第8話 "お買い物♪"

 カードに戻りたくないと駄々をこねる”愚者の剣”を流石にむき出しで持つわけにもいかず、ミキに借りた黒い布で包みなおして抱えると、3階の売り場に場所を移した。

「まずはオーナーの探索者装備よ!」

「主にふさわしいものを選ぶのです」

 ふんす、と握りこぶしを二つ胸前で握りしめ意気投合する2人。

 あれでもないこれでもないと、候補をミキに指さし示す。

 幸い一つ一つ実体化させて着替える代わりに、端末に保存された身体データをホロビューとして空中に投影し、試着イメージの確認ができるらしく、次から次へと投影されたナオの立体映像の衣装が切り替わっていくだけで済んでいる。


「ミキはこれなんかもいいと思うのですよ~。こういうのを着て~お世話してもらうのとか~」

 白い布を重ねたドルイドのような服装を着せうっとりと見つめるミキ。

「わが主にはぜひフォーマルにこのように!そしてお傍に控えさせていただくのです」

 深紅の肩布にマントを羽織った騎士の受勲式のような服装に冷静さをかなぐり捨て熱を上げるティア。

「少しワイルドに決めるのもアリよね!」

 黒い帽子を斜にかぶり黒のロングコートにスーツ、ギャングスタイルを完成させご満悦の紗雪。


 一応どれも幻想効果で防具として成立しているらしい。

 そのあたり、娯楽惑星として提供しているだけあって不思議な力場やなんやらの異星体技術で防具に関してはなにも全身金属鎧で固めずとも、全体としての一定の防護効果が得られるようになっている。ただし、防具と設定された素材がそもそも物理的に覆っていない箇所は相応に効果は低下するため、過度の露出はある程度避けるべきとの事。裏を返せば防具の隙間をついての急所への刺突等は有効ということだ。このあたりは見た目重視を求める観客たる異星体へのアピールとの匙加減で決めるべきだそうな。

 一方武器に関してはあくまで、斬撃が飛ぶなどの特殊なケースを除き、武器の見た目通りの範囲への効果適用となっている。強い武器を装備したからといって、武器を使わずにげんこつで殴ってもその効果が発揮されるような事は残念ながらない。


 その後もあれでもないこれでもないと、賑やかに続くこと1時間

「「「オーナー(主)(ナオさん)は、どれがお好みですか!?」」」

「ごめん……選べないよ……」

 途中下手に口出しをしてさらに奇抜なものまで候補にあがり始めるに至り、ギブアップすることに決めた。


 結局”執事スタイルの燕尾服にゴシックブラックコート1式”と”白を基調に黒と金のアクセントが小物随所に入り、銀のアーマーパーツが施されたサーコート1式”を、切り替え式装備に合成するという何とも面映ゆい、大崩壊前であれば中二病の誹りそしりをまぬかれなさそうなスタイルに落ち着くこととなった。普段着も部屋着を除きこれに統一との女性陣の意見であった。

 探索者組合の中を見渡すと確かに大なり小なりそういった趣の男性諸氏も見かけるので、そういう時代なのだろうと、またも割り切ることにする。

 性能面は予算次第で増減するとのことから、ここは反対を押し切り、パーティー全体としてのお買い物候補を挙げてから取捨選択する事とした。


 そうしてさらに検討を重ねることしばし、それぞれの上げた候補から最終的に絞り込んだリストが出来上がった。

 そこからさらに取捨選択の末、購入を決定したのがリストの星(★)のものとなった。

 魂の譲渡が成されたことで、ティアにも人類同様、魂容量キャパシティーに依存するスキルカードの取り込みが可能となったのだ。


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<ナオ用>

 ★形状切り替え式防具/ DEF, IDEF +20 / 2パターン形状登録 – 30,000Neuro

 スペルカード:XXXブリッド (魂値10) – 5,000Neuro 


<紗雪用>

 防具特性付与:飛行 – 500,000Neuro~ (予算大幅オーバー)

