第63話 第2王子と遠吠え

「お、お、お前は、だ、誰だ」

「悪魔です」


「ひ、悪魔」

「先ほど、悪魔でも良いと言っていたので。これはしめたと思い、馳せ参じました」


「僕なんて食べても美味しくない」

「お前の国の悪魔は人間を食べるのかもしれないが、俺は食べないぞ」


「そ、そうなのか。それなら、早く、早くここから助けだせ」

「もちろん、それは簡単だが、対価が必要だ」


「おカネならいくらでも、お父様とお母様に頼むから」

「カネなどいらぬ。悪魔が欲するのは魂。お前の魂を渡してもらおう」


「そんなの無理だ」

「それでは、こうしよう。これから俺が教える言葉を大声で叫べ」


「もし、その声が天使に届くような大声なら、お前は天使の加護を受けたものとして、魂をもらうことは諦めよう。だが、もし声が小さく、天使に届かないようなら、魂をもらっていくことにしよう」

「大丈夫。僕は、毎日、礼拝を欠かせたことはないから。絶対大丈夫。な、なんて言えば」


 俺は、王子に耳打ちした。


「よし、目を瞑れ。これから10数える。数え終わったら叫んでみろ。天使たちが気づくといいがな」


 王子はギロリと俺を睨んだ。


 10、9、8、7、6、5、4、3、2。


 王子が大きく息を吸い込んだ。


 俺は、王子をカクホした。


 さあ、次だ。

 まだまだやることは残っている。こんなバカ王子にかまっている時間がもったいない。


 俺は、テントを抜け出し、大急ぎでオールドシャッドを目指した。


 空がだいぶ明るくなってきた。

 夜明けはすぐそこだ。

 三角州に戻った。


 兵士たちは、まだ交代の時間ではないのか、起きて来ない。

 俺は、探索スキルで銀の首輪を探しだし、収容所で寝ている成人男性のウルフマンたちの首輪を黙ってカクホして回った。


 多分、当のウルフマンたちも首輪が失くなっていることに気づいていないだろう。一々説明している暇もない。


 一箇所に集められ、すし詰め状態で詰めこまれているのは気の毒だったが、こちらとしては効率的で助かった。


 あらかた収容されているウルフマンの男から首輪は取り除いた。

 もう夜が開ける。


 デイジーは無事、女たちの首輪を外し終えただろうか。

 ひと目のないまだ伐採されずに残っている森の中に移動し、ドニをカイホした。


「ドニ、女たちは、情報どおりロアの屋敷に監禁されていた。デイジーに首輪を外すように命令したんだが、外し終わったか確認したい」

「ほい、わかりました」


 ドニは、腕をめくった。

 無数の傷が腕に刻まれていた。


「どうしたんだ、その傷は」

「この傷一個一個が、石に対応してるんで。こうやって触ると、音が聞こえてくるんです」

「痛々しいな」

「大丈夫ですよ。要らなくなった傷はすぐに治せます。ただそうするとその石はもう使えませんが」


 その傷を指で一つ一つ触っていく。

 ある傷を触ったところで、動きが止まった。

 目をつむり、集中している。


「旦那さま、大丈夫です。終わったようです。でも、船の方で、子どもたちがいないと騒ぎが広がっています」

「そうか。それはほっといていい」


 後は、ウルフマンたちの男たちが女たちの脱出に呼応して、反旗を翻してもらわなければならない。そして混乱のうちに将軍を打ち倒す。


 一番鶏が鳴いた。

 夜が開けた。

 戦いの幕を開けることにしよう。


 これから退治する相手は、伝説品を持つ武将だ。レベルアップを恐れていては、クーデターは抑え込めないし、他国の侵略にも抵抗できない。


 腹を決めてレベルアップする。

 ドニの隠し財産をカイホし、もう一度、個別にカクホしていった。

 夜のとばり玉、夜明け玉、雪玉、雷玉、火玉、土玉。


 これらは、別格品だ。

 別格の数は、レベルアップ条件を満たした。さらに、希少品をカクホしていく。


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風石

希少品

特記事項 送風

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呪い返しの石

希少品

特記事項 呪い除け

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呪符紙

希少品

なし

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 これで、希少品は、11品になった。

 あと1品カクホすると、レベルアップ条件を満たす。

 まだ、カクホしきれないドニの隠しアイテムが地面に転がっていた。

 俺は、一瞬考えて、それらのアイテムを元の袋に詰め、一括カクホしてみた。


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荷袋。

希少品。

特記事項 なし。

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(カーバンクル様、おめでとうございます。レベルアップしました)


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アイテムブック

保管数上限80品

カクホ伝説品

距離 32歩

目利き伝説品

探索伝説品

地獄耳超音波範囲

反響定位240歩

聞香300歩

千里眼8000歩

幻影操作64歩


レベルアップ条件

 保管数60品

希少品24品

別格品10品

伝説品1品

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 次のレベルアップ条件がショッキングだった。保管数が20品も減るなんていじめにも程がある。


 だが、今はそんな事で立ち止まっているわけには行かない。一回のレベルアップで伝説品がカクホ可能になったのは、ラッキーだ。


 貴重なアイテムもどんどん使っていこう。どうせ、保管アイテムは減らせなければならないのだから。ケチケチ生活とはおさらばだ。


 俺は、夜の帳玉をカイホし、地面に投げつけた。

 三角州は、再び夜の闇に包まれた。

 街の方角から、狼たちの遠吠えが、幾重にも重なり聞こえてきた。女のウルフマンたちが合図に気づき、獣化したのだろう。


 空を見上げると流石に月は出ていないようだから、どれくらい戦闘能力が増加するのかわからない。ウルフマンの本気の戦いが見られことを期待しよう。


 収容所の方からも遅れてウルフマンの男たちも、遠吠えで答えた。男たちも自分の首に銀の首輪が無いことに気づいたのだろう。


 俺が男たちと女たいがうまく連携できるかなんて、心配することではなかった。


 東の森からも、遠吠えが聞こえてきた。これでは、せっかく子供たちだけ逃したのに、居場所を告げているようなものだ。


 だが、すぐにそれで良いと思い直した。


 その遠吠えは、比較すれば大人の遠吠えと比べまだまだ小さく弱々しいが、大人たちの遠吠と、重なり合うと、まるでお互いの無事を確かめあっているような、何かを語り合っているかのようにも聞こえた。胸が熱くなった。


 ウルフマンたちの問題は、ウルフマンたちで後はなんとかするだろう。

 俺は、自分の残りの仕事を続けるため、港に向かった。

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