第10話 波乱の日々
や、やべえ。
背中の筋肉が痛すぎて辛い……。
昨日までは別に何ともなかったのに、朝起きてからの、この全身が焼き付けられるような痛みは一体なんなんだ。
というか、マスターがいなくなってからまだ二日目だというのに、この全身の疲労感。
く、まじできつい。
昨日の開店前にやった大掃除で体力を全部持っていかれたし……。
って、まさかとは思うけど、アレを今日もやるわけじゃないよな……?
ただ最初だからってことで、俺たちの気を引き締めるためにやったんだよな。
う、うん。そういうことにしておこう。
そうじゃないとこれ、どこかで体がぶっ倒れるぞ。確実に。
それに、最後の閉店間際には既に金田君も仲森君も死人みたいな顔をしていたからな。
あの人が皆に怖がられている理由がちょっとだけだけど、何となく分かった気がする……。
でも兵藤さん。
流石、マスターの知り合いだけあってお客さんの反応もすごく良かったな。
昨日は常連客も何人か来て、マスターの不在に驚いた人も居たけど。
意外にも客の表情からして評判も上々だったし。
前に勤務していたBarで培ってきた技術というものはやはり侮れないな。
まあ、こういう店は従業員さえ確保できていれば何とかなるものだが、マスターと同等に凄い人が現れたのは心強いものだ。
自分も、これからどんどん良い所は吸収していこう、うん。
良い所は、だけどな。
「ご、ゴホゴホっ。も、もう拙者、初日でキツいでござる……もう今日からは無理でござる……ッ!」
「だ、大丈夫か金田君。目の下に隈が出来てるけど……その調子だと昨日はちゃんと眠れなかったみたいだな」
「さ、斎藤殿。わ、我は自分のことよりもお主の方が心配でござる。あ、あの鬼畜女は昔からやることなすこと容赦ないでござるからな……! そ、それに、昨日の拙者はもう床に着く前から疲弊していたでござるぞ……!」
「ふ、大丈夫さ金田君。俺も今は全身が悲鳴上げるくらい痛いけど、そこまで心配することは無い。これもきっと、修行の道だからな。きっと、お互いに良い未来が待ってるさ」
「さ、斎藤殿……お主というやつは……!!」
そうして開店前のBarで下準備をしている俺たちは、裏方でヒソヒソと話し合いながらお互いの心の傷を舐め合う。
うん。やっぱり仲間って大事だよな。
俺、もし金田君がここにいなかったら多分きっと、どっかで挫折してたと思うわ。絶対に。
良い仕事仲間が出来て俺ってほんと幸せ者だな。うん。
芸能界にいた頃も、仲間は居たっちゃ居たけど……ここまで心が通じ合える人って中々居なかったし。
ふ、でもこいつとなら長くやっていけそうな気がする。
「あ、ところで金田君。前から気になってたことがあったんだけど、兵藤さんとここで働くのって過去にもあったんだよな?」
「う、うむ……。その時もマスターが海外出張に行ってる時だったでござるな。我と仲森君と、ベテラン君の三人がいて……最初の一週間は全然良かったのだが……ウッ、思い出しただけで吐き気がしてきたでござる……!」
「す、すまんすまん。決して悪気は無いんだ。ただ、兵藤さんと何があったのかなって思ってさ。まあでも、やっぱこれ以上は止めとくよ」
「す、すまぬな……。だ、だが、お主もきっといつか分かる時が来るでござるよ。まだ二日目でござるしな……」
「ま、まじか……。そう言われるとなんか超不安になってくるな……」
え、ってことはつまり、二週目からが本番ってことなのか?
普段から明るいこの金田君が精神を病むほどの何かがある……く、全然想像つかねえ。
そう考えるとなんか俺も冷や汗が出てくるな。
ま、まあそれほどやばいってことだろうから、今の内から覚悟を決めておかないといけないんだろうけど。
「せ、拙者。ちょっとお腹が痛くなってきたからトイレに行ってくるでござる……」
「お、おう……分かった。一応胃薬持ってるから、ここに置いとくぞ?」
「く、た、助かる……」
まあ、いずれにせよ、今日も目の前の仕事に全力でやるしか無いってことだよな。
く、波乱の日々が続きそうだが、何とかするしかねえ……!
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