君が僕の部屋を訪れる理由

彼女は何かにつけて僕の部屋へとやってくる。


空きコマだったから来た


ゲームしたくなったから来た


ただ単に、暇だったから来た


本当に理由は様々だったんだけど、どれもこれも取るに足らないモノで、別に僕の部屋じゃなくても…なんて思うことも多々あったけど、事実僕は彼女が来るのを楽しみにしていた。家も近かったし、ゲーマーである彼女のお眼鏡にかなう最新機種のゲーム機や珍しいゲームカセットをいくらか持っていたから、気軽に来やすかったのかな、と思っている。僕自身、彼女がやって来るのを待ち侘びて最新のゲームカセットを買っては、あんまり好きなジャンルのゲームじゃ無いんだけどな、と苦笑していた。


ある日、アパートの管理会社から連絡が来た。アパートとの契約がもうすぐ切れますよ、という内容だった。


僕は契約を延長せず引っ越しをすることにした。大学に近いからという理由で選んだこのアパートは築40年近く経っており、何より狭く、壁が薄いのだ。友人を招こうにも2人が限界だったし、心機一転環境を新しくしようと決断した。


眠れなくなったから来た、とやってきた彼女に引っ越す事を伝えると、彼女はぶーたれた。特に、引っ越し資金のためにゲームを売っ払った事を告げると、私が君の部屋に行く理由の2割くらいはゲームがいっぱいあるからなのに!とポカポカと僕の胸を叩いてきた。


もう決めたことだから、と彼女を宥め、旧アパートで最後となる彼女との時間を過ごした。やっぱりちょっと名残惜しかった。


新しいアパートは大学から少し離れた、歩いて行くには厳しいけど自転車なら行けるかな、くらいの距離。けれど、前のアパートと比べると劣っている部分といったらそこくらいだし、悠々自適な生活ができるだろう、と心が踊った。


数日後、彼女から連絡が来た。大学終わったから家の住所教えて、と。数十分ほどして、見るからに歩き疲れた様子の彼女がやってきた。開口一番、今からでも前のアパートに戻らない?私が君の家に行ってた理由の3割くらいは大学から近いからだったんだけど、と、ふらふらとベッドにダイブしていた。前まではすぐさまゲームに飛びつくんだけど、まだ僕の部屋には無いから、足をパタパタとさせながら、なんか面白い話して、と無理難題を押し付けてくる。


前の僕の部屋に来ていた理由の2割はゲームがあるからで、3割は大学から近く行きやすかったから。


では、君が今の僕の部屋にやってくる、残り5割の理由は一体なんなのだろう。

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