第78話 古ドワーフの里
デイジーが、岩盤を削って作られた牢屋、岩牢の中で指三本で逆立ちをしていた。
修行をすればほんとにこんなことができるんだ。北斗○拳ですか、と思ったが口には出さない。
俺は、トムの姿にヘンゲし、腕組みをしてクロエを睨みつけた。
「クロエ、どうしてこうなったのか説明してください」
俺の目の前には、デイジー、クロエ、チロがいた。
「どうもこうもない、この里の入り口で門番に止められたのだ。湖の美女が尋ねてきたと王に取り次ぐように命令したら、王に怪しいものを取り次ぐ門番はいないと笑われたので無視して進んだら、儂の腕を掴んだので、投げ飛ばしてやった」
ボディーラインがしっかりとわかるチャイナドレスのような服を着て、見た目が20歳にしか見えない女性がいきなり王に合わせろと尋ねてきたら、門番として取り合わないのは常識的穏当な対応だ。
俺は、クロエの前に積まれた料理の皿と徳利を指差した。
「この酒と料理は差し入れか?」
「まさか」
「無銭飲食じゃないか」
「儂をこんなところに閉じ込めておけるわけはないだろうにのう」
クロエは、同意を求めるようにデイジーをみた。デイジーは逆立ちしながらうんともすんとも言わなかった。
「儂は、最高級のドワーフの火酒を飲みに来たんだ。それにだ。我が霧で幻を見せているから見張り達に気づかれる心配は無いぞ」
「どうして盗んできたかは聞いていません」
確かに、この仙人をただの岩牢に閉じ込めておけるはずはない。
「この代金は後で利子をつけて返すから心配するな」
「当たり前です」
「ほう、当たり前と抜かすか。よいか、お前のかわいいデイジーとチロがこんな陳腐な牢屋で飢えなかったのは儂のおかげぞ」
お前が門番に何も言わず於けば、そもそも岩牢にぶち込まれる理由がないだろう。
「ところで、二人ほど助けたい人が居ます。力をかしてください」
「また人助けか。そんな事をしていると、何日あっても足りぬぞ。おお、そうじゃ。そう言えば、そろそろ熱々の、しかも珍しい美味いものが食いたくなってきたぞ。できればドワーフの火酒にあうものがいい」
やはりこうなるか。
「分かりました。これから食材を探してきます。おとなしく待っていてください」
俺は、ドニをカイホした。
「お、今度は、ここはどこです」
「牢屋の中だ」
「ええ、また牢屋ですか」
デイジーが苦笑した。
「これから街にでて石をおいていくからドニはここで情報を収集してくれ」
「皆さんどうして、こんなところに」
「それは、おいおいデイジーにでも聞いてくれ」
なぜか、ドニはうれしそうにうなずいた。これ以上文句はないようだ。
俺は、ハチにヘンゲし街へ向かった。
古ドワーフの街は巨大な地下空間に形成されていた。天井は、無数の巨大な石柱が支えていた。
石柱の森だ。
石柱と石柱の間には形の整った均一の石材を用いてアーチ状に組み上げられていた。天井のモザイク模様も幾何学的で美しい。
エルフの森の美しさとは真逆と言ってもいいだろう。人工的な美の世界が目の前に広がっていた。
天井には光苔は張り付いて無いが、石柱の表面には、張り付いており地下だと言うのに明るく感じられた。
街の中の道は、きれいに清掃が行き届いていた。
街の中に呪術石を適当に置いていこうと思ったが、これではかえって小石が目立ってしまう。
この街を見る限り、石の取り扱いに関しては、だいぶうるさいに違いなく、小石一つ置くだけと侮るわけには行かないようだ。
見つからないように慎重に、かつ、古ドワーフたちの会話を傍受できる場所を吟味し、呪術石を置いていった。
籐かごを担いだ古ドワーフが二人、こちらに話ながらやってきた。
「どうして今年は、
「そんな事を効かれてもおらにはわからん」
「あんなヌルヌルとした気持ち悪いものを食べるわけにいかんし、ただ捨てるだけで大変だ」
「まったくだ。奴らは、養殖している小魚を全部くっちまうしのう」
籐かごの中から細長い生き物が逃げようと顔をだした。
うなぎ? うなぎにそっくりだ。
古ドワーフたちは、街の入口へ向かうようだ。俺は、籐かごの蓋の上に止まった。
この距離なら、籐かごの中のうなぎをカクホできる。
どうせ捨てるなら全部いただこう。俺は、うなぎをカクホし、代りに、銀貨1枚を籐かごの中にカイホした。
「おや、背中のカゴが軽いぞ」
「おめえ、まさか川蛇ににげられたか」
古ドワーフは、歩いてきた道を振り返った。
「いや、それはないべ」
もうひとりの古ドワーフが、軽くなっていると騒いでいる古ドワーフの籐かごの蓋を開けた。
「一匹もいねえべ。おい、ちょっと待ってみろ、銀貨だ」
「何、銀貨? 川蛇が銀貨に化けただか」
事情を説明できなくて申し訳ない。俺は、そそくさとその場を離れた。
俺は、蒲焼きを作るために必要な材料について考え始めた。砂糖は、オールドシャッドで使ったもの残っているからあとは醤油が手に入れば完璧だ。
だが、手に入らなくても塩とわさびで白焼きという手もある。
生臭さを取り除くために遠赤外線でじっくり余分な油を落としたい。備長炭はなくとも炭火は外せない。
クロエが岩牢で食べていた皿に残る香りを思い出した。そう言えば、あれは醤油の焦げた匂いだった。
どうして急にそんなことを思い出したのかと、不思議に思い周りの匂いを嗅いで見れば微かな発酵臭が辺りにひろがっていることに気がついた。
匂いの元をたどってみると古ドワーフたちが道端にある用水路に何かを捨てていた。発酵臭は、そこから香ってきていた。
俺は、キハジにヘンゲして、駆け寄った。豆味噌のようだ。
「すみません。これはなんですか」
「ほお、ドルイドか。めずらしいなドルイドのお嬢さんがこの街にやってくるなんて」
俺は、にっこり笑って、捨てているものを指差した。
「これは?」
「これは、ミードというオラたちが使う調味料なんじゃが、底の方は、豆が潰れて塩辛くてとてもじゃないがたべられないから捨てるんだ」
液体が浮かんでいる。これは、醤油としてつかえそうだ。
「それ、全部買います」
「ドルイドは、こんな塩っぱいものを口にするのかい。噂では、大変薄味だと聞いたが」
「そうなんですが、ある方から仕事を頼まれまして、こういうのを探していたんです」
「そうかい、仕事かい。カネはいらないよ。ただでやるから、持てる分だけもっていきな。ここに置いておくからな」
「あのう」
「大丈夫だ。こんなもの古ドワーフなら誰一人盗みやしないよ。革袋など用意してもどってきなよ」
やった。これで醤油もどきもゲットした。
俺は、店主が店に戻ったことを確認してから味噌樽を別個カクホし、樽だけカイホしてもどした。
後は、うなぎをさばいてタレを付けながら焼き上げるだけだ。
カーバンクルになって、供物以外に食に興味はなくなったが、条件反射だろうか、知らずよだれがたれていた。
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