第41話 契約
水夫は、部屋の真ん中に食事を置くと何も言わず出ていった。
俺は、部屋に残った。デイジーの頭の上にのって念話を試みたが、うまくいかなかった。
ミラさんの説明が蘇る。
(お互いに話したいという状態で、カーバンクル様が呼びかければ、念話は発動します)
俺の存在に気づいていないのだろう。姿を現すのがもっとも簡単な方法だが、他の女の子達に姿を
考えすぎかもしれないが、もしかしたら、ルフの手下の魔族が紛れ込んでいるとも限らない。
妄想がすぎるとは思うが、この場合、念には念を入れて正解だろう。
正体を
女の子たちをカクホしてしまおう。幸いすべての女の子はカクホ可能だ。
ただ、これも問題が2つある。
一つ目の問題は、どのアイテムを捨てて、女の子達をカクホするかということ。
同じ材質の小石や蜘蛛の糸などは、ひとまとめにしてアイテムブックで保管することが可能だ。蜘蛛の糸は、実際21本カクホされている。
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大黒蜘蛛の糸 21
希少品
特記事項 粘着性
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しかし、人族をカクホするとひとまとめということはできないらしい。
トムとデイジーをカクホしたとき、それぞれ別の項目として登録されたていた。
つまり、一人一アイテムとしてカウントされるため、10人の女の子を助けるためには、10個のアイテムを捨てなければならないということだ。どれを捨てればいいのか。毛布で包むという技は使えない。毛布は金貨でいっぱいだし、箱やかばんなど他に包むものを持っていない。
2つ目の問題は、人は希少品扱いだから、なにも考えないでカクホしてしまうとレベルアップしてしまうという問題だ。
レベルアップ条件は、保管数94、希少品8個である。つまり彼女たちを今の状態でカクホしてしまうと、希少品数を満たしてしまう可能性がでてくるということだ。
つまり、今回カクホのときの条件は保管数を95以上にしておかなければならないということだ。手順を間違え、保管数を94にしてしまうと望まないレベルアップをしてしまう。
ちなみに現在の保管数は95品だ。
さて、条件の整理はついた。
隣の女の子が突然消えて、その場所に全然関係ない石ころが落ちていたとしたら、女の子たちはどう思うだろうか。
きっと、騒ぎ立てるに違いない。
それは、避けたい。
だから、一度女の子をカクホし始めたら、何が起こっているのか女の子たちが混乱している間に、テンポよく全員カクホしてしまうしかない。
アイテムブックをにらんで、
最終的に捨てると決めた9つのアイテムは、防虫効果のあるセンテッド草、拾った木の実、雑巾、木製の皿、木製のコップ、木切れ、チロの犬舎の檻の扉、苦味健胃作用のあるカンの実、供物として保存しておいた鶏肉だった。
端っこの女の子からカクホしはじめた。
一人目をカクホしたときは、だれも気がついた様子はなかった。4人目のとき、やっと一人の女の子が3人がいなくなったことに気がつき、悲鳴をあげた。
ここまで来たら、悲鳴が水夫たちに届いていないことを祈るしかない。作戦は続行だ。
6人目の時、5人目の女の子が目の前で消えるのを見て、床を叩いて鳴らし、助けてくれと叫び声をあげた。
まったく、助けてあげようというのに、とてもひどいことをしている気になる。
結果的に女の子たちの声は誰の耳にもはいらなかったらしい。
最後、デイジー一人が部屋に残った。
俺は、トムにヘンゲした。
デイジーが声をあげようと息をのんだ。
「しっ、しずかに」
俺は、デイジーの口に手を押し当てた。
「念話ではなすんだ」
デイジーはうなずいた。デイジーは小刻みに震えていた。女の子たちが目の前で消えるという現象を見せてしまい、もっとも怖い思いをさせてしまったらしい。俺は手を離した。
(トムくん。どうやって。ありがとう)
言葉尻が涙声だった。
(君を助けに来た)
(今、ここにいた女の子達が消えたの、あなたの魔法?)
(そうだ。僕が安全なところに移動させた。彼女たちは無事だ)
(君も移動させたいんだが、そのネックレスを外してほしい)
(だめよ、このネックレスは外せない。あたし、夢をみたの。このネックレスをつけて戦う女の人の夢。夢のなかで、その人は、雷獣に変身して、魔族と戦っていた。ものすごく強いの。そして、信じてほしんだけど、夢の中で、その人があたしに語りかけてきたの。このネックレスは雷獣の首輪というのよ)
(突然、こんなことに巻き込まれて気が動転しているのはわかる。ゆっくり考えよう。そのネックレスを外してくれれば、明日の夜までには、アズーの元に送り届けることができる)
(ジジイには本当にやりたいことがあって、ずっとどこかで、あたしはジジイの邪魔をしていてんじゃないかって思っていた。これまで、ずっとジジイに見守られ、助けられて生きてきた。そうして、あの土地にずっとジジイを縛り付けていたのは、あたし)
(でも、それで縁が繋がって、結果的にあの遺跡を見つけられた)
(きっとだめよ。今のあたしが帰ったとしても、またきっと同じことが起こる。ジジイに心配をかけるだけ。だから、もう元の生活には戻れない。そう思うでしょう)
たしかに、ここから逃げられたとしても、あのルフという男は執念深くデイジーを追ってくるかもしれない。
(原因があたしにあるのだから、あたしが強くなる必要がある。自分のことは自分でなんとかしないと。そうなるまで、いや、こんどはアズーを助けられるようになるまで帰らない。今はまだ、うまく力が使えないけど、あたし、もう守られているだけでは嫌なの。あたし、戦えるようになりた。このネックレスとともに。ねえ、見て、まだ少しだけど、雷が使えるようになったの)
デイジーが右手の人差し指と親指でcのマークを作ると、その間に電気が放電した。
(段々使えるようになってきたの。不思議とネックレスが使い方を教えてくれるから)
なるほど、伝説級のアイテムなら、そんなことがあるかもしれない。
(今はまだ、あたしこれくらいしかできないけど、トムと一緒に旅をさせて)
俺は少し呆れた。
アズーに頼っていたのを、こんどは俺に頼ると言っているようなものだ。
俺になんのメリットがある。
もしデイジーが本当に伝説級のアイテムを使いこなせるようになれば、たしかに仲間としては心強い。
だが、それまでは足でまといで、デメリットでしかない。
正直、使いこなせるようになったら仲間になろうと言いたい。
それでも、もしここにトムがいたらどう言うだろうか、と考えてしまう。きっと、助けるよ、というだろう。なんせトムは人がいい。
そこまで思考してみれば、自ずと答えは決まっていた。
デイジーの手枷足枷をカクホして外した。
(わかった、君の手助けをしよう。だが、僕にはやるべきことがある。それは、とても大切なことで、他の人には任せられないことなんだ。そのためには、君を置き去りにしなければならない場面に出くわすかもしれない。それでも恨みっこなしでいい?)
(もちろん。覚悟の上よ)
(できるだけそのような状況に陥らないようにするつもりだから、ルールを作りたい)
(何?)
(ルールその1、僕の命令は絶対だ)
(わかったわ)
(では、早速、そのネックレスを外してくれ)
(うん。はい)
デイジーはネックレスをはずし、俺に差し出した。
(ありがとう)
俺はデイジーにネックレスを床に置いてほしいと言った。
受け取る瞬間電撃が来たら一貫のおわりだと思ったからだ。
少しビビりすぎだろうか?
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