 ★防具特性付与:浮遊 (魂値40/MP消費無し) – 50,000Neuro

 防具特性付与:浮遊 (魂値10/MP消費有り) – 40,000Neuro

 ドローン+搭乗用改造費 – 10,000Neuro

 ★スペルカード:初級治癒魔法 (魂値20) – 10,000Neuro

 スペルカード:初級結界魔法 (魂値20) – 10,000Neuro


<ティア用>

 狙撃銃(物理/魔法弾切り替え式) ATK+10, IATK+10 – 20,000Neuro

 大型対物狙撃銃(物理/魔法弾切り替え式) ATK+50, IATK+50 – 100,000Neuro

 ★タワーシールド DEF+20, IDEF+10 – 15,000Neuro

 ★ハルバード ATK+15, DEF+10, IATK+10 – 15,000Neuro

 スペルカード:XXXブリッド (魂値10) – 5,000Neuro 

 スペルカード:初級身体強化魔法 (魂値20) – 10,000Neuro


<その他>

 召喚室利用 – 50,000Neuro (*利用毎に50,000Neuroずつ増額)

 キャラクターカード:探索系 – 各価格 10,000Neuro~

 探索用ドローン/機 – 3,000Neuro

 ★探索カバン(買いなおし)、合成食、薬品類、ティアと紗雪用のポーチ – 5,000Neuro

 ティアの防具へ形状切り替え機能付与 – 10,000Neuro

 ★ティアの私服+夜着(探索効果無し) – 1,500Neuro

 ★紗雪の私服(探索効果無し/防具へ取り込み) – 1,000Neuro

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 紗雪は何よりも、戦闘中にナオに抱きかかえられたままでいる状態の解消を喫緊の課題として挙げた。

 先々の成長を見越しつつ、制限なく使えることを優先し、浮遊のMP消費無しを選択。

 重量によって制限がかかるらしく、ティアの場合と異なり、高度10m程まで移動でき、速度も常時駆け足程度出せることが発覚したことも大きい。ティアがこっそり、重い…わたし重い…と、気にしていたが、流石に”フル装備の人間大”対”ドレスのみの人形”で比較の意味はないだろう。

 加えて呪歌の効果が強敵に対し限定的なため、いっそ聖歌では不足する治療や防護のための手段をと検討。

 残り魂値が30となるため、聖歌(20)を平時は装着し、呪歌(20)、治癒魔法(20)を切り替えて使用を想定。

 成長すれば、2種類以上のスペルを付けられると期待。


 ティアは防具の性能強化も候補に挙がったものの、それよりも盾の性能強化を切望。

 ナオの武器が強化されたことを踏まえ、狭い居場所での戦闘のために剣はそのまま予備武装とし、遠距離/中距離打撃力の追加を検討。

 長柄武器の片手持ちなど不可能では?大型盾との干渉も問題では?との懸念もあったが、見事な演武を披露。

 挙句、大型対物狙撃銃すら片腕で安定運用するにつけ、強化された能力値で解決可能という乱暴な結論に終わった。

 とはいえ、現状の能力値では力任せな運用であることは否めず、技巧も含めた運用を行うためにはさらなる成長が必要とも判明した。G/F級では十分だろうという妥協込みだ。


 ダンジョンでも課題として挙がった探索手段の強化として、仲間を増やすことも候補に挙げたが、ナオの魂が心もとない状況を踏まえ、候補からすぐに落とすこととなった。端末に情報を送ってくれるというドローンも候補に上げてみたものの、遠距離探査に多少役立つものの、あくまで民生の機械のレベルであり、静穏性/耐久性に難あり、地図連動不可、解像度の問題、等からお勧めできないとのミキのアドバイス。実用に耐えるレベルとなると、SF機能搭載のいわゆる幻想装備になるといわれた。価格帯も桁がいくつも違い、断念。


 紗雪とティアのお洋服はナオが最後まで譲らず、追加した!

