第61話 占領下

 海鳥にヘンゲしてオールドシャッドに向かった。

 

 途中一度だけ、地表に降り立ちアイテムブックを整理した。

 緊急で必要ないと思われる食材などを風呂敷に包み、一括カクホした。

 

 アイテム保管数は80に減少した。

 これで心置きなく暴れまわれるというものだ。

 

 遠くで、いくつもの煙が立ち上っているが見えてきた。

 随分と広範囲を燃やしてくれているようだ。

 

 どうやって事を収めるべきだろうか。

 いまさら王子をリザードマンから奪い返してみたところで、軍がハイそうですかと引くは訳がない。

 

 敵の目的は、港を占拠し、富を独占することだろうから。

 色々想像してみるが、どれもいいアイデアとは思えなかった。

 

 それはつまり、情報が少ないためだ。

 推論の上に、さらに推論を重ねても、無意味だ。まずは情報収集だ。

 

 俺は、三角州地帯に入った。

 森がいたるところで伐採され、焼かれ、できた空き地に軍の建物が立っていた。

 

 また大切なものが燃やされていく。

 また、救えなかったのか。

 胃の中から苦いものがこみ上げてきた。

 いや、まだ間に合う。俺は、まだ残されている木々の青さに勇気をもらう。

 

 施設を作る労働者は、どうも、ウルフマンの男たちだった。

 男たちは鞭を打たれ、強制労働されている。

 黙って黙々と強制労働させられていた。

 不思議だ。屈強な男たちがなぜ、抵抗もせず強制労働させらてれいるのか。

 

 さらに南へ、向かった。

 森林公園だった場所には、頑丈そうな壁が作られていた。その前には空堀が掘られていた。要塞化は着々と進行していた。

 

 急ピッチで、防御態勢を整えようとしているのだろう。

 たわわに実っていた果樹はすべて、ただの切り株と化していた。

 

 無残だ。

 

 女子供の姿は、どこにも見えない。外で働かされているのは男ばかりだった。

 

 呪術石を探索してみる。

 まだ、あちこちに呪術石は置かれていた。一箇所だけ、呪術石が移動していた。

 俺は、その場所に向かった。

 案の定、ドニが強制労働させられていた。

 他国の商人までも強制労働に駆り立てるとは、随分とやり方がエグい。

 

 俺は、オールドシャッド全体の様子を観察しながら、夜中を待ち、収容所で雑魚寝しているドニをカクホして連れ出した。

 

 海風が吹いてきた。

 集落から離れた浜辺でドニをカイホした。波音でドニが目を覚ました。

 ドニは明らかに痩せ細り、顔はやつれていた。


「ここは、どこだ」

「久しぶり、ドニ」


「や、トムさん。ご無事でしたか。そうじゃないかと思っていました。でも、こんどはどんな魔法を使ったのでしょうか」


「種明かしはなしだよ。無駄話している時間はない。早速だけど、手伝ってほしいことがある。嫌だとは言わなよな。料金は前払いしてある」

「こりゃあ、また、痛いところを」


「そりゃあ、そうだよ。こういう時のために、ドニにお願いしていたのに、役に立たなかったじゃないか」

「面目ありません」


 ドニは、頭を掻いた。

 そうは言っても、きっとこのクーデターは、ドニが忍び込めない船上で綿密な計画が練られていたのだろう。それを盗聴し察せよとは少し酷な気はする。でも、ドニに大きな貸しを作っておくのは後々便利そうだから、そんな考察は話さない。


 俺は、風呂敷を取り出し、そこにまとめておいてある、食料品を見せた。

「これで、ドニの力を借りたい。もしこれで足りないなら、元の収容所に戻すこともできる。どちらが良い?」

「そりゃあ、殺生です。食べ物がすべて、金に見えます。いくらでもお手伝いさせてください。ところで、どんなお手伝いでしょうか」


「オールドシャッドにいる敵を追い出す」

「それは、いかにトムさんがすごくても、無理です。詳しい数はわかりませんけど、千人近くいますし、噂では、さらなら援軍がやってくるそうですよ。それに、相手が悪い。本国でも3本の指には入る武人、火炎将軍フレイムジェネラルが指揮をとっています。軍の動きにスキがありません」


 俺も昼間、上空から将軍と思しき軍人を見つけた。

 もしカクホ可能なら、近づいて一気にかたをつけようと思ったが、カクホは不可能だった。


 つまり、伝説級以上のアイテムを所持しているということだ。

 周りを固めている指揮官たちも別格や希少品で身を固めていた。

 まったく油断できない相手だとは認識していた。


「それでは、元の場所に戻るかい」

「それは、勘弁です。関係ない私らまでも奴隷のように働かされて。まったくふざけてる。奴らから私の労働分の利益を回収しないと。絶対タダ働きはしませんから」


 俺は、笑った。こんな状態でもカネ勘定だとは。


「それじゃ、話しはまとまったな。現状を知りたい。なぜ、ウルフマンの男たちは、反抗せず、おとなしく従っている?」

「女子供、家族を人質に取られているようです」


 俺は、デイジーやロアを思い出して言った。


「ウルフマンの女だって、弱いわけじゃない。男顔負けの戦闘力だと思うが」

「どうやったかは、わかりませんが、人質に取られていて手が出せなかったということです。ウルフマンたちの首には銀の首輪がはめられています。反抗すれば、その首輪がウルフマンの命を奪う仕組みだそうです」


 なるほど。女子供を助け、銀の首輪をはずしてやれば、ウルフマンたちの問題は、自分たちで解決できるかもしれない。


「ただ気になることがあります。先程、女子供といいましたが、子供はどうも女たちとは別の場所にいるようです。もしかしたら、もうこの街にはいないかもしれません」


 デイジーとともに船に載せられていた少女たちの事を思い出した。ハーマン商会がからんでいるなら、児童だけどこかに売り飛ばす気なのかもしれな。


 至急、停泊中の船をしらべる必要がある。


 あとは、どうやって軍を追い出すかだ。

 全滅させたら、全面戦争に発展する可能性がある。それはできれば避けたい。


「王子が、リザードマンたちに捕まっているらしいが、その情報はあるかい」

「その情報はもっていません」


 王子の件は、俺がなんとかしなければならないようだ。どうかリザードマンたちが殺していませんように、と祈るしかない。


「それじゃあ、最後に、以前僕に見せてくれた品を全部、僕にください」

「ただでは無理です」


「やはり、どこかに隠しもっているんだ」

「おっと。これはうかつでした」


「ここで僕の助けがないと、戦争に巻き込まれて死んじゃうよ。命より大事なものなのかな?」

「トムさん、あなた怖いことおっしゃいますな。でも、さすがに、無料ただでは無理ですわ」


「今後1年間、この港の使用を一緒に独占的に使用するというのは、どう?」

「そんなことが約束できるんですか。空手形からてがたじゃないですか」


「約束できるよ。僕と一緒に商売をしたいんでしょう」

「そりゃあ、そうなんですが、自分の鼻の正確さに、びっくりしているんですわ」


「決まりだね。僕が店主で、ドニが番頭だ」


 揉み手をしながら、おどけた調子でドニが言った。


「旦那さん、こうなったら地獄までついていきますよ」


 まったく、調子いい。


「それは助かる。僕もちょっと地獄にいく用事があったんだ」

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