第2章
第1話 "4人での初戦闘"
空に浮かび、聖なる歌を高らかに歌い上げる、灰銀の髪の美しい少女人形。
白に金の装飾鮮やかな薄布をたなびかせ、指し示す先、彼女の周りに浮かぶ4丁の古式銃がうっすらとした光を放つ弾丸を叩き込む。
正確に関節部を砕かれ、崩れ落ちる1体の鎧武者。
慌て、迫る他の武者達に、身の丈を超えるハルバードとタワーシールドを軽々と操り、低空を滑るように翔け寄る翼の乙女。
プラチナブロンドの髪をたなびかせる天使が、ひらひらと舞うヒマティオンの白い残像を生み、迫る刀を捌ききる。
刃をはじかれ、そらされ、体が崩されるや隙をつき、次々と的確に送り込まれる弾丸。
翻弄される10人を超す戦国鎧をまとった落ち武者達の足元に、腕よりも太い樹のツタが地を割り這い寄る。
桜色のロングウェーブヘアに色とりどりの花で編まれた花冠を乗せ、小柄ながら女性らしい体の線も露わな薄荷色のミニスカートなワンピースドレスを
木の杖を構え、薄桃色の瞳で樹魔法で生み出した蔦を操っている彼女に、絡めとられた武者達の側面から急襲を掛ける黒髪の青年。
触れるを幸いと鎧ごと真っ二つに断ち割る漆黒の剣を前に、落武者達は次々と黒い靄と化し消えて行く。
間もなく地面には10を超えるオレンジ色の光放つ結晶、魂石が転がるばかりとなった。
「お疲れ様。すごくやりやすかったね」
「はい!ミキの援護も見事でした。次々と相手が動けなくなる様は実に頼もしかったです」
危うさのかけらもなく、
「うふふ、そう言ってもらえると嬉しいのよ~」
「紗雪の魔法弾も、すごい精度だったね」
「この子たちが補助してくれるしね。単発式で連射が効かないのがどうかと思っていたけれど、1発の威力や弾速もなかなかで気に入ったわ」
敵性体の多くが骸骨兵と落武者を中心とした、木製家屋が立ち並ぶ廃墟風フィールド型ダンジョン。
1段階高いE級評価の場所だが、連携を深めるのにもお勧めというミキの推薦で、初4人パーティーの戦場としてここを選んだ。
敵の装備の多くが刀と槍に和弓なのだが、物理法則に縛られた一般概念の域を出ておらず、幻想強化がさほど施されていない。
こうなると、幻想防具として物理耐性の高いティアの防具のような水準だと、西洋のフルプレートアーマー以上に全身を覆う鎧の概念となっており、敵の刀は圧倒的に不利になる。
要するに防具の発する効果で、防具に覆われていない皮膚上ですら、刀がほとんど止まってしまうのだ。
ナオと紗雪の現状の防具だと流石にそうもいかないが……。
なお、これが相手の武器も幻想強化が高い水準で施されるようになると、日本の風土に合わせた防具に対する刀の優位性と同等以上に。まさに日本刀神話の示すがごとく、何物にも阻まれぬ斬撃として猛威を振るわれることになる。C級以上のダンジョンはこうした水準らしい。このあたりが中級上位たるC級と、それ未満の大きな分水嶺とはミキの談だ。
「この数を余裕をもってさばけるなら、ここは今の段階だと地道に魂石の売却で考えても、かなりおいしい狩場と言えると思うですよ~♪ 技量が高めの敵性体なので、防具に頼らず戦い抜ければ対武器戦闘の良い修練にもなります」
その後も順調に戦闘をこなし、廃屋と化している屋敷の中も探りつつ進める。
いくつか宝箱も見つけ、刀、茶碗、壺等、なんとも風景に即したアイテムを手にしていた。
「宝箱、開けてみれば、残念箱」
農具の
「あはは~。そうそういいものは手に入りませんね。さっきの刀とかは一応組合で1,000Neuroくらいでは売れると思いますよ。コロニーによっては美術品として集めるコレクターとかいるみたいですし。もっと美術的価値や、歴史的価値のある刀が原型となったものだと、かなり良いお値段になるとか。空想性能の付与されたものになると、桁がさらに変わりますが、ここだと流石に入手の期待はできませんね~」
「今は地道に稼ぎながら力を蓄えよという事ですね」
「オーナー、奥に立派なお屋敷が見えてきたわよ」
上空を飛ぶ紗雪が一足早く先を見通し、告げる。
「かなり奥まで進みましたし、ダンジョンのヌシの住処でしょうか?」
途中休憩を挟みつつも、そろそろ、このダンジョン攻略を開始して13時間になる。
早めの6時に入り、中は時間経過のわからない昼日向のままだが、外ではもう夜だろう。
「入口に歩いて戻るのも大変だし、討伐後の転移扉に期待してボスに挑戦してみようか」
間もなく見えてきた生垣に囲われた立派な門構えの武家屋敷。
開かれた門扉の向こう、松の木にかつて鯉が泳いでいたかのような池のある庭の中央に、ひときわ立派な鎧武者が仁王立ちにしていた。
「お出迎えくださるようだね」
「はい。雰囲気からもあれがここの、ヌシでありましょう。主殿、願わくばこの場はわたくしに任せてはいただけませんか?」