 本当はティアの現状のドレスアーマーに形状切り替え機能を付けたかったが、次回に持ち越し。

 紗雪のドレスは形状取り込み(しかもサイズが違っても人形サイズに変更してくれる)という稀有な性能を有しているため問題ないが、今回のナオの防具含め、形状切り替え機能まで防具に組み込み可能な一方、形状取り込みは都度専門の工房で加工を行う必要があり、加工費用として衣装代の3割前後、取られるとのことだ。

 買ったのは、ティアに”薄水色のナイティ”と”濃紺×白のロリータドレス”。紗雪に”薄水色×白のロリータドレス”。

 ペアルックで2人のそろった姿と言ったらもう…!

 端末の撮影機能がいつにも増して火を吹いた。


 結果〆て123,900Neuro (12,390,000Yen)。

 残金6,513Neuro (651,300Yen)となった。


「そうでした、これ。補充しておきましたからね♪」

 と、気軽に渡される”神樹の雫”。

「え、待ってください、そんなまた」

「あ、い~のい~の、他人に見せたり、売っちゃったりはノーだけど~、ミキがあげる分には大丈夫なのよ~。そもそもこれ、ナオさんにしか効果が無いようになっているから、返されても困っちゃう♡」

 にっこり差し出され、

「また無くなったら言ってね、補充してあげるから♪ ナオさんになら、いいのよ~」

 香水瓶程の大きさのガラス容器に入った桜色の液体。上級ポーションでようやく内臓に至る刺し傷の治療が可能、背骨の一部が失われているような部位欠損レベルは一般的に入手可能なポーションでは対応不可能な中。致命傷を一瞬で癒した雫の正体とは……明らかに気軽に受け取れるものではないと思いつつ、命には代えられないとありがたく受け取る。

「ありがとうございます。”転移”もいただいたままなのに。いつかご恩を返せるとよいのですが……」

「じゃあとりあえず~!お祝いのお夕飯に~みんなで出かけよう♪ せっかくだから、今買ったお洋服に着替えて、ね」


 その夜、組合の建物から、燕尾服にゴシックブラックコートを羽織った黒髪の男性が、灰銀色のロングツーテールのロリータファッションの人形を抱き。同じくお揃いの濃紺色と薄紫色の同じくお揃いのロリータファッションに身を包んだ美女2人を両腕に侍らせ、深紅のカラーリングが鮮やかな個人所有モービルへ乗り込む姿を多くの者たちが目にするのであった。


