第4話 "いやぁ、なの"

 明後日にはダンジョン探索開始。胸躍らせ待つ2日間。

 と、思いきや紗雪を胸元に抱きかかえ自室に戻り、その極小住居ぶりを目にして思わず零れ落ちたのだろう

「聞いていた通りね」

 物悲し気なつぶやきが耳に飛び込む。


 よくよく考えれば彼女の部屋も用意することができない、狭きワンルーム。

 身長60㎝の彼女ですら狭いとわかるスペース。

 普通の人類並みの体格を有するパートナーと契約した場合どうしているのだろう?と疑問を覚える。

 それを察したのだろうか

「ランクが上がって、スペースの余裕が生まれるまでパートナー異星体は別の施設に用意された部屋に泊まるのが普通だそうよ。でも、私は貴方と片時も離れたくないから。ごめんなさい、気にしないで。机の上に座るためのクッションだけ置かせてもらえるかしら?睡眠も不要なのだから、それで充分よ。」


 光の速さで腕の端末にアクセス。

 意識操作で開く”人形種”限定ショップ画面。

 帰りの移動用ビークルで目をつけていたセットをカートへ。

「ちょ、ちょっと何をしているの!? 大切な活動準備資金でしょう! お、お待ちなさいって」

 即、決済完了。


 机の上で慌てふためく紗雪を、椅子に腰かけ愛で眺めること30分。

 ガコン、と通販のお届けドローンから荷物が届くや開梱。あわせて購入した自分用のラフなシャツとズボンに着替え、設営開始。

 途方に暮れたような、呆れつつも嬉しさを隠しきれない彼女に培養ポッドの蓋の上で待機いただく事もう30分。


「ふふ、用意出来ましたよ、紗雪姫!」

「何を言っているのかしら、もう……オーナーったら、困った人だこと」

 一人用机を占領し立ち上がる、狭いながらも意外としっかりとしたつくりをした、高さ80㎝のコーナータイプのパネルハウスには、クッションベッドとスイッチ式スタンドライトが据えられていた。

 美しいゴシックドレスを身にまとう彼女には不似合いな雰囲気になってしまったが、予算の範囲で買えるのがこのカントリー調のデザインのものだけだったので今は我慢。

 板に壁紙を張る自作ハウスなどできないものかとみてみたものの、かえってそうした部材は今のご時世貴重らしく、存在しなかった。代わりに見つけたのは、デジタルパネルで背景を切り替えるタイプのもの。だが、予算にはまらず。

 まして職人手作りのハウスなどとてもとても。

 その代わり、クッションベッドは今後のお着換えにも無難に対応できるよう、クリーム色にフェイクファーのカバー付きで羽毛”風”のフカフカ品質から選択。(天然羽毛はみなかったことにする。ゼロの桁が、桁が~!)


 〆て7,000Neuro。残高720Neuro (72,000Yen)


「初めてのお食事、できれば豪勢にしたかったのですが、それは改めて余裕ができてからで。ごめんなさい」

 すっと差し出すのは合成甘味料の塊であろうチョコケーキ風味のミニ合成食チップ。

「いいえ、充分よ。繰り返しになるけれど、飲食は本来不要なの。厳しい今、無理は決してしないで。ね?」

 甘いものは好みに合ってくれたらしく、優しくポリポリと、小さな口でじっくりと味わうようにチップをかじりつつ、念を押す彼女の幸せそうな姿に見惚れ、夜は更けていった。




「確かに!? 初期に攻略されるG級ダンジョンは基礎の通路型。モンスターも動物に毛が生えた程度。種別も”ハックアンドスラッシュ”タイプが大半、もしくは、比較的容易な攻略が可能となるギミックが用意されています。で・す・が! 生誕直後のナオさんの身体能力は大崩壊前の人類成人男性と同程度! 武器防具もなく挑むものではありません! そ・れ・な・の・に! お金ほぼ使い切っているって何事ですか、も~~!」

