第46話 幕間

 病院の屋上から見る街は、普段見ている街とは違った趣があった。


 50年ぶりという大雪も、その後は天気が良かったため、ほとんどが溶けてしまった。


 日陰に一部、溶け残っている黒ずんだ雪の塊も、週末までは持たないだろう。


 風は以前として冷たいが、雪をどんどん溶かしていく陽の光を見ていると、もうすぐ暖かくなると期待せずにはいられない。


 下に見える中庭を車椅子に乗った女の子が看護師長と共に、笑いながら散歩していた。

 看護師長が上を見た。


 俺は、すぐさま首を引っ込めた。

 あの看護師長とは、相性が悪い。


 どうしたことか、どこにいてもあの看護師長に見られている感じがする。健太郎の病室にこっそり忍び込むのもあの看護師長のシフト次第なのだ

 感がいいのか、なんなのか。


 背後の扉が開いた。

 健太郎の母親で、俺から見れば義理の娘となる真里さんがやってきた。

 少し、息を切らしている。


 急いで登ってきたのだろうか、それとも運動不足か。ひごろから店の手伝いをしているのだから、運動不足ということはないだろう。きっと急いで登ってきたためだろう、などと考える。


 何か急用か、それとも健太郎の急変か。俺は、どんな話しをされるのかと思い、身構えた。


「お義父さん、ここにいましたか」

「ここにいるって、よくわかりましたね」

「はい。看護師長さんに教わりました。多分、屋上じゃないかって」


 まったく、いつ、俺が屋上に上がったのをみていたのか。

 俺は、上から睨んでやろうと、下を見たが、車椅子の女の子も看護師長も見えなくなっていた。


「あのう。お義父さん。ありがとうございました」

「何が」


 振り返った。


「健太郎が、手術を受けるって言ってくれました」

「そうか。まあ、なんだ。健太郎が決めたことだから」


「はい。私達も迷いましたが、健太郎が決心したので、私達ももう迷いません」


 話しはそれだけだろうか。そんなことならわざわざ階段を登って、俺に言いに来なくてもいいだろう。


「お義父さんが、健太郎に話してくれた話、その内容は聞いていないんですが、その話しを聞いて、決心したんだっていうんです。ありがとうございました」

「どうもこうもうない。健太郎が自分で決めたことだ。俺は、健太郎に手術を受けろとも、受けるなとも言ってないよ」


「わかってます。そういう意味じゃないんです」

「どうも、お義父さんが話してくれた昔話を聞いて、僕も自分の力で早く生きていけるように頑張るって」


 真里さんが、目頭を抑えた。


「そのためには、手術を受けるって。なんだか、しっかりしてきたというか、大人びたというか。お義父さんのおかげです。ありがとうございます」


 こんなに何度もありがとうと言われても、なんと返事をしたいいのかわからない。

 こういう雰囲気は苦手だ。さっさと退散しよう。


「それじゃ、俺はお店に戻るから」

「はい、ありがとうございました」


 退散、退散。逃げるが勝ちだ。

 人助けは、やっぱりガラじゃない。

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