第84話 再会
俺が無事古ドワーフの街に戻ると、すぐさま緊急会議が開催される運びとなった。
あまりにも、俺の持って帰ってきた情報がショッキングだったためだ。
オーリー王が、開口一番吠えた。
「我々にはかつて魔族とヴァンパイアの連合に攻められ都を捨てなければならなかった過去がある。同じ過ちを繰り返す訳にはいかん」
周りの家臣も、それに答えるように鬨の声を上げた。
もうまるで戦場の軍議ような雰囲気だ。
「残念ながら我らの街に
王の命令の元、次々と命令が飛び交い、各自が持ち場に帰っていった。
王の脇を固めていた老ドワーフが、俺に向かって頭を下げた。
「さすがは、かの有名なオンディーヌ湖の仙人のお弟子様でございます」
俺の隣に座っていたクロエが答えた。
「気にすることはない。不肖の弟子がたまたま今回はうまくやっただけじゃ」
なんでお前が返事を返す。それに、こんどは、不肖の弟子か。それは、それは、古ドワーフの酒が美味しいことでしょうよ。
全く偉そうに。古龍とオンディーヌに関する手がかりなぞ無かったぞと文句の一つも言いたい。
俺にお礼を言った古ドワーフは、てもみてをしながら、俺に言った。
「話から察するにヴァンパイアの群れをくぐり抜けて来たご様子。もし、可能であれば、今後とも我らのためにお力をお貸しください」
「うむ。そうしたいのは山々なのだが、俺等も別件の用事があってのう」
たしかに、大事な用事はある。しかしだ。なぜ、俺の話しに返事する。
「そうですか、残念です。私達古ドワーフは、いつでもクロエ様とトム様のお越しをお待ちしております。お時間ができましたら、お力をお貸しくだされば、幸いでございます」
「うむ。それでは、おいとましましょうか。ねえ、トム。古き友たちとの再会に向かいましょう」
「分かりました、師匠」
オーリー王が、軍議を中座して、クロエを呼び止めた。
「なんだ、オーリー」
「先日、酒を飲んでいたギミリという料理人を連れて行ってくれ」
「なんで儂が料理人を連れて行く必要がある」
「儂とそなたの中ではないか。せっかく久しぶりにあれだけ大量の酒をのんだのだ、嫌だとは言うまい」
クロエは、すこしだけ目を細め、オーリーを見ると、わかったとだけ答えた。
「ギミリの面倒は、トムが見ろ」
ええ、お前が頼まれんじゃないか。
俺は、クロエを睨んだが、クロエは俺とは目を合わそうとはしなかった。
しかたない。かしこまりました、と答えた。
ギミリはすっかり旅の支度を終え店の前で待っていた。いつの間にか旅する仲間が増えてきた。
デイジー、チロ、ドニ、マンノール、アルファエル、ギミリ、クロエと俺の8名は古ドワーフの里を出て、霧の中、クロエに先導してもらい、川を北上した。
ドニが周りをキョロキョロ伺いながら俺に尋ねてきた。
「ここはもうエルフ領なんでしょ。エルフさんたち現れませんでしょうか」
「クロエの霧が僕たちの姿を隠してくれているんでしょう」
「そうですよ、不肖のバカ弟子ども」
いつから、さらにバカがつくようになったのか。
「それにしても、クロエ様は偉大なお方ですな」
「もっと褒めても大丈夫だぞ。よいか、儂のおかげで余計なトラブルに見舞われずすんでいるのだぞ。なあ、唐変木マンノール」
唐変木と呼ばれたマンノールは、ブッスとしながら返事した。
「たしかに、この地域は我らエルフの支配地域だ。現在、この付近を歩くものは、片っ端から捕縛されるはず。しかし、だれも近寄ってくる気配がない、ということは、残念ながら、我らの警備に穴があるということらしい」
「クロエ様にできないことは無いのですね」
ドニがチョロチョロとクロエにごまをするからつけあがるのだ。明らかなおべっちゃらに、デイジーは呆れ顔だ。
「もちろん、そうだぞ。なんせ明日の朝には、水源入り口に到着するからな」
ギミリがクロエに畏敬の念を込めて質問した。
「師匠。どういうことですか。まだ、古ドワーフの里を発って一日も歩いていませんが」
「全ては儂の霧のおかげ。つまり儂のおかげということだ。どうだ、まいったか」
俺は、気になっていることを尋ねた。
「エルフの里の結界術と同じということ」
「そうじゃ。もともとエルフたちは結界術など使っておらなかった。儂が教えてやったのよ」
どこまで本当なのか。でも、これが本当なら、クロエに話を聞けば、エルフの霧の仕組みがわかるはずだ。
ドニが、かなりオーバーに身振り手振りで驚いたふりをした。
「へえ、参りました。さすがクロエ様」
デイジーが首を両手でかきむしっていた。ドニの言葉で蕁麻疹でもできてしまったのかもしれない。
ほっとこう。
翌朝、クロエの予告通り、霧が晴れると、俺達は洞窟の入口に立っていた。
洞窟の中から冷たいが風が吹き出ている。風穴だ。
その風の中になぜか懐かしいと思える匂いを嗅ぎ取った。いつどこでこの匂いを嗅いだのかは思い出すことはできなかった。クロエが俺の顔を見て、ニヤリと笑っていた。
クロエの先導に従って洞窟を奥へと進んだ。古ドワーフの洞窟と違い分岐はほとんどなかった。
クロエの進む先に光苔の光が漏れ出ていた。大きくカーブを曲がると突然視界がひらけた。
巨大な空間に巨大な王座が出現した。
王座の真ん中には、一匹の龍が体を丸くして横たわっていた。ひと目で古龍だと悟った。
それと同時に、俺の目からは、とめどなく涙が溢れ出した。どうして涙が流れるのはわからなかった。匂いなのか、古龍の姿を見たからなのか、それとも古龍がまとう威厳や魔力のせいなのか。とにかく俺の心が勝手に反応し、喜びに震えていた。
古龍の傍らに美女が寄りかかるように座っていた。その美女が俺に語りかけてきた。
「お久しぶりです、カーバンクル」
俺は、その声を聞いてその美女がオンディーヌだと理解した。俺の中で何者かが忘れてしまっている記憶を懸命に思い出せようとし、蠢動していた。
「オンディーヌ、申し訳ないが、僕は記憶を失っている」
「本当に何も覚えていないのか」
「覚えてない。自分が何者だったのかも、どういう力を持っていたのかも忘れている」
「それは、そなたも難儀よの」
オンディーヌの態度は、本当は難儀だとはちっとも思っていないと語っていた。
「古龍の命がまさに尽きようしている。目はもう見えないだろう。まだ、声はきこえるだろうから、声をかけてやってくれぬか」
なんて、声をかければいいのか?
周りをみると、マンノールとアルファエルは、地面に顔を押し付けるようにしてひれ伏し。ギミリは、深々と両膝をついて頭をたれていた。デイジーとドニは、片膝をついて、頭を下げ、チロは伏せの格好で耳はたれていた。クロエさえも頭を下げ、オンディーヌの言葉に耳を傾けていた。
古龍エルドエクアルが吠えた。
俺の頭の中の靄が一気に晴れ、思い出が鮮明に蘇った。
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