第71話 クロエ合流
キハジのことが心配だったから旅のペースを上げた。
デイジーは、これも修行だといって小鳥にヘンゲした俺を見失わないペースで走り続けた。
ドニの面倒をみると言いながら、デイジーはチロに丸投げしていた。ドニは、チロの背中にのり、ふりおとされないように一日中必死の形相でしがみついていた。顔色は真っ青で、回りの景色など何も覚えていないだろう。
ドニを背中に載せて走りつづけてもチロは一向に疲れた素振りを見せなかった。俺はまだ、一度もチロにヘンゲしたことがないことを思い出した。
一度、暇なときにチロにヘンゲしてみよう。そうすれば、チロの凄さをもっと実感できるにちがいない。
数日後、俺たちは川岸に到着した。予め、クロエにもたせてあったウライガイを探索した。
川の上流で、一箇所だけ光っていた。クロエが途中で捨ててなければ、あの光点がクロエの居場所だ。
俺たちがそこに到着すると、クロエは川岸の大きな岩の上に座り、釣り糸をたれていた。
お前は太公望か、と心の中でツッコミを入れた。まったく、どこから釣り道具を手に入れたのだろう。
さらに近づくと、クロエの脇に女の子が膝を抱えうつむいていることに気がついた。
ドルイドの服装のようだが、キハジではなかった。
俺は、トムにヘンゲして、わざと足音を立てて近寄った。
クロエは、足音を立てずとも俺たちの存在に気づいているだろうが、ドルイドの女の子を驚かせないようにするための配慮のつもりだった。
「釣れていますか」
クロエは、川面を見たまま答えた。
「釣れたとも言えるし、釣れないとも言える」
俺は心のなかで、どっちなんだい、と突っ込む。
ドルイドの女の子が俺たちを見た。女の子は俺に向かってひれ伏した。
「キハジさんを助けてください」
クロエは、俺の素性を明かしていたのだろうか。俺の考えを読み取ったかのようにクロエが言った。
「この子は、ロコ。あたしは何も言ってないよ。ただ、これからやってくる男の子に相談してみれば力になってくれるはずだ、とは言ったけど」
お前だって、力になってあげられるだけの力があるだろう。
俺は、デイジーのマネをして舌打ちをしてみた。クロエが、嫌そうな顔をして俺を睨んだ。
これは、いい。クロエに嫌味を伝え、精神的ダメージを与える有効な手法かもしれない。
「それで、キハジはどこに」
「わかりません」
それから、ロコは、キハジと別れたこと、約束した場所に期日を過ぎてもキハジが戻ってこなかったことを告げた。
「エルフたちに捕まったと考えるのが素直じゃな」
クロエが釣り竿をあげた。獲物はかかっていなかった。餌を付け替えるのかと思いきや、何もついていない釣り針を再び水中に投げ入れた。
まさしく、こいつは太公望を地でいくつもりか? いかん、いかん。今はキハジの件に集中するべきだ。
キハジは、エルフの目を盗んで、慎重に慎重を重ね水源を目指しているのか、それともエルフたちに捕まってしまったのか。
キハジの性格を鑑みて、エルフたちに捕まった確率のほうが高いかもしれない。
では、キハジの足取りは追跡できるだろうか。
「ロコさん、キハジの私物を何かお持ちですか」
「いいえ、何も持っていません」
聞き香スキルで探すことはむずかしそうだ。それならば、ロコさんにここにとどまってもらう理由はない。
「ロコさんは、これからマオラにこの事を至急を伝えてほしいんですが、頼めますか」
「はい、もちろんです」
デイジーが優しく尋ねた。
「食料とか水は大丈夫ですか」
「はい、大丈夫です。あたしは、ヘイス川上流の古ドワーフの里で食料とか・・・・・・」
キハジのことが急に思い出されたのだろう、語尾は、涙声になって聞き取れなかった。
デイジーがやさしく、ロコの肩に手をおいた。
「キハジさんは、必ず私達が見つけますから」
ロコは、涙ながらに何度もうなずいた。クロエはため息一つついた。
「マオラでも、エルフたちのことには手はだせないと思うぞ」
「でも、できる手は打っておきたい」
「ここから先は、エルフ領。人の姿でこれ以上立ち入ることは危険じゃ。人族も、カーバンクル様もエルフ領には勝手に入ってはいけないことになっておるでな」
デイジーがすぐさま反応した。
「なんで?」
「エルフに大嫌いなものが2つある」
俺は、クロエの目を見た。
「一つは人族。もう一つがカーバンクル様だ」
「でも古龍の森の7部族の一つだろう」
「エルフ族は古龍様とオンディーヌ様を慕い崇めている。そのおふた方のためにエルフ達は魔族と戦うために立ち上がったと言われておる。嘘か真か知らんが、カーバンクル様が森を去ったと聞いた時、盛大に祭りを執り行ったのがエルフたちという噂だ。最も静謐を好むエルフ族が祭りだぞ。どんだけ嫌われていたか知れるというものじゃ」
クロエは、先程の舌打ちの仕返しとばかりに大声で笑った。エルフ達に嫌われているのをいまさどうこう言ってもしかたない。
「つまり、厄介者扱いということか」
「まあ、そうなるのう。エルフたちは、保守派も保守派。変わらぬものが美しいと思っている。なんせ季節の移り変わりより、早い変化を嫌うといわれておるからなあ。まあ、比較的悠久の時間を生きる種族だから、とっても気が長いのだろうよ」
俺にできないことを悩んでもしょうがない。クロエに率直に質問を投げかけてみる。
「古龍とオンディーヌはどこにいると思う?」
「この川の源流、湧き出る場所でまちがいないじゃろう。でも、この川、血と闇の力で汚染されている。よく、エルフたちは、こんな水で自分たちの森を育んでおるよなあ」
デイジーが川の水をすくい取った。
「こんな綺麗なのに」
「ヨセヨセ、ああ、儂に近づくな。穢れる。ちなみに言っておくと儂は、エルフが嫌いじゃ。陰険だからな。反対に古ドワーフは好きじゃ。明るいし、酒がうまい。よって、これから古ドワーフの里に儂は行くぞ」
クロエが俺に向かって手を差し出した。
「ほれ」
「なんだ、その手は」
「カネだ。カネ。もっておろう。古ドワーフの火酒はうまい。久しぶりにたらふく飲みたい」
「なんで俺がカネを出さなければならない」
「ケチ臭いの。前借りじゃ。人族にはそういう仕組があると言うのを知っているぞ」
「前借りには利子というものがつくも知っているな。俺の利子はトイチだぞ」
「なんでもかまわん。それ以上の働きをすればいいのじゃろう」
俺は、クロエにオールドシャッドで手に入れた金貨を渡した。
「チロとデイジーもクロエについていってあたりの水源を調査してほしい」
「わかったわ」
ロコが恐る恐る口を開いた。
「あのう、実は、私も水源を探索していて、実際には時間が足りなくて水源までたどり着かなかったのですが、古ドワーフの里で変な話しを聞きました。お役に立つかわかりませんが」
「変な話しとは?」
「ここ数年、古ドワーフの何人かが、突然神隠しにあったり、死体で発見されることがあるそうです。さらに、先程、クロエ様がおっしゃっていたように、悪しき血の匂いと古ドワーフたちは言っていましたが、地下水に良くないものが混じることがあると心配しておりました。もし水源に近づくようならお気をつけください」
「クロエ。これも関係していると思うか」
「さあ、ドワーフの酒を実際に飲んでみないことには」
だめだ、完全に酒のことしか頭にない。
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