「いいよ。万が一の時は皆で、ね」
「ありがとうございます」
ティアとナオの会話を受け、紗雪がふわりと降りてくると、ナオの左腕に納まる。
ただし、宙に浮かぶ大小2対4丁の古式銃はじっと鎧武者を示して微動だにしていない。
一歩、歩み出るティア。
応じるように太刀を引き抜き、上段に構える武者。
しっかりと盾の影に身を隠し、ハルバードを槍様に構え、低空に浮遊したまま、腰を落とし激発せんばかりに力をためる。
先手を取ったのはティアだった。
強弓から打ち出され矢のごとく、距離を刹那に詰める。
先んじ長物の間合いに入るや否や、左腕の盾がわずかに開かれ、遠間から喉元へ延びる槍状の先端。
対する武者は安定した足さばきで素早く滑るようにかわす。
しっかりと斜め前に槍とともに差し出された盾の影から、それでも刹那覗いた柄を握る手の指を狙い、鋭く、返す刀が踏み込みと共に振り下ろされる。
盾を傾け刃の先を滑らせ、握り手の損傷を避けるティア。
切り降ろされた刃を、傾げた盾の側面で抑え込まんと差し出しつつ、下がった盾上面から再度、槍状の先端を武者の眼窩目掛け突き出す。
刀にかかる重圧と、迫るハルバード先端の圧に逆らわず、体を沈め、すれ違うように前方へ弾き跳ぶ鎧の武者。
すれ違いざま
崩れる鎧武者の重心を逃さずタワーシールドの面をもって強烈に叩きつけ、弾き落とす。
低空からの蹴りが戻ってくるもなんなく躱し、石突で首元を引き倒し、翻った斧部で袈裟に断ち割る。
終幕
しっかりと盾に身を隠し、滑るように距離を取り、残心を崩さぬティアに見守られ、鎧武者は黒い靄となり消え果てた。
「お見事」
「ありがとうございます」
残された魂石を拾い、歩み寄るティア。
「重量級の得物に大盾をこれだけ自由自在に扱う様はいつ見ても壮観だね」
大崩壊前の現実や、今なお人の枠の内で戦う原生闘技職達とはまた違った術理が必要となってくるのが空想探索者なのだろう。
念のため屋敷の中も検めてみたが、さしたるものは見当たらず、転移扉を通り帰還した。
その日の稼ぎは1,800Neuro (180,000Yen)
先日の大会前、G級ダンジョンを2週間強巡っての稼ぎが1,500Neuroであったことを思うと、刀の売却1,000Neuroがあったにせよ、2ランク上のダンジョンでの稼ぎの良さが際立つ結果となった。
「ミキ、四分の一は分配分として納めて欲しい」
「うん?わたしは特に分配とかいりませんよ~。組合の職員を抜けたわけでもないので、こちらでのお給金も出ていますし」
「いや、これからも一緒させてもらえるなら、ここはしっかりしておきたいんだ。ティアと紗雪も、これを期にしっかりと分けたいと思う。これまでは最低限装備をとパーティー資金扱いにさせてもらったけれど、欲しいものだってあるだろう? 2人のためにも、ミキにも分配を受け取ってほしいんだ」
「う~ん、そう仰るなら、はい。ただ、ティアさんに関しては、住民としての登録があるわけではないので、ナオさん名義で別の口座と、そうですね、予備端末を支給して、それをティアさんが使えるようにしましょう」
言われて気が付くが、ティアはあくまでカードから具現化した存在で、人類や異星体ではなかった。
「我が主、私はあくまで主の道具です、そのように戴くわけには」
「いや、ダンジョン外でも普通に生活できるのだし、そうでなくともティアは一人の大切な仲間であり、人だと思ってるよ。必要な物のための貯蓄も必要になるだろうけれど、食べ物とか、お洋服とか、好きに買い物もして欲しい」
「オーナー、それなら、パーティー資金を別枠で持っておいた方が良いのではないかしら?」
「それも考えたのだけれど、このメンバーであれば、いざというときは出し合うようにして考えればいいかなと。今後もし人数が大幅に増えたり、状況が変わったら考えようかと思うんだ」
「貴方がそう決めたなら、問題ないわ」
そうしてしばらくは安定したダンジョン挑戦の日々が続いた。
鎧武者のダンジョンを中心に、E級、F級、織り交ぜて複数のダンジョンを経験していった一行。
戦闘に関しては1段上のE級ダンジョンを十分にこなせると確証が得られるようになり、ナオの枯渇しかけていた魂もある程度回復した。
ミキとのパーティー結成から2か月半がたとうかという頃。8月初めに時は移る。
この間、さまざまな装いをお洒落に着こなしていたミキだったが、首元の、黒のレザーにハートの飾りのチョーカーだけは一度も外されることが無く。着こなしを気にするミキらしからぬのでは?と、いよいよもって気になるナオであった。
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