 装備や共に戦う架空体(キャラクターカード)を見に、紗雪を腕に抱きふらふらと組合3階にやって来た2人。

 ショーケースに飾られる煌びやかな上級向けカードを、将来の夢の一端と眺めていた最中。

 後ろにすーっと現れたミキにつかまり、カウンターにひきずって行かれ、お説教に突入。


 可愛らしい顔でぷりぷりと怒る姿は愛くるしさが際立ってしまい、怖いと感じられない一方、申し訳なさと情けなさは弥が上にもいやがうえにも刺激されてしまう。

 それはそうと、彼女はなぜ俺の残高を知っているのだろう、謎だ。


「細かい分類とかは置いておきますが、先々は”地球文明に記録されている空想物語や、神話に取り込まれるタイプ”、”逃走不可で強力な特殊個体との決闘場タイプ”、”全く別の技術体系が必要となる騎乗機械活用タイプ”、”大規模戦場シミュレーションタイプ”、本当にさまざまなダンジョンがあるのです。それぞれに対策や準備も必要! こんな初っ端でやらかしてしまうなんて、不安で不安でもう……!」

 ダンジョンという名称がつけられてはいるが、その内部は何も洞窟に限定されるわけではなく、それこそ生態系を取り込んだような自然空間から、宇宙空間を模したものまであるほど多種多様らしい。との記憶が、確かにある。


「仕方がないので、ナオさんが無事探索者活動を始められるよう、今日はサポートしてあげます」

 ふん、と両こぶしを胸の前で握りしめるミキ。

 今日は動きやすいよう裾は膝上丈に抑えられた、甘い桃色のプリンセススタイルドレスを身にまとっている。

 本当に制服なのだろうか……


「とはいえ、予算700Neuroでは最低限必要とされる武装1種、キャラクターカード1枚の2点を選んで揃えることもできません。まずは初回1回だけ無償でご利用いただける召喚室を使いましょう。その結果を見て、予算の範囲で不足したものを見繕う感じで」

 召喚室はダンジョン空間の1種で”魂に刻まれた生誕前の架空世界における経験から抽出具現化”によるカードが高確率で生まれ出るそうだ。


 善は急げとばかりに早速つれられた先は、組合建物の裏にそびえたつパルテノン神殿のような様式の建物、通称”組合神殿”

「ここには召喚室をはじめ、組合を通じて利用いただく便利機能を提供するダンジョンや、イベント等で使用されるダンジョンへの転移門が設置されています。普段探索いただく各ランクのダンジョンはそれぞれまた別の建物に転移扉が用意されているのですよ」

 内部はずらりと様々なサイズ、多様な装飾が施された扉が外周部沿い、内向き設置され、それぞれで扉前の空間は仕切りで区切られている。

 内部にはフォーマルなスタイルの服装をした受付に案内された探索者の姿が、まばらに見えるだけだ。

 手前の小さな扉にたどり着き、ミキが扉横のパネルに手を触れると、ゴトンという重々しい音が響く。

 開錠されたようだ。

「では、ミキはこちらでお待ちしておりますので、中にお進みください。大きな鉱物結晶が設置された祭壇の外周、目印となる円が描かれた中に立ち、生成されたカードを受け取りましたらお戻りください」

 扉横に置かれた簡易的な椅子に腰かけ、告げられる。

「紗雪は一緒で問題ないでしょうか?」

「はい、もちろんです。輪の中にお入りいただいても大丈夫です。感知されるのは人類のみですので。それではどうか、幸運を」


 分厚い石造りの扉はしかし見た目に反し、抵抗なく、片手で音もなく開いた。

 中に入ると半円形の半径20m程の部屋が広がっていた。扉の裏はそのまま神殿の通路になっていたはずなのだが、扉を開ければ異空間につながる。ダンジョンとはこういうものらしい。

 半円を成す奥側の壁には古今東西の神話をモチーフにしているらしきステンドグラス。

 その全てが煌々と光を通し、色とりどりの透過光は奥寄りに設置された祭壇と、直径2mはあろうかという鉱物結晶に集約されている。自然にはあり得ない光の有りようが、神秘的な空気をいや増しに強める。

 入ってすぐにはミキに言われた通り、人ひとりが立てるほどの円形が、床のモザイクタイルの模様で記されていた。

 興味深そうにステンドグラスの図案を一つ一つ眺め、身を乗り出す紗雪を右手で軽く支え、進む。

 変化は円形の中央に立つとすぐに表れた。


 水晶とナオの中央の虚空からまばゆい光があふれ出し、部屋全体を包み込む。

 うっすらとした明るさが収まり始めると、続いて、光を発する純白の羽根がはらはらと、天井から舞い落ちる。

 幻想的な羽根の雪の舞いに見上げた視線を戻せば、初めにあふれ出た光の中央に、陽炎のようにおぼろげな、それでいて確かな高貴さを印象付ける、プラチナブロンドの女性の姿が浮かび上がっていた。

