第134話 ホテリ陥落



「問題は、オークとコボルドの後ろに控え、指揮をしている魔族だ。それを俺が片付ける」

「そんなことができるのか」


「やらねば、ならないだろう」

「できるなら、まだ、手はありそうだな」


「少なくとも魔族が使っている2種の魔道具は無効化するし、この城から北へは、敵を侵入させない。だから逃げる準備を勧めてくれ。住民だけじゃない。兵士もだ。俺も犬神に滅んでもらっては困る理由ができた。一兵でも多く生き延びてほしい。もちろん赤ん坊もだ」

「追撃させないということか。ほんとに。信頼していいのか」


「信頼しろ」


 シズカは俺を怖いぐらいに睨みつけた。それはそうだろう。この作戦が失敗したら、全滅の恐れもある。一族の運命がかかっているのだから。俺もシズカから目をそらさなかった。


「わかった。サヘイ。もう一度軍議を開く。皆を集めろ」


 シズカの後ろに控えていた男がもと来た方向に走り去った。アサカが盗み見るように俺を見た。


「心配ない。必ず仕事はやり遂げる。おまえさんも、絶対に生き残れ」

「わかった。頼む」


 俺は、再び鳥にヘンゲして空に舞い上がった。飛び上がってから後悔した。ああ、なんてことを口走ったのだ。冷静に考えれば、魔族と俺が直接戦うということじゃないか。


 やらなければならないが、どうにか、俺がカーバンクルである事は隠し通さねば。


 俺は、一旦冷静になるために、天守閣の一番高いところに止まり、戦場を千里眼で観察した。


 まずは、地震を止めたいところだが、それらしき魔族の姿が見当たらない。


 トロール戦線では、魔族は最後尾で天幕を貼って戦線を指揮していたが、この戦線では、城を中心に扇形に広がっていて、最後尾がどこだか見当もつかなかった。こんなことならアサカも連れてくればよかった。地震を起こしているのだから、そんな後ろに控えているわけはないだろうと思うのだが。


 角笛が鳴った。


 しかたない、まずはあの角笛を止めよう。音の出どころは反響定位ですぐに判明した。城の南西のこんもりとした林の中だ。


 音源を目指して一直線に向かった。


 林の中には、他のオークやコボルドよりも一回り大きな体格のオークとコボルドが木と木の隙間を埋めるように配置されていた。


 きっと精鋭部隊なのだろう。角笛を聞いているはずなのに狂っているようにはみえない。耳栓かなにかをしているのか、それとも無効化する方法があるのだろうか。


 大城を振り返ると、思ったよりも近くに城壁が見えた。


 次の角笛が鳴った。


 近くで聞くとかなりの大音量で、不覚にも目を回して木の枝から落ちてしまった。


 そこは、ちょうどオークの足元で、オークが俺を鷲掴みした。


 オークが大きな口を開けた。食べられる。とっさに俺は、そのオークをカクホしてしまった。


 すると、突然、仲間が目の前から消えたことで、林の中に一瞬で緊張が広がってしまった。


 まったく余計なことをした。


「その鳥が怪しい」


 何者かが叫んだ。

 しかし、こうなってはモンスター達の目を気にしてもしかたない。俺は、ハエにヘンゲして逃げだした。


「化けたぞ。ハエに化けたぞ」


 いちいち報告せんでよろしい。コボルドたちは耳がいいのか、俺の羽音を聞きつけ執拗に追ってきた。


 俺は、小鳥にヘンゲし、木の上に出た。今度は、弓矢が俺を襲った。かすり傷さえ致命傷になりうる。慎重に矢を避けながらノミ、ハエ、ハチ、小鳥とこまめにヘンゲを繰り返した。


