第8話 大掃除指令
ほう……? 斎藤大介、か……。
くくく、まったく。面白いヤツが現れたもんだ。
たかが新人が、この私の最初の指示をほぼ完璧にこなすとは……。
ふ、中々やるじゃないか。
流石、あのマスター……、いや、おっさんが評価していただけのことはあるな。
コイツは接客業だけしか取り柄の無い男かと勝手に勘違いしていたが……ふふ、どうやらそんなことは無さそうだ。フフフ。
それに比べて、金田と仲森の奴ら。
お前たち、何でもうそんなにへばりついているんだ?
みっともないぞ。ほんとに。
ん? しかも、二人とも目の下に隈ができているな……。
昨日、睡眠をしっかり取ったのだろうか……あ、わかったぞ。
きっと、今日私がここに来ることを知って、嬉しくて眠れなかったんだな。
くくく、なるほど。そういうことか。
まったく、嬉しいな。
あんな反抗的だったお前たちが、この私に……フフフフ。
なら、目を覚まさせるためにもっと過激なことをやらせないとな。くくく。
「おい、金田と仲森。そこで手を休めて何をしている? 三秒後に動かなかったら、そこのバケツの水で頭からぶっかけるぞ? ん?」
「「ひ、ヒイィィィィィッッ!? す、すみませんでござる(ッス)!!」」
ん? なんか急に元気になったようだな……?
ふ、なんだ。やればできるじゃないか。
あの動きの鈍い金田もテキパキ雑巾掛けしているし。
クク。やはりこの光景は何度見ても飽きないものだな。フフフ。
ん? ところで、最初の指示は何だって?
ふ。そんなの、大掃除に決まっているだろう?
あのオッサン。昔からこういうことをやるのを嫌う性格だったからな。
酒造りや人格は立派な一人前だが……くく、あの人も完璧じゃないということだ。
ま、とりあえず今日は早めにコイツらを招集させて、ここの店をピカピカに綺麗にするところからだ。
客が入る時にまず見るのは、店がどれだけ綺麗かどうかだからな。
これはどの店にも言えることだが、例えば飲食店。
居酒屋でも何にしろ、料理や酒が美味くても汚い場所だったら普通に嫌だろ?
客が「次もここに来たい」と思わせるためにはまず、店の外見から配慮しなければならない。
最近の若者はそこを分かっていないヤツが多すぎるからな。
くく。とにかく、私が来たからには毎日綺麗に掃除させることを徹底させないと。
「あ、あの、兵藤さん……。こっちはもう終わったんですが、次は何を……?」
「ほう? もう終わったのか。なら、金田達の手伝いをしてくれ。あいつら、少々へばってきてるからな」
「は、ハイ! 了解しました!」
ふむ……やはりこの男。
まだ出会って一時間しか見ていないが、中々の身体能力があるな。
ほこりの一つも残さず、加えてこの私が思わず見惚れてしまう程の手際の良さ。
履歴書を見る限り、どうやらこいつは芸能界でマネージャーをやっていたらしいが……くく、まあアイツにも何かしらの苦労があったんだろうな。
そういった意味ではこの私と同類の人間なのかもしれんし……ふ、これからちょっとは仲良く出来そうな感じだと良いな。
きっと。フフフ。
しかし……この芸能事務所。
どの人でも知ってるあの有名な所じゃないか……。
まあ、私は芸能界のことなんざ、反吐が出るくらい興味は湧かないが。
彼がそこでどのような仕事して、どのような技術を磨いてきたのか。
ふ、それについては少し関心はあるな。
まあいい。今日から一か月間、たっぷりと時間があるからな。
その内、追々と知ることになるだろうさ。フフ。
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