 美しい6枚の翼、輝きを放つ光輪を戴く姿はまさに天上の使い。

 清浄なる白金の盾と剣を身に着け、ドレスと鎧が一体化した美しくも厳格な装い。

 膝裏まで届くプラチナブロンドのストレートヘアをなびかせる冷厳たる乙女。

 空を滑るようにこちらへと寄る彼女の金色こんじきに輝く瞳。

 両腕を広げ、蕩けるような微笑とともにナオをかき抱かんとするも……するり、と儚くすり抜けてしまう。

 振り向くと、一転、涙をこらえ、振り向く乙女の姿。

 つい、と右腕が差し出され、今度は紗雪の頬に白魚のごとき繊細な指先がそっと添えられる。

 頷きを一つ。

 翼を広げると舞い踊るようにくるり、くるり、と髪を広げ、その身をゆっくりと回し、部屋の中央へ戻る。

 続く刹那、神々しい輝きは失われ、元のステンドグラス越しの光が照らす静かな室内中央には、先ほどの乙女と同じプラチナブロンドの髪を背に流し、左膝をたて跪く17前後の見た目のクールな美貌の少女の姿があった。

 金色の瞳で見つめる彼女

「貴方の盾、貴方の剣、ここに」

 その彼女の姿も薄らぎ、あとには空に浮かぶ1枚の、手のひらサイズのカードが残された。


 夢のように消えてしまった光景に圧倒され、しばし呆然としてしまったが、ようやく正気に戻りカードを見ると、金属質の素材でできた表面には先ほどの、金属縁取りされた鎧をドレスに重ねたいわゆるドレスアーマーを身にまとう少女の姿が。

 裏面にはステータスが刻印されている。


 =========================

 氏名:未設定

 種:架空体--天使

 称号:無し


 位階:0 <上限:無し>

 必要魂値:20


<能力値>

 HP(生命力) : 100

 MP(空想具現容量) : 40

 ATK(肉体基礎攻撃力) : 19

 DEF(肉体基礎耐久力) : 23

 IATK(空想具現能力 影響力) : 15

 IDEF(空想具現能力 耐性値) : 22

 INT(知性) : 20

 DEX(器用さ) : 26

 AGI(敏捷性) : 18


<特性>

 浮遊

<スキル>


<装備>

 鋼の剣×1、円盾×1、ドレスアーマー×一式

 =========================


「あらあらあら!綺麗な子ですね~。そして位階上限無しとは!」

「このあたりの細かいことは与えられている記憶には無いようで。教えていただけますか?」

「ええ、もちろんです。」


 伝えられた内容は以下のようなものであった

 ・キャラクターのカードは人類と同様、経験をもとに成長していく。ただし、その位階は到達限界が設けられており、6以上の上限は稀

 ・過去位階5に至った上限無しのカードがオークションにかけられたところ天井知らずの値が付いた

 ・この子が装備からして修めているであろう剣術、盾術等の技術は人類同様、スキルとはみなされず表記されない。あくまで、空想の具現化の産物たる特異な能力のみ表記される

 ・カードは他のカードを取り込むことでその性質(位階上限、能力、技術等)の継承、ならびに、装備を取り込むことが可能。ただし、スキルカードを取り込むことはできない。魔法などはあくまでその架空体自身が会得したものに限定される。


「ん~身体能力も人の2倍ほどはある上に、武装もあります。場合によっては、はじめのうちはこの子に戦闘はお任せして、資金をためてからご自身用の武器やスキルを購入された方が良いかもしれませんね」

「さすがに、それは……最低限の各種戦闘技術は基礎記憶として刷り込まれていますし、自身の成長のためにも武器は手にしておきたいですね。」

「わたしだって、役に立てるのよ? 忘れないでね?」

 静かにミキとナオの話を聞いていた紗雪が主張する


「そういえば、まだ紗雪さんの人形種としてのお力や、装備も確認していませんでしたね。せっかくここにいらしていただきましたし、こちらへ」

 続いて案内されたのは傍のまた別の小さめの扉だった。ロックを解除し、今度はミキも一緒に入る。

 ここもダンジョン空間となっているらしいが、内装は先ほどと異なり、シンプルな金属質の壁に簡易的なソファーと机が並んでいる、小規模会議スペースの寄せ集めのようなものだった。

