第23話 三人で飲み会

「「「うぇぇーーーい!! かんぱぁぁーーーいッ!!」」」


 そして、場面は居酒屋『床の丸』に移り変わり。

 見事に兵藤さんからの呪縛から解放され、ようやく店の中についた俺達三人組。


 本当であれば疲れた体を癒すために速攻帰って寝るのがセオリーだが、今日は別腹だ。


 最近は家の酒しか飲んでいなかったからな。

 たまには思う存分、外で飲み耽るのも良いだろう。


 それに、ここはどうやら朝方まで営業しているらしい。

 Barでの営業終了時間が遅いため、他の店はもう閉店しているのではないかと心配していたが……。


 仲森君が良い店を紹介してくれたおかげでその懸念は無さそうだ。


 ふ。やはり持つべきものは良い友達だな。うん。


 って。そう言っているうちに二人とも。

 も、もうおかわりを――。


 く、ここは俺も出遅れるわけにはいかない。

 この三人で一緒に酒を飲む機会はあまり無かったからな。


 今日ぐらいはいいだろう。今日ぐらいは。


「ほんぬ……良い飲みっぷりじゃな斎藤殿」

「お、おう。そういう金田君こそ、この前よりも勢いが凄くないか?」

「ふ、我はこの前。禁酒という名の地獄の期間を味わったからナ……。それを乗り越えた今、最高に気分が良いのでござる」

「な、なるほど……。君も苦労しているんだな。色々と」


 そういえば、金田君にはお姉さんがいるとか言っていたような……。

 なんでも、生活習慣には厳しいから本人も怠惰な生活は出来ないとかなんだとか。


 まあ、それにしては体の周りがちょっとタプンタプンすぎるような気もするけど……

 うん。これについてはあまり深く追及しないようにしておこう。


 彼もこの頃、何かしらストレスが溜まっているらしいからな。

 かくいう俺も、同じような状況であるといえばそうなのだが。


「さあさあ! パイセン達! 今日は俺の奢りですからじゃんじゃん飲んじゃってくださいッス!」

「え、良いのか仲森君? ここは俺と金田君が持つつもりだったのに」

「いいんスよそんな水臭いことは言わなくても! もうオレには失うもんが無いんでねっ!」

「え、ちょ、ちょっと仲森君。それは一体どういう――」


 そう俺が聞く前に、グビグビと喉を鳴らしながらビールを飲む彼。


 どうやら、酒のせいで余計に気分が高揚しているらしい。

 もう既に顔も火照っているし……。


 あれ、もう飲み会開始してからまだそんなに時間経っていないよな。

 これ、ちょっと度数強すぎないか。


 俺もまあまあ酒には強いはずなのに、既に頭がクラクラし始めているし。


「フム、どうやら今日の仲森殿は一味違うようでござるな? フフフ……一体何があったでござる?」

「お、やっぱりパイセン達には分かっちゃいますか……えへへ。やっぱり誤魔化すのは難しいっスね。こればかりは」

「い、いやいや。先週はあんなに元気無かったのに急にこんな明るくなるなんておかしいだろ?」

「まあそうっすよねぇ……。まずはどこから話したらいいものか」


 そう言いながら、勿体ぶって中々話さない仲森君。

 何だろう……このムズムズ感。


 酒が入っている影響もあるせいか、余計に真実を知りたくなってしまう。


「要するに……アレじゃろ。パチスロで当たったのでござろう?」

「いやー。確かにそれはそれで嬉しいかもしれないですけど、違うんスよぉー金田パイセン。もうここで結論から言っちゃいますけど……実はオレ、昨日からカノジョが出来まして」

「――ッ!? ナ、ナン……ダト? あの仲森殿に……オンナ? カノジョ?」

「そうなんスよぉー。実はこの子、結構大人しい子なんですけどー。あ、写真見るっスか?」

「お、おう。気になるから見せてくれ」

「カノジョ……アノナカモリドノニ……カノジョ……」


 なんか隣ですごいショックを受けている人がいるらしいが……一先ずは彼の話を聞くことにしよう。


 しかし、あの仲森君にもついに春が来たか。

 もう今の時期は秋だけど。


「なるほど……。それで、この子とはどこで仲良くなったんだ?」

「三か月くらい前に、自分の友達から合コンに誘われてそこからって感じっスかね」

「ほほー。見る感じ、結構真面目そうな気がするけど」

「えへへ……それがオレと居る時は結構デレデレなんですよぉー。そこのギャップがたまらないというかー」

「そ、そんなに変わるものなのか……? なんかちょっと不気味すぎて怖いような……」

「もーッ! 斎藤パイセンは女を怖がりすぎッスよー! それにオレ、昨日休養日だったじゃないスか。それでカノジョ……からデートに誘われて……ウへへへへ」


 そうしてまた酒をガブガブ飲み始めてベロンベロンになる仲森君。


 な、なるほど。

 これがまさに幸福度絶頂ってやつか……。


 お、男って彼女が出来るとこんなにキャラが変わるものなんだな。

 自分にはちょっとよく分からないが……。


 うん。とりあえず仲森君にはおめでとうと言っておこう。

 これからもその彼女さんと一緒に末永く、幸せになれるように祈って――。


「カノジョ……オンナ……ウボボボボボボ」

「え、ちょ。金田君ッ!? そんな真っ青な顔してどうし――って、ああ、ヤバいっ! て、店長! 嘔吐用袋をすぐ持ってきてくれッ!」

「さ、斎藤殿……拙者。も、もう無理でござる……限界でござる……ウプッ。カノジョ……オンナ……」

「か、金田君。君は過去に女性と何があったんだ……」


 まあ、俺もこういう類の話は苦手ではあるが――。


 そ、それにしても金田君。

 そこまで仲森君に彼女が出来たことがショックだったのか。


 確かに、ずっと働いていた人が急に前に進んじゃうと落ち込む気持ちはよく分かるけどな。


 でも大丈夫だぞ、金田君。

 俺も生涯独身って決めているからな。


 決して君を仲間外れなんかにはさせまい。絶対にな。


「さ、斎藤殿……。た、助かった。お主が居なかったら我は……」

「ふ。安心してくれ金田君。俺と君は一心同体だろう? このぐらい当たり前さ」

「さ、斎藤殿ぉーーーーッ!!」



 しかし、向かい側の仲森君は既にぐっすり寝てるな……。


 これ、二人とも家まで介助コース確定だな……。





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