第3話 妹の独白
ここで少し昔話をしよう。
私がお兄ちゃんのことを『兄貴』と呼び始めたのは中学に入ってからだった。
その時はアイツも高校生で、男友達とばっか遊んでたからだろうか。
私と過ごす時間が減ってしまったのはちょっと頂けない、と思ってしまった。
べ、別に嫉妬とかそういうのじゃないけど。
ちょっとぐらい、私の相手してくれても良いじゃん?
寂しいし……何より構って欲しいし。
でも、確かあの時。兄貴はよく門限過ぎててママに超怒られてたっけ。
まあ、今となっては笑える話だけど。
それでも私はまだ兄妹の許容範囲という域を超えてまで、あいつのことを執拗に知ろうだなんて思わなかった。
長年、同じ屋根の下で過ごす相手でも知らないことなんていっぱいあるし。
でもそれは、アイツがあの女狐のマネージャーになるまでの話。
普段、女っ気が無かった兄貴が突然、変わり始めたのだ。
そんなのって普通ありえないと思うじゃん。
だって高校卒業するまで男としか付き合わなかった兄貴が、あんな毎回ドラマとかCMとかに出てる有名な人と関わってるんだよ?
まじ今でも信じられないし。考えられないもん。
もちろん、兄貴が頑張ってる姿は陰ながらに見てたけど。
それでもちょっと、納得いかない部分がある。
私の知らない兄貴のことをあの人が独占しているんじゃないかって思うと。
なんか、さ……。
心がモヤモヤするっていうか、気分が晴れないっていうか。
兄貴曰く、「いや、あいつ超性格悪いから。まーじで誰か俺の代わりにマネージャーやってくれるやつ、いねーかな」とかなんとか、毎回愚痴こぼして言ってたけど。
それを聞いても私はあまり信用することができなかった。
だって、この世界でアイツの良さを一番知ってるのは私だけだし。
でも、ずっと長く関わってたら絶対、誰かが惚れるのも時間の問題であることは確実。
むしろ、今までアイツが女性に近寄られなかったことが奇跡なぐらいだ。
まあ、顔はそこまでイケメンじゃないし、口が悪い部分も多少あるけど。
でも、本当は根は優しくて。
だからこそ、いくらお堅い芸能人とはいえ、心を許す瞬間というものは必ずある。
はぁ、私ってば。女の勘ってやつを持ってるから分かっちゃうのよね。
案外、表舞台で男気が無いヤツほど裏ではめちゃくちゃあるから。
もう。ほんと危険。
うん。絶対にもう関わらせちゃダメね。あれは。
けど、半年前。
一つの転機があった。
それは兄貴があの事務所をクビになったこと。
それによって、アイツは芸能界という世界から離れることができたのだ。
そこに関しては、普通の人だったら悲しむだろうけど。
でも私は嬉しかった。
私の大事なお兄ちゃんがこっちに戻ってきてくれたことが何よりも嬉しいのだ。
あんな何を考えているか分からない女狐に、私の兄貴が相手だなんてふさわしくないのは当然の話。
だから今、あの人にとって兄貴を失ったこと。
きっと後悔しているに違いないわよね。
ふん、いい気味よ。
これからも一生、周りからもてはやされる人物で居なさいよ。
どーせ、裏ではストレスばっか溜まって全部兄貴にぶつけてきたのは知ってるんだから。
こっちはむしろ、清々しいくらい気持ち良いわ。
……でも、それを言うなら私も同類じゃないか、と感じる時は多々ある。
年がそんなに離れてないからよくケンカしたこともあったけど、そのほとんどの原因は私からだった。
だから今も昔も、私を例えるとするならば。
それはおそらく、小型の肉食動物。
草食だと動物に食われてしまうから、自身が肉食にならなければならない。
そう思ったのは物心がついた時からだ。
特に幼少期ではよくお風呂に一緒に入って遊んでたりもした。
だけど、いくら家族とはいえ、身体が大きくなってからはそうもいかない。
ある一線を超えちゃダメなのは重々理解している。それは分かる。
しかし、納得することはできない。
なぜか、なんてことは他の良心がある人に聞いてほしい。
いつも甘えてばかりじゃダメ、なんてことは当時の自分に言い聞かせてやりたかったけど……。
でも、そんなのは無理だった。
だって、今でも私。
頑固でずる賢い、お兄ちゃんっ子なのだから。
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