「ここはダンジョン空間でのみ可能な、各種アイテムや装備品の具現化、あるいは逆に、ダンジョン外で制作されたアイテムのカード化を行う部屋の一つです。まず、紗雪さんの基礎データを確認しましょう。チョーカー端末がまだですので組合の登録データを呼び出しますね。」



 =========================

 氏名:紗雪

 種:人形種 ランク不明 作者未登録

<偽装登録情報:妖精種 / 異星体NWアクセス制限有>

 契約者:ナオ


 位階:0

 魂容量キャパシティー:無し


<能力値>

 HP(生命力) : 15

 MP(空想具現容量) : 80

 ATK(肉体基礎攻撃力) : 2

 DEF(肉体基礎耐久力) : 2

 IATK(空想具現能力 影響力) : 40

 IDEF(空想具現能力 耐性値) : 30

 INT(知性) : 35

 DEX(器用さ) : 8

 AGI(敏捷性) : 2


<特性>

 疑似魂核(魂値50)


<スキル>

 魔法--カード:初等呪歌 (20) *敵対する者へ呪詛をもたらす

 魔法--カード:初等聖歌 (20) *協調する者へ祝福をもたらす


<装備>

 ゴシックドレス (人形師工房 試作 02 - 疑似魂核搭載)×1式


<所持金>

 0Neuro

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「スキルカードによるスキルをすでにお持ちですね。それはそうと、人形師工房製のドレスですか、これは、これは」

「人形師工房?」

「数ある魂を宿す試みの中にあって、人形種を鍵としたアプローチを続ける集団。その最上位に座す一人の人形師には”人形作家”の称号が与えられています。彼女の率いる工房が”人形師工房”。多くの人形用品の中でも別格の逸品を手掛けられています。昨日のティーセットもこちらの工房の作品なのですよ」

 ”切れた操り糸が垂れさがる人形”のロゴか

「紗雪はそこの工房で生まれたの?」

「私の記憶は貴方と出会い、目覚めたあの時からのものしかないわ」

「ふむふむ。そうしますと、手掛けられた人形作家は登録情報がない以上不明になりますね。ただ、衣装は組合に紗雪さんが預けられた時にはお召しになっていましたので、市販されていないはずの”試作”のドレスという事からも、人形師工房の生まれでほぼ間違いないでしょう。どなたが生みの親かまではわかりませんが。では、ドレスについて、カードを具現化してみましょう。あ、安心してくださいね、あくまでカードの現出だけですので、実際のお召し物がカード化されてすっぽんぽんに!なんていうことにはなりません。お召し物をカード化したい場合はダンジョン内で、現出したカードに収納と意識してください」



 =========================

 名称:人形師工房 試作ドレス 02 - 疑似魂核搭載

 装備要件:専用装備-人形種”紗雪” / 能力値要件:無し


<特性>

 成長装備: 疑似魂核 (付与魂容量キャパシティー 50)

 自動洗浄/自動修復

 形状取り込み/形状切り替え

 人形体自動修復

 精密動作補助


<付与スキル>

 無し


<記憶形状>

 #1 ゴシックドレス (黒)

 #2 ネグリジェ (白)


<参照価格>

 算定不能

 =========================


 召喚室で手にした少女のキャラクターカードと同じ、手のひら大の金属質の素材でできたカードが紗雪の前の虚空に現れる。手に取ってみると、表面には紗雪が今着ているドレスのイラストが。裏面には上記のような情報が刻印されていた。


「これはまた~、すごい! 人形種は本来魂を持たず、故に生まれ持った能力以外通常持ちません。紗雪さんがスキルカードを取り込めていた事、ステータスにあった疑似魂核という言葉の謎は、このドレスのおかげなのですね。ダンジョンのモンスターから入手できる魂石が基本にある技術かしら? う~ん、謎ですね! それに成長に自動修復にって、最上級の装備が持つ特性てんこ盛り」

 立て板に水とばかりに次々説明してくれるミキ

「形状取り込みと切り替えは探索者の装備に組合でも付与可能です。取り込んでおいた装備に切り替えを行うのに加え、取り込まれた装備の能力を統合して、1つの装備として扱う探索者装備にほぼ必須の性質ですね。ただ、純粋な加算にはならないのですが。紗雪さん、せっかくですし、試してみませんか?」

