第37話 告白

 念のため、デイジーに念話の方法を教えた。


 誰もいないし、誰にも話を聞かれないとは思ったが、もしかしたら、俺の正体を教えることになるかもしれない。念には念を入れるべきだ。


 デイジーとはすぐに念話で会話できるようになった。


(トムくんは、何者?)


 いきなり核心をつく質問だ。

 父を探して旅する10歳の手品師ではもう納得しないだろう。


 だが、しかし。


(僕が何者かは、ごめん。今は言えない。ただ、君の敵ではないことだけは信じてほしい)

(言えないわけがあるのね)


(そう。これは信用の問題じゃなくて、安全の問題なんだ)

(誰の安全? トムくんの、それともあたし?)


(みんなの安全といえばいいかな)

(みんな?)


 デイジーは顎に手を当て少し考え、今はそれで許してあげる、と言った。


(トムくんが、あの男や犬達からあたしを助けてくれたのは間違いないから信用する。それで、あたし達は何処にいるの?)


 俺は、話が次の話題に移ってほっ、と一息ついだ。


(それが、僕にもわからない。もしかしたら、アズーさんが探し求めていた遺跡なのかもしれない)

(うそ。ホントに? あたしたち見つけちゃったの)


(まだ、はっきりとそうだとは言い切れないけど)

(でも、どうやって)


(どうしてここにいるのか。その経緯を説明するには、すこし手間がかかるんだ。これから僕の力の一端をみせるから驚かず、念話をつづけてほしい)

(わかったわ)


 俺は、小鳥にヘンゲして、デイジーの周りを一周して、デイジーの肩にとまった。

 デイジーは両手で口を覆い、目を見開き驚いたが、声は出さなかった。


(僕は、ある条件を満たせば、あらゆるものに化けられる)

(うそ。そんな魔法、聞いたことない)


(これは特別な魔法なんだと思う。この能力でノミに変身して、ここに通じる道を見つけたんだん)


(ノミ? あたしは、どうやって連れてきたの)

(それは、その)


 俺は、口ごもった。どこまで話していいのだろうか。いや、もしかしたら、もうすでに話し過ぎかもしれない。


(それは、秘密の方法で)

(そう、それも秘密なのね)


(ごめん)

(まあいいわ。でもここのことは、ジジイに話すのよね)


(そうだね。話しをしないといけないだろうね)

(そうよ、ジジイの夢なのよ)


(今、話した能力のことは、アズーさんには言わないでほしい。うまく話せるかわからないけど、僕からアズーさんには説明したい)

(わかった)


(それよりも大切なことをデイジーとアズーさんに話さなければならない)

(何?)


(君をしつこく狙うあの男は、魔族だ)

(あの男が魔族? まさか。この辺に魔族が出没するなんて聞いたことない)


(でも真実だ。僕は、この森でヤツが人の精気を吸い取るところを見たし、魔族の姿から人の姿に戻るところみた)

(どうしてあたしが狙われるの)


(それはわからない)

(小屋で寝ているときとか襲ってこないのはなぜかしら)


(多分、ヤツが直接手を出せないでいるのは、アズーさんが言っていたこの森や荷馬車、デイジーがお守りとして持っている護符のお陰だと思う)

(そうかもしれないわね。あの男に町でからまれたときも、護符を忘れていた時だからから)


(しかし、どうしてデイジーが狙われているのかは、あいつに直接聞かなければわからない)

(あ、そうだ。大揺れ。あんな大揺れ今まで経験したことある? ジジイや小屋、水車小屋は大丈夫かしら)


 デイジーは落ち着きなく、周りに視線をめぐらした。


(今後のことは、アズーさんと話し合う必要があると思う。神聖帝国にいたんだから、魔族への対応はアズーさんにいいアイデアがあるかもしれない)

(ねえ、トムくん、急いで帰りましょうよ)


(そうしたいけど、奴らが完全に諦めるまで、少しここにとどまっていたほうがいいと思う)


 俺は、どうしても気になってしょうがない石棺に目を移した。

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