 探索者組合の巨大な円柱型の建造物を中心とたドーム型コロニー。

 南8区、南東7区の壁面を埋め尽くすコンテナハウス、同様のコンテナハウスを寄せ集めてブロック状にした高層ビル群が立ち上るG級居住区。

 コンテナハウスではあるものの、広さが倍程にアップグレードされるF級相当--南西6区。

 アパートメント形式の居住区が広がるE級相当--東5区。

 普段目にするこれら雑然とした下層区とは一線を画す、北西2区がミキに案内された先だった。

 北1区との境、中空域を渡る移動用モービルから望む両区の様相は高層行政施設群を中心に、贅沢に土地を使った高級住宅街と天然公園をも擁する現代人類の理想郷。

 仰ぎ見れば1区すらもしのぐ、殿上人の住まうとされる空中浮揚街区をまばらに飛行する高空域モビールの優雅な姿も垣間見える。


 2区商業施設群の高層発着場に降り立ったモービル。

 ミキの個人所有らしいそれは、内装もスポーティーな洗練されたデザインでまとめられていた。

 モービルの駐車スペースをプライベートスペースに確保することも考えれば考えられない贅沢の1つ。ついミキの素性に思いをはせそうになる。



「それでは、か~んぱ~い♪」

 天然イチゴを炭酸で割ったノンアルコールカクテルを掲げ、アールヌーボー調の調度品が並ぶ個室にミキの声が響く。

「ふわぁ、おいしいのだわ」

 甘さと爽やかな刺激にご満悦の紗雪。

「主殿、私までご相伴にあずかってよいのでしょうか、やはりカードに戻っておとなしくしているべきでは」

 突き出しとして供された黄金色のゼリー寄せにくるまれた天然エビを、恐る恐るフォークで突き刺し、恐縮するティア。

「俺こそ、場違い感がすごいというか」

「あはは~何をおっしゃっているのですか~。楽しみましょう♪」

 ミキの案内に従ってやってきたレストランは空中浮揚特区に本店を構える高級レストランの系列店であった。

 折り目正しい紳士達が一斉に腰を折り、美術館のように芸術品が並ぶ店内を横目に個室へ通される。

 引かれた席に着く頃にはティアの右手と右足が同時に前にでるほどの緊張ぶりになっていた。


「そうだ~ナオさん、こんなのどうです、どうです~?ほら映像記録撮って~」

 すっと、音もなく席を立つや、テーブルに飾られていた薔薇の生花をすっと指に挟み、やおらティアの頬に手を添え、横を向かせると唇に唇を合わせる寸前、薔薇をかざし口元を隠す。

 口づけ寸前で止まってはいるものの、まつげとまつげが触れ合わんばかり近くで見つめあう艶姿をナオにみられていると思うと顔に血が上り、まっかになるティア。

 あまりに唐突で刺激的な仕草に、あっけにとられつつ条件反射的に端末の撮影機能を連射しているナオ。

「あ、主殿!?けして、けし……きゅぅ」

 軽く目を回すティアが椅子から落ちないよう軽く肩を支えるミキ。

「にひひ、ナオさんこういうのもお好きですね~? ほらほら、紗雪さんにしてあげてくださいな~」

「わ、わらひ!?」

 グリンと首を右に回し隣に座るナオの唇を吸い寄せられるように見つめる紗雪。

 無意識に体が右に傾き伸びあがり。

「い、いや、ほら公共の場ですし」

「あらぁ、それはプライベートならいいっていう事ねぇ?♪」

 後ろ頭を撫で、それとなく紗雪の姿勢を戻すナオは、

「してくれて、いいのにぃ……」

 とりあえず、聞かなかったことにした。


「今回の結果を踏まえて、実はあるイベントへの参加オファーが来ています」

「イベントですか?」

「はい。開催は5月の初旬、今日から半月程後ですね。G級向けですので探索者同士の戦闘行為はありません。人型のゴーレムを中心とした敵に対するパーティー単位の対多戦闘形式。最後のボスを討伐するまでの攻略時間を競うタイムアタックイベントになります。探索者のパーティー人数上限は3人。攻撃手段は近接武器と支援魔法に限定。ギブアップ有り。装備破損、カードロストへの補填は無し。賞金と景品の授与有り。優勝で賞金額が100,000Nuero。景品は授与時公開となっていますね。参加者は主催並びに組合からの推薦を受けた探索者のみです。ナオさんには主催からの推薦が今朝、組合に届きました。」

「人数もちょうどじゃない。オーナー、参加してみましょうよ」

「近接武器のみというのも悪くありませんね」

 紗雪もティアも乗り気らしい。

「そうですね。G級初期資金、無償召喚室の利用、パートナーではなくパトロンのオファーを受ける可能性も考えると、この時期のパーティー人数は多くても4人。ほとんどが3人なことから指定人数は妥当でしょう。スペル主体というケースがないとは言いませんが、MPの都合でせいぜい日に3回程度しか撃てないことを考えると、レギュレーションに不審な点はありませんね。参加者数はかなり絞られているという情報もあります。組合推薦の枠を考えるとおそらく100組に満たないのでは?と」

「んーギブアップも可とのことですし、そうですね、ぜひ参加させてください」

「承知しました。では受諾で明日一番に、手続きしておきますね」

「ありがとうございます。それまでの間は資金稼ぎと、成長のためにダンジョン挑戦かな」

「そうですね。ハック&スラッシュ型で、G級と一部F級から、おすすめをリストアップしておきますね。明日11時に組合にいらしていただけますか?」

「ありがとうございます。助かります」


「失礼します”」

 と、渋い声が個室の外からかかり、いよいよメインディッシュが登場する

「本日のメインはオマールの香草蒸し、ビスクソースでございます」

 ぷりぷりとした身がたっぷりと詰まったこれまた天然のオマールをからごと供される逸品。

 濃厚なビスクの香りが部屋に満ち、食欲をそそる。

「難しい話はおしまいね。さ、いただきましょ~」

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