「えぇ。良いわよ? ん~こう、かしら?」

 ペタペタとドレスを触ってみたり、背中側をのぞき込んだりした後、ふと瞳を閉じ口元に指を当て、考え込むように集中する

 どうやら正解だった模様で、ドレスが淡い輝きに包まれ……

「きゃ、きゃぁ~~///」

 今まで服に隠されていた球体関節、つつましやかながらも、しっかりと存在を主張する胸元を包み込む黒いレースのブラジャー。膝の上に乗る白い薄手の夜着のおかげで下半身は隠れているものの、透けるような美しい肌があらわとなり、大慌て。

 徐々に桜色に色づく首筋の艶やかなことといったら。

「み、見ないでぇ……」

 顔を覆って俯かれてしまった。


 ミキさんはまるでそうなると知っていたように、というか知っていたのだろう。

 そそくさと、今はまだだれもいない部屋の入口へ駆け寄ると、ロックを掛けていた。

「ナオさん、服を、服を着せてあげてください!」

 顔を背け目を閉じ、固まっているナオに指示が飛ぶ。

「あの、ね。あのね、指が、うまく動かない、の」

 薄目で見やれば膝の上のネグリジェを広げようとする紗雪の動きがぎこちなく、うまく布地をつかめずにいる。

「おそらくドレスの精密動作補助という特性が、本来細かな動作を得意とせずかつ、非力な人形種の動きを補助してくれていたのだと思います。装備が脱げたことでその動作補助が切れてしまったのでしょう」

 言われ腹をくくり、抱えていた左腕からソファーに座らせると、過度の辱めを与えぬよう気を付けながらぎこちなく薄衣を紗雪にまとわせていく。

 頭からかぶせる……それだと髪が乱れてしまう。胸元のボタンを少し開いて、足元から。

 繊細な足先が左、右、そっとゆっくりと押される。玉のような肌を通り過ぎるシルク地の柔らかな感触がこそばゆかったか

「ひゃぅ」

 小さく紗雪の口から声が漏れる。

 そっと背中に手を添え、軽く体を持ち上げてあげるとするりと、ネグリジェを胸元まで引き上げる。

 腕を片方ずつ、そっと捧げるように持ち上げ、袖に通してあげる。

 ボタンを留め、着替えが終わるとようやく落ち着き、また、動きも戻ったのか胸元を両腕で隠しながら

「ありがとう///」

 辛うじて耳に届く声で囁かれるお礼

「い、いや、そんな」


「う~ん、初々しいところ大変言いにくいのですが、これはあれですね~装備の見た目切り替えのたびに脱げてしまい、精密動作補助の機能が切れる。すると、紗雪さんは都度ご自身でお着換えができなくなるので、ナオさんが着せてあげないといけない。ということですかね~」

「それはほら、ミキさんや、女性に手を借りるとか」

「ん~。紗雪さん?」

「いやぁ、なの。ナオが、いいの」

 ご指名をいただいてしまった。

「私に触れていいのは、貴方だけ、なの」

 なんと嬉しいお言葉か。


「と、いうことのようなのでナオさん、お覚悟を。まあ、それに、先ほどのお姿を拝見するに私はともかく、球体関節で妖精種ではないとバレバレなので、人目につくところでの着替えや、機密非開示の探索者の手は借りられませんね。今後着替えるドレスでも関節が見えるものは避けるか、うまく装飾品等で隠すようにした方が良いです。あ、探索活動の映像記録で異星体の皆様に人形種の特徴が見える分には一切問題ありません。あくまで人類に対する機密というレベルですので。そういう意味では~せっかく麗しいお姿に着替えていただきましたが、いったん今は元のドレスに戻していただいた方が良いですね。この後組合に戻れば人類の目に触れますので」

 かくて、再度輝きに包まれた紗雪と、嬉し恥ずかしなお時間に再突入するのであった。

 不慣れなドレスの着替え先ほどの倍以上の時間がかかり、紗雪もナオもゆでだこのように真っ赤になっていた。


 なぜか嬉しそうなミキに率いられ部屋を出たナオと紗雪は、耳の先まで恥じらいの色も治まるところ知らず、あわあわしたままであったとかなかったとか。

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