第60話 クーデター勃発
腰を抜かしたマオラをクロエが家まで運んだ。
何故か、その運び方も俺の気に触った。
クロエが気合を入れると、手の平から雲が湧き出てきた。その雲がマオラとチロの体の下に潜り込み体を持ち上げた。孫悟空の筋斗雲のように浮かび上がった。
「カーバンクル様もお乗りになられますか」
「絶対、乗らない」
そういうとクロエは、微笑みを浮かべマオラの家の方角へと飛び去った。
俺は、鳥にヘンゲして、小島を後にした。
クロエの後ろをついていくのは、腹立たしいばかりだが、マオラとキハジ捜索の打ち合わせをしないとならない。
マオラの家に到着すると、家の前で見知らぬドライアードが腰を押さえているマオラと話し込んでいた。
クロエはあくびを噛み殺し、扇子を扇いでいた。
マオラがそのドライアードを紹介してくれた。
「こちらは、ドライアードのアルヴァ様です」
「お初にお目にかかります。ドライアードのアルヴァです」
膝を着いて、カーバンクルに向かって頭を下げた。
慌てて様子でマオラが言った。
「カーバンクル様、大変なことになりました」
「こんどは、何?」
「クーデターが起きました」
「どこで?」
「ウルフマン領オールドシャッドです」
まず、デイジーの顔が思い浮かんだ。
「だれが首謀者だ」
「族長の長男コーム。それと、コームに協力するかたちで、ドナール王国軍が街を支配下に収めた模様です」
「では、まだ、ウルフマン族領がすべて支配下に入ったわけではないのだな」
「そのようです。ですが、一港町とは言え、古龍の森の一部が他国の軍隊に占拠されたのは、前代未聞」
「理由は?」
「ドナール王国第2王子カムディがリザードマン領に不法に侵入し捕縛されました」
どこかで、聞いた名だが、思い出せない。
「どうして、リザードマン領に?」
「カムディ王子は、ウルフマン族の娘エメと密会を重ねていたようで、ウルフマンたちには公然の秘密だったようですが、そのエメという娘がそそのかしたと噂になっております」
「その事件とクーデターはとどのような関係があるんだ」
「王子がリザードマン領で捕縛されたとき、たまたまドナール王国の大将、
話しができすぎている。
誰かが書いた筋書き通りにことを運んでいるようだ。
ドライアードの使者が言った。
「マルユット様も事態を静観するわけにはいかないと、7部族会議の招集を提案なされました。ですので、マオラ様に当たられましては、ドルイド族の長として、是非、会議に出席していただきたく、お願いに参りました」
マオラがちらっと、クロエを見た。
クロエは、だまって、顎を突き出した。
さしずめ、お前が行けという命令だろう。
マオラもはじめから期待していなかったのだろう、あっさりと会議出席を許諾した。
アルヴァが、俺に向かって言った。
「是非、カーバンクル様にも、会議に出席していただきたいと、主マルユット様がおっしゃっておりました」
「会議の議題は?」
「王国軍の排除ならびにクーデターの鎮圧になると思います。古龍様、オンディーヌ様が不在のため、7部族をまとめ上げるために、苦渋の決断ですが、カーバンクル様のお力をおかりしたいとのことです」
「申し訳ないが、会議には出ない。これまでも、こんな困難はあったはずで、俺がいなくてもまとまるはずだ」
アルヴァは、歯をくいしばり目を伏せた。
そんなに冷たいことを言ったか?
俺が会議に参加すれば、復活したことをおおっぴらに宣伝してまわるようなものだ。
「俺が居なくても、会議をまとめ上げるようにマルユットに伝えてくれ」
俺の背後で、クロエが扇子を閉じてパチンと鳴らした。
デイジーのことも心配だが、帰ってこないキハジも心配だ。
さて、どう動くべきか。
上空に鷲のような大型の猛禽類が旋回した。
それは、徐々に高度を落とし、アルヴァの腕に止まった。
アルヴァはしばし、目をつむっていた。アルヴァが目を開けると、猛禽類は再び飛び立った。
「良くない知らせが入りました」
「オールドシャッドの森が軍によって伐採、放火されているとのことです」
目の前に、俺のお気に入りだった森林公園の風景が蘇った。
「どうも、軍の駐屯地を整備するためのようです」
マオラがつぶやいた。
「本気だ。本気で軍の施設、前線基地を作るつもりだ」
俺は目をつむり、美しい森林公園が燃やされ、更地になり、軍の駐屯地に変貌した様を思い浮かべた。
愚かな。
なぜ、あんなにきれいな自然をそのままにしておけない。
心の奥底から、ふつふつと怒りがこみ上げてきた。
これでは、あの時と同じではないか。
「俺は行くぞ」
「おお、それでは、会議に出席してくださるのですね」
アルヴァの顔が笑顔に変わった。
「いいや、会議にはでない。いまから軍とクーデターの排除に向かう」
「お一人で?」
「そうだ。クロエ、お前には、行方不明になっているドルイドの捜索を命ずる」
また扇子がピッシとなった。
「タダ働きは嫌よ」
「あんドーナツ10個でどうだ」
「もう一品、美味しいものが食べたい」
「わかった」
クロエは、微笑みうなずいた。
「ところで、クロエ。ちょっと聞きたいんだが、お前さん、古龍とオンディーヌの行方を知っているよな」
「ええ、だいたいは。まあ、そんなに怖い顔をしないで。誰にも聞かれなかったからねえ」
クロエは、悪びれもせず、優雅に扇子を開き顔を扇いでいた。
マオラはその言葉に目を白黒させた。
アルヴァは、美女に始めて気づいたようで、俺に尋ねた。
「こちらの方は、どなたでしょうか」
「知らぬが仏だ」
マオラもアルヴァも俺の言っている「仏」の意味がわからなかったようで、首をかしげていた。
それにしても、クロエには、罰が必要だ。後で激辛料理を食わせてやろう。
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