ハリソンの手紙・3

 拝啓 ライラ・クライン様。




 まずはこの手紙が、無事に君のもとに届いたことを喜ばしく思う。


 おそらくはもう君の耳にも届いていることだろう。


 革命が起き、我が国の王政が崩壊したことを。


 事ここに至った以上、君とクライン公爵に謝罪する機会は今をおいて他になく、本当のことを打ち明ける機会もまた今をおいて他にないので、この場を借りて、君との婚約を破棄した理由と、クライン家の領地を接収し、国外追放した理由を打ち明けようと思う。


 実のところ、水面下で革命の機運がもう止められないところまできていたことは、君との婚約を破棄する以前から掴んでいた。


 事実、我が父である国王は革命の芽を潰すために、ありとあらゆる手を打ったが全て失敗に終わり、革命の炎に薪をくべるだけの結果に終わってしまった。


 その時点で父と母はいつでも国外に逃亡できるよう手筈を整えていたが、そんなことをすれば父の圧制に苦しんでいた民衆たちの怒りを余計に燃え上がらせることは必至。


 今やすっかり堕落してしまった王国軍では、民衆の怒りに抗することなどできるはずもなく、余計な血が流れることになるだろう。


 ゆえに私は、生贄が必要だと考えた。


 民衆にとっては国王の首の次に価値がある、第一王子の首という生贄が。


 私の首を民衆に差し出すとなると、私の婚約者である君もただではすまない。


 だから私は、君との婚約を一方的に破棄し、私から遠ざけることにした。


 だが、それだけでは足りない。


 ウリザーグ王国屈指の名家であるクライン家は、民衆にとってウリザーグ王族の次に許されざる存在だ。


 婚約を破棄しただけでは君の安全を確保することができない。


 ゆえに、ありもしない罪をクライン家になすり付け、領地を接収し、国外に追放した。


 こうする以外に手がなかったとはいえ、君とクライン公爵には申し訳ないことをしたと思っている。


 本当にすまなかった。


 しかし人生というものは、ままならないものだな。


 民が飢えて死のうが重税を課す父のやり方は、息子である私から見てもやりすぎだと思った。


 だから私が王位を継いだ暁には、民のためになる政を行おうと心に誓ったが、現実はご覧のとおりだ。


 父を恐れることなく苦言を呈していれば、あるいは違った未来があったのかもしれないが、今さら言ったところで詮無きこと。つまらぬ愚痴にすぎない。


 そうとわかっていても吐き出してしまったのは、私の弱さのせいだろう。


 少々長くなってしまったが、最後にこれだけは言わせてくれ。


「愛している」と言ったことも、「君がいないと生きていない」と言ったことも、嘘偽りのない私の本心だ。


 それだけは信じてほしい。


 私にとってこの世で最も大切な存在は、君だ。


 だから祈る。


 君が平穏無事に生を全うできることを。


 ライラ。


 愛している。


 誰よりも。


 何よりも。




 ハリソン・ミラ・ウリザーグより。

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