私が書きたかったもの
「……落ち着いた?」
「うん……ありがとう」
ぎこちない会話が、また幼馴染の部屋の、ベッドの上で再開される。私が
私と彼女の、ベッドの上での距離が、そのまま幼馴染の理性を
今夜は違う。少なくとも私は、幼馴染を求めている。友人同士という、これまでの関係では手が届かなかった範囲まで、私は彼女に触れてきてほしい。今の私は
私の
「……小説の話をしようか。今も書いてるのよね? どんな感じ?」
「……知っての
ネットで小説を発表できるサイトがあって、最近の私は、一万字
「今年、長編を書き上げたよね。十三万字くらいの、猫が主人公の話。次の長編は書かないの?」
「書きたいとは思うけど……テーマが
私の幼馴染は、あまり本を読まない。それなのに私が書く小説は、いつも読んでくれて
「ドストエフスキーもトルストイも、夏目漱石も私は知らないけどさ。でも
幼馴染が言う通りで、私が書いた、猫が主人公の長編は夏目漱石の作品をテーマにしていた。そもそも私が長編を書こうと思ったのは、飼っていた猫の
その翌月である、二月二十四日、ロシアに寄るウクライナ侵攻が始まって。私が長編の投稿を開始したのは四日後の二月末日だった。この侵攻は、私の長編の内容を決定づける事となる。
乱暴な表現を使わせてもらえば、私はブチ切れたのだ。こんな事が許されてなるものか。夏目漱石が生きていれば必ず、この事態を非難したはずだ。だから私は猫の話を書いた。何の罪も無い、
……まあ、そんな場面は、あくまでも終盤だ。それも、ほんの
「……次の長編を書くとして、ドストエフスキーをテーマにするとね。現代のロシアをどうしても
言論の自由というけれど、それは決して命を保証してくれない。安倍元首相が暗殺される時代だ。何が起きても、おかしくはないと私は思う。幼馴染は、心配そうに私を見つめていた。
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