第14話 影山蜜柑

「だからさ、蜜柑。この後、俺とデートしようぜ? な?」

「ふふ。だからー、私は行かないってさっきから言ってるじゃないですかー。 耳が聞こえないなら耳鼻科に行った方が良いですよー、


 はあ……もう疲れた。

 今、やっとリハーサルが終わったばかりだというのにすぐこれだ。

 ほんとやめてほしい。


 こっちもこうして仮面被るだけで大変なんだから……。

 嫌がってるの分かりなさいよ。


 というか、この男。

 顔はカッコいいくせに中身が全然……。


 芸能界の中ではトップクラスの実力者のくせして、裏では女癖が悪いって聞くし。


 挙句の果てに、こんな人と来週まで共演しないといけないとか、まじありえないし。


 あーもう。

 ほんっと最悪。


 まあ、こういう大きな舞台でと話せるだけで、舞い上がっちゃうのは仕方ないのかもしれないけど……。


 でも。

 初めて会った時から蜜柑の体ばっかり……。

 ほんと気持ち悪い。


 これ、たまたま違う事務所だから良かったものの、ここ数か月間は毎日顔合わしてるし……。

 蜜柑の身にもなってみなさいよ。

 ほんとイライラするんだから。


 まあ、日本の中で最大の大手事務所に所属して演技も上手なわけだから、周囲の女子からモテる理由は何となくわかるけど……。


 はあ。

 でも、こんなことになるなら最初から関わらなければ良かったなー。


 うん。蜜柑にしては、ちょっと珍しく失敗だったかも。


「またまたぁー。そんな嫌そうな顔して、本当は照れてるんだろー? クク、大丈夫大丈夫。お前もと同じ、ツンデレなのは分かってるんだからさぁー?」

「蜜柑と彩夏先輩を一緒にしないでほしいなあ……。というか、秀太先輩にたいしてデレるとか、1ミクロンも無いですから。はっきり言ってウザいです」

「ククク、だから照れんなって。お前もアイツも、同じような反応してたからな。内心は俺の事が好きで好きで仕方ないんだろ? ったく、モテる男はツラいわぁー」

「だーかーら、違いますってー。ちょっといい加減にしてもらっていいですかーっ?」


 ほんとバカじゃないの……この人。

 そういうのを、自意識過剰だっつってんの。


 ってか、あんたは彩夏先輩にだけ愛を注ぎなさいよ。


 蜜柑はまだ、これからも用事があるんだから。

 邪魔しないでよ。もう。


 はぁ。

 これ、来週の本番まで私、耐えられるのかな……。


 そういえば……は今どこにいるんだろ。

 もうあれから半年ぐらい会ってないし……。


 まあ。

 当初、初めて知り合った時は彩夏先輩と同じ、『敵』としてしか見てなかったけど。


 それでも、知らず知らずのうちに私の方からしつこく絡むようになったんだっけ。


 べ、別に蜜柑があの先輩のことを好きだからってわけじゃないけどっ。

 ただ、なんとなくあの彩夏先輩の傍にずっとしがみついてるのが気に入らないってだけで……。


 ふん。なによ。

 私が近づいたら……全力疾走で逃げちゃうし。


 だからって、あんなに鼻の下のばして……デレデレしちゃってさ……。


 ほんと、気に入らない先輩……。

 蜜柑の方が数千倍可愛いってのに。


 どうしてこっちには振り向かないのよ……。

 どう考えても頭おかしいわよ。絶対。


 あーもう。なんかイライラしてきた。


 ってか、あの人……こっちの事務所による情報だと、まだ見つかっていないらしいのよね……。

 一体、どこをほっつきまわってるんだか。


 彩夏先輩とはこの前……二ヶ月前ぐらいに一回会ってるけど。


 その時にあの人のことを聞いてみたら、なんか超不機嫌になってたし。


 まあ、その時点で蜜柑も察しちゃったけど……。


 やっぱり、

 前から思ってたんだけど、どこか胡散臭いのよね……。


 いくら大手だからって、そんなミスはあまりしないとは思うけど。


 でもなんかおかしい……。


 だって、あの先輩。

 あの国民的芸能人である彩夏先輩の元で六年近くもマネージャーをやってたぐらいなんだから……相当信頼されてたはずだし。


 何より、彩夏先輩の方も本人が居ないところではあの人のことすごく自慢してたぐらいだったから……。


 はあ……もうわけわかんない。

 考えれば考えるだけ、頭が痛くなっちゃう。


 って、あ。

 秀太先輩の取り巻きの女たちだ。


 いつもはウザいと思ってたけど……このタイミングで来てくれたことは感謝ね。

 心の中でお礼だけは言っておくわ。


「秀太くーんっ!! 私達と一緒にこの後飲みに行こー!!」

「キャー!! 今日もまじカッコよすぎるんだけどー! え? ちょっとやばすぎじゃない!?」

「ちょっと何言ってるのあなた達!! 今日は私と秀太君が夜を過ごすって言ったじゃない!」

「それを言うならウチだってぇー! 横取りは反則よ! 反則!!」


「ったく……おいおい、お前ら。そんなこと言ったって、俺は一人しかいないんだからよぉ? とりま、ちゃんと今日の夜、相手してやるからまずは落ち着けって。な?」


 はあ……ほんと。

 顔と胸とお尻ばっか……スケベクソ野郎ね。こいつ。


 死ねば良いのに。


 って、あ。

 なんかメールが来てる……。


 一体、誰からだろ。


 って、え? 

 う、嘘……。


 あ、の居場所が……!?


 え。ちょ、ちょっと待ってよ。

 だ、だって、もうかと思ってちょっと諦めかけていたのに。


 しかも、半年よ? 

 ちょ、ちょっと長かったとはいえ……蜜柑の事務所、優秀すぎじゃない?


 って、そ、そんなことよりも一体、どういうこと?


 な、なんで。どうやってそんな彼の場所が……。


 しょ、詳細……。詳細は無いの……?

 というか、いくらなんでも急すぎ……。


 で、でもこれ……他の所にバレたら多分、大騒ぎよね。

 う、うん。これは国家機密レベルの情報。


 そう。ぜ、絶対に誰にも漏らしちゃいけないわよこんなの。


 も、もしこのことを彩夏先輩が知ったら……大変なことになるし。絶対に。


 うん。ダメ。絶対にダメ。


「お、おいおい。蜜柑。どこに行くつもりなんだ?」

「ふふっ。すみません秀太先輩。ちょっと急用が入っちゃったから無理です。来週の本番も頑張りましょうね。それではこれで失礼しますっ」

「ちょ、ま、待てよ。そんな急に帰らなくても――」



 ふふ。なーんか面白いことになってきちゃったっ。


 最初の情報は、他の事務所に異動したんじゃないかって話だったけど……見事にフェイクだったし。


 うん。でもやっぱり、こうなる運命だったのね。


 今度こそ。

 あの先輩を服従させるのはこの蜜柑こそ、ふさわしいんだから……。


 彩夏先輩には悪いけど……とことん利用させてもらう分には許してくれるよねっ♪



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