 最終的に、ノミにヘンゲして、オークの頭の上に落ち着いた。そして、そのオークが俺を魔族の前まで連れて行ってくれた。


「どうした。敵か」


 褐色の肌の鬼のような顔をした魔族が羽を広げた。魔族といっても色々種類というか人種というか、がいるものだ。


「はい。警備のオークが空から降ってきた鳥に触ったところ、こつ然と消えました」

「何?」


 俺は、頭の上から飛び降りて、カクホできる間合いに入り、その魔族を個別カクホした。

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魔族

別格

特記事項 なし

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ーーーーーーーーーー

狂乱の角笛

伝説品

特記事項 狂戦士化

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 突然目の前から魔族が消えたので報告していたオークは、腰をぬかした。我ながら、恐ろしいことをする。


 だが、ノビリと構えてられない。城が陥落してしまう前にもう一方の魔族も無力化しなければならない。


 オークが大声で助けを呼んだ。次々と、仲間が集まってきた。俺は、その場所から急いで離れ、木の上に登った。


 さて、次はどうするべきか。林から一人のコボルドが城の方にむけて駆けていった。俺は、しばらく囮や罠の可能性を考慮してじっと待った。


 千里眼を使わなければならないほど距離が離れた。その間、林の中からは、別の方向に走り出す者や、誰かに連絡を取ろうとする者もいなかった。


 俺は、林から抜け出したコボルドの後を追うことにした。コボルドの後を追い、攻略されている城壁まで戻ってくると、戦況はすこし膠着状態に陥ってた。


 角笛がなくなったことによって多くのオークやコボルドが正気に戻ったようだ。自分たちの足元に積み重なっている一族の死体に、多少なりとも恐怖心が湧き上がってきたのだろう。


 伝令に出たと思しきコボルドは、城壁と東側を流れる川の中間地点に向かっていた。俺は、まだほとんど攻略されていない東北側の城壁の上に止まり、じっと観察した。


 コボルドは、ちいさなオークにひざまづいた。

いや違う、よく見れば、オークの皮を被った魔族だった。


 趣味が悪い。それに、これまで見た魔族のなかでいちばん小さい。だから今まできづかなかったのか。俺は、見失なわないように真っ直ぐにその魔族へと向かった。


 チビ魔族が、杖で地面を突いた。俺の背後で、城壁がさらに崩壊する音がした。ちっらっと後ろを振り返った。城壁付近に土煙が立ち上っていた。犬神たちの悲鳴や怒号が耳に届いた。さらなる侵入を許したようだ。


 はやく地震をとめないと、他の城壁も崩壊してしまう。目を戻すと、チビ魔族が消えていた。


 しまった見失った。


 高度を上げた。この戦場から逃げ出しているモンスターは一人もいなかった。俺の足元を数人のオークが塊となって突進していた。


 よく見るとオークの皮をかぶったチビ魔族が中心にいた。城を絶対に落とす強い意思を感じた。


 俺は、すぐさま高度を下げた。護衛のオークが振り返った。そのオークが何やら叫ぶ。護衛のオークが一斉に振り向き、俺めがけて矢を射ってきた。


 俺は、慌てて高度を上げた。まわりにいるオークたちも足元の石を拾い投げてきた。


 弾幕だ。


 どれかひとつでも直撃すれば、命がない。うかつに近づくことができなくなった。


 どんどん、チビ魔族が離れていく。


 石を投げるよう命令が伝達されていない離れた場所まで素早く後退した。


 急降下して、ノミにヘンゲした。オークの頭にとび乗り、オーク共の頭を伝いチビ魔族を目指す。俺だって諦めるわけにはいかないのだ。


 今までよりも、大きな地響きが鳴った。

 さらに大きく城壁が崩落した。一部のオークとコボルドが城内になだれ込んだ。


見つけた。今度は、だれにも邪魔させない。


 チビ魔族が、再び杖を地面を突いた。今までにないほどの大揺れが起きた。


南側の城壁が完全に崩落し、同時に天守閣が崩壊した。


 間に合わなかったか。チビ魔族が血を吐いて、倒れた。俺は、やっとチビ魔族と杖をカクホした。


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大地の杖

伝説品

特記事項 地震発生

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