第56話 密輸
ロアの説明を要約すると、ハーマン商会の人間が、古龍の森で密猟をしていて、その荷を船に積み込んでいる。それは、違法なので、今から取締に行くというものだった。
俺は、その話を聞きながら、ドニが調べたかったのは、このことだろうかと思った。
ロアの説明が終わると、一同は港に向けて出発した。
俺は、見えなくなるまでみんなを見送った。
それから、周りを確認して小鳥にヘンゲして、後を追った。
目的の船は、昨夜ドニが忍び込もうとした船だった。
あの空きスペースは、この密猟品を積み込むためだったようだ。
そうすると、ドニはハーマン商会の密猟品を取り締まるために忍び込んだのだろうか。
ロアたちウルフマン族ならいざ知らず、よそ者のドニには、そんなことをしても何の特にもならない。
では、ウルフマン族に雇われていたとしたら。
昨夜、ほとんど何もせず見つかり海に投げ捨てられてしまったから、ドニから情報はどこにも流れていない。
つまり、今回のガサ入れとは関係は薄い。
ただ、ドニがハーマン商会を見張っていたとは言える。
では、雇い主がウルフマン族ではなく、別の第三者、もしくは個人的恨みだったら?
行動に矛盾はない。
上からロアたちの動きを見ていると、軍隊のように統率が取れていた。3組に分かれて、忍者のように港に向かう道や屋根を伝って進み、誰かに
ロアが、船に荷物を積んでいる水夫たちに、大声で警告を発した。
「私は、古龍の森ウルフマン族族長の娘、ロア。古龍の森の貴重な動植物を密輸しようとしている者がいるとの通報を受け、立ち入り調査に来た。直ちに検査するので、こちらの指導に従ってほしい」
水夫たちも、だれが来たのか予め知っていたかのように、口答えせずその場に立っていた。
その顔には、呆れ顔や馬鹿にした嘲りともとれる微笑みを浮かべている者もいた。
ロアの配下が積み込もうとしている荷を改めようと手をかけた瞬間、ロアの声を上回る大音声が辺りに響いた。
「待て」
ロアたちの動きが一斉に止まった。
声の主は、船上にあった。
腕組みをしてロアたちを見下ろしていた。
ロアだけが、その声の圧力に対抗した。
「何を待つ必要がありますか、お兄様」
お兄さん?
ハーマン商会の船の上にロアのお兄さん?
これは、話がややこしくなってきた。
俺は、デイジーといつでも念話できるように、デイジーの視界にはいるように移動した。
「ロア。これは、俺が許可した荷物だ。おまえたちには関係ない。さっさとこの場を去れ。そうすれば、今回の無礼は見逃そう」
「無礼とは、とても次期族長のお言葉とも思えませんね」
「無礼だから無礼と言ったまで。これは、2日後にやってこられるドナール王国将軍への献上品だ。これで、我らウルフマン族はますます栄えていくに違いない」
ロアが露骨に鼻で笑った。以前屋敷を尋ねた時、通された部屋に飾られていたロアの肖像画を思い出した。その絵とのギャップがさらに激しくなった。
一言で言えば、その顔は凶悪だった。
「そんなこともわからんとは。以前から武術ばかりしていて頭が足りないと思っていたが、ととう頭がイカれてしまったようだな。我が妹よ」
ロアの表情から怒りの感情までもすーっと消えた。これは、いけない。
どうやら二人の関係は修復不可能な段階に発展していたようだ。
俺は、デイジーに念話で話しかけた。
だめだ。デイジーも兄妹の話に気を取られていて俺に気づいていない。
「このことは族長はご存知か?」
「親父殿は関係ない。この街のことは、全権委任されている。一々親父殿の顔色を伺う必要などない」
「それは、お兄様の勝手な判断。これは古龍の森全体の問題です。族長の判断があって然るべき」
「お前がそう思うなら、今から親父殿に聞いてみればよい。こっちはこっちでやらしてもらう。おい、水夫どもぼーっと突っ立ってないで、荷を運び込め」
これは、ロアに貸しを作るチャンスだ。俺は、デイジーにアピールするように、背を伸ばして羽ばたきした。
(おおーい、デイジー。気づけ。おおーい)
何度かの羽ばたきで、やっとデイジーが俺に気がついた。
(デイジー、今から俺がこの船を足止めするから、ロアに、族長に問い合わせするように進言しろ)
(わ、わっかりました)
デイジーがロアのすぐ横にきて、耳打ちした。
ロアは、真顔でデイジーの顔を見ると、うなずいた。そしてすぐさまネオと呼んでいた青年を呼び寄せた。耳打ちされたネオは、一度だけうなずくと、すぐさま北へ向かって駆け出した。
あとは俺が船が出港できないように船体に穴を開けるだけだ。これは、もう経験済みだから手加減さえできる。なんの問題もない。
まあ、俺の目が黒いうちは、積荷がこの港からでることはない。
まったく、古龍の森の財産を勝手に売りさばくなんてとんでもないやつだ。
さて、これでロアにも借りをつくれたわけだから、ドニの問題を多少切り出しやすくなった。
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