受け入れて。彼女が困っていたらすぐに対応して、「会いたい」と言われれば予定を全てキャンセルしてすっ飛んでいって。


そうすれば僕は『冴えない男』から『恋人を大切にする性格の良い男』へと昇格し、僕を横に並べる彼女の評価も、『レンタル彼女』から『恋人を選ぶ際、顔ではなく性格で判断する心優しい女性』へと昇格する。WIN-WINだと思った。少しでも、彼女の隣に立って恥ずかしくない自分になりたかった。


「ねぇ、私たちってどういう関係かな」


ふと、彼女がそんなことを言い出した。僕は、恋人じゃないかなと少し恥ずかしげに、それでも思ったことをそのまま述べた。そうでなければ、僕なんかが雲のはるか上の存在である彼女とお出かけなんて出来るわけないから。


「だよね。私たちは女王様と召使いじゃないよね」


彼女が何を言っているかは分からなかった。けれど、声はやや怒気をはらんでいて、僕は思わず背筋を伸ばした。


「恋人って対等な関係だと思うんだよ、私は。どっちかの方が上ってなったらそれはもう恋人じゃない。主人と従者」


「今日は私が『君がしたいデートをしよう』って提案したよね?なのに君は私の顔色ばかりうかがって、結局私が好きでよく行く水族館に『君がしたいデート』として向かうことになって」


「私を大事にしてくれてるのは感じてるよ。でもさ…過保護というか、恋人相手にしては、気を遣いすぎてると思うんだ」


「自慢みたいになっちゃうけど、私は過去に何人も男がいて。でも、誰も彼も私を自分の装飾品として扱うんだ。友人に紹介して『マジで可愛いやん!この子が彼女?』なんて言われてニマニマと肯定し悦に浸る。けれど、君は違うと思った。純度100%の目で私と接してくれたし、だから好きになって、君の恋人になりたいと思った。…けど、君は、自ら私の装飾品になっちゃった」


「…私たちは友人から恋人に関係がステップアップしたはず。けれど、君の態度を見てると関係が発展したように思えないんだ。むしろ衰退してる。私の機嫌を取って、私と食い違う自分の意見は抑え込んで」


「……君は、本当に私のことが好きでいてくれてるのかなって。正直言ってやりづらいよ。君のソレは、恋人に見せる姿勢じゃない。先輩だとか、上司だとか…立場が上の人にへつらってるみたいに感じる」


彼女の言葉が矢のように突き刺さる。僕が彼女のためにやってきた行動は迷惑だったのだろうか。…いや、迷惑ではないのだろう。だが、恋人にすべき行動では無かった。少なくとも、彼女はそう感じていた。


違うんだ。…ほら、君と僕の容姿釣り合ってないだろ?だから…その…内面で勝負したかったんだ。少しでも君の隣に立つに見合う男になりたかったんだ。


そう、言えたら良かったんだけど。これはただの言い訳で、余計に彼女を怒らせてしまうかもしれないと言葉を呑み込む。こんな状況だというのに、僕はまだ彼女に気を遣ってしまった。


「…はい。私は言いたいことを話した。次は君の番」


見かねた彼女がため息をつきながら僕に発言を促す。暫しの静寂の後、僕はごめん、と一言言い放ち頭を下げた。きっと、これで彼女は矛をおさめてくれると。彼女がこれだけ怒ってるんだから、僕が悪者なんだと。彼女が間違えるわけがないからそうに違いないと。


「…そこも、何言ってんだこの自己中バカ女、お前のためにやってんだよって捲し立ててきていいんだよ」


けれど彼女は笑顔を見せてそう言い、踵を返して僕から離れていった。最後まで、彼女が振り返ることはなく、最後まで、僕は彼女に待ってと声をかけられなかった。それ以降二度と、彼女と会うことは無かった。


彼女は対等な関係を望んでいて、僕は彼女に見合う男になりたかった。言い方が少し違うだけで目指していたゴールは同じだったはずなのに、どうしてこんな結末になってしまったのだろう。

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