第67話 幕間

 ベットの上では頭に包帯を巻いた状態で健太郎がまだ寝ていた。

 手術後、医師からの説明では手術に成功したとのことだ。

 

 窓の外の桜は満開だ。

 この桜が散るころには、退院できるだろうか。


「おじいちゃん、おはよう」

「おお、目を覚ましたか」


「頭は痛まないか」

「大丈夫」


「それよりも、カーバンクルすごいね。船を頭上に落とすって。もう何でも出来ちゃうね」


 それから健太郎は、自分なら敵の上に何を落とすか、真剣に話し始めた。


「……。だから、砂利を積んだダンプカーなんか最強じゃない」

「まあ、たしかに。そういうものがあったら、すごそうだ」


「そうだ。タンカー。石油を運搬するタンカーだ」

「健太郎、少しはしゃぎすぎだ。今は、おじいちゃんの話よりも眠ることが大事だよ」


「僕、ちょっと怖いんだ」

「怖いものなどないだろう。手術も成功したし」


「ほら、トムは眠ると行きたいところに行けるからスキと言っていたけど、僕はどこにもいけないんだよ。突然眠気がやってきて眠るんだけど、夢を見ないんだ」

「突然?」


 そんな話しは誰からも説明を受けてない。


「そう、いつ眠ったかわからないんだ。先生には相談したかい」

「うんうん。それっておかしいこと?」


 健太郎の布団を首までかけてあげた。


「念のため、おじいちゃんが、先生に相談してみるよ。何かいい薬があるかもしれない」

「そしたら、夢、見れるね」


「見れるとも」

「眠れないより、眠れる方がいい。こんどお見舞いに、健太郎の好きなものを買ってこよう。何がいい」


 病室の扉が開いた。

 看護師長が入ってきた。


「困ります。まだ面会時間前ですよ。何度言ったらわかるんですか。だいたい、どこから入ってくるんですか」


 健太郎がくすり、と笑ったように感じた。


「そんな硬いこと言わないで。おれも仕事が忙しくてこの時間しか体が空かないんだから」


 ねえ、と俺は健太郎に同意求めるようと健太郎を見た。

 いつもなら、健太郎はクスクス笑うところだが、今回は笑っていなかった。


 健太郎の隣で看護師長と言い争っているのに、まるでその音が聞こえていないように目をつぶっている。

 寝てしまったのか。


 そんなのは、不自然だ。おかしい。

 こんなに突然眠れるものではないだろう。まるで体内に電池が埋め込まれていて、それを突然引っこ抜かれたようではないか。


 俺は、優しく健太郎の肩を揺する。

 目をさます気配がなかった。


 看護師長も健太郎の異変にきづいた。

 病室を飛び出していった。


 俺は、健太郎の暖かい手を握って、看護師長が戻ってくるのをじっと待った。

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