第133話 包囲網



 アサカの元に戻ってから、盗み聞きした内容を告げた。


「一度親方様の元に戻らなければ」

「俺の話だけで十分だろうか」


「信じる。それに、魔族の作戦通りに進行しているのが気に入らない。もし必要なら、出直してオーガ陣営に偵察に行くとしてもだ、とりあえず、このことを親方様に報告したほうがいい」

「八雲たちは大丈夫だろうか」


「大丈夫だ。これくらいでどうにかなるものではない。まあ、本当なら押し返してほしいぐらいだが、彼らは、あまり戦闘向きじゃないからな。それよりも、モンスターどもが、連携して侵攻していることが判明したんだ、犬神が心配だ。頼む。急いであたしを親方の元に返してくれ」


 どうする。金の指輪は気になるが、ここはアサカの申し出を断る理由がない。すこし、あの指輪と距離をもっと取ってゆっくりとどうすべきか考える時間も必要だろう。あの指輪の力は俺にとっては驚異だが、この戦争をどうこうする力はないはずだ。


 風が逆風だったので、20日すぎても、犬神の大城は見えてこなかった。21日目の夜が開けた。遠くで、黒い煙が立ち上っているのが見えた。千里眼で見ると、大城の一部が火災をおこし燃え上がっていた。戦闘がついに大城ではじまってしまったらしい。


 俺は、更に力を込めて羽ばたいた。昼過ぎに、大城に到着した。城の外は、オークとコボルドの大軍で専有されていた。


 角笛が、一定の間隔で鳴り響いている。角笛が鳴ると敵は勢いを増す。勇猛果敢というより、狂い出す。


 コボルトとオークたちは南側の城壁にのみ波状攻撃をくりかえしていた。まだ城壁は破られていなかった。


 城壁を飛び越えた。城下町の建物の一部は、倒壊していた。地震の揺れによって倒壊してしまったようだ。


 地震が起こった。城下町の民家が何件か土煙をまきあげ倒壊した。振り返ると、とうとう城壁の一部も崩落してしまったようだ。


 城壁を壊そうと群がっていたオークとコボルドの多くが崩壊した城壁の下敷きになっていた。だが、そんな犠牲にもオークやコボルドたちは、気にならないようで、救出などしなかった。城壁の崩落をさらに広げようと仲間の死体の上に乗り、巨木を切り倒してつくった木の杭を抱え突進していった。


「狂っている」


 俺は、城の中に潜り込み、人目がない倉庫でアサカをカイホし、城の状況を教えた。


「それでここは、どこだ」

「城の倉庫の中だと思う」



 そうか、アサカが、扉を開き、周りを確認した。


「わかった。ここなら、すぐに親方様のところに向かえる。ありがとうグレン」

「これからどうするのだ」


「もちろん、報告したら、戦う」

「その足じゃ無理だ」


「心配するな。こう見えても私は28宿という役職を賜っている。そうやすやすとヤラレはしない」

「敵の勢いは凄まじい。死ぬことなどなんとも思っていない、いわゆる死兵だ。もし、犬神が兵を引くとしたら、どこに引く?」

「犬神に逃げるところなど存在しない」


 再び、地響きがした。爆発音がした。


「さらばだ、グレン」

「ちょっとまて、俺が助けた赤ん坊はどうなる」


 アサカは、立ち止まり振り返った。


「あの子も、犬神の子だ」

「ふさけるな」


 その時、シズカが誰かに大声で何かを指示しながらこちらに近づいてきた。アサカが、シズカの前に進み出た。


「帰ってきていたのか、アサカ、グレン。報告を聞こう」


 アサカの報告をシズカは目をつむって聞いていた。


「どうやら、あたしの悪い予感が当たってしまったな」

「まだ、勝負はきまっておりません。微力ながら、私も参戦いたします」


「よせよせ、アサカ。このいくさは負け戦だ」

「親方様」


「今回は、負けを認めよう。だがな、どのように負けるかが問題なのだ。まあ、見ておれ。上手いこと負けてやるぞ。そこでだ、アサカとグレンには、また違う仕事をしてもらいたい」

「また、タダ働きか」


「タダ働きではない。約束は守るぞ。ここより北にある首都に赴いて、援軍の要請と我々大神の住民の一部を引き受けてくれるよう段取りを頼む」


 シズカは、懐から封書をだした。


「首都には、風魔の頭領、ライゾウがいる。これを見せれば、サコンに会えるだろう。アサカ。これまでお前が見てきたことをライゾウに伝えるのだ。そしてサコンを引っ張り出せ。そうしなければ、我々4部族は滅ぶ」

「嫌です。あたしは親方と共に戦う」


「俺も、ゴメンだな」

「せっかく助けた赤ん坊が殺されるなんて我慢できん」


「まあ、そういうな。誰かがやらねばならぬことだ」

「こんなに敵に勢いがついていたら、この城から脱出できるわけがない」


「そうでもない、我々がじっと城にこもっているとおもいこんでいるようだから、一斉に撃ってでれば穴が開くだろう。まあ、全員を助けることはできないがな」


「俺に、案がある」


 俺は、思わず口走っていた。

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