第7話 脱出

(アイテムブックの保管数が20に増加しました。新しいユークスキル目利きと探索を習得しました)


(目利きとはなんですか?)

(カーバンクルの視界にあるカクホ可能なアイテムを光点でお知らせする能力です。現在、通常品のみ目利き可能です)


(さっそく目利きを使いたい)

(かしこまりました)


 視界全体がいきなり真っ白に輝いた。


(眩しすぎる)

(光量を落としますか)

(おねがいします)


 次第に光量が減少していき、物の形が見えるようになり、物自体の色が判別できるようになった。

まだまだ、明るい。

 最終的に、物からジンワリとにじみ出るような感じの光量まで落とした。


(物自体が光りだすの?)

(いいえ、カーバンクル様だけに見える光です)


(なるほど、便利だ。いちいち考えなくても見ただけで、カクホできるかどうかわかる)

(他にも条件をつけて表示させることが可能ですが、現在、カーバンクル様からコントロールすることはできないようですので、私に命令してください。探索についても説明いたしましょうか)


(はい、お願いします)

(これは、すでにアイテムブックに登録されているアイテムを探すのに使います)


(例えば?)

(例えば、ヤシシを探索モードで表示します)


(お、なんか小さい点が水平にならんでいるけど)

(はい、その光点一つ一つが一匹のヤシシです。距離によって、光点の大きさ光の強さが変わります)


 ここから遠いところにいることは直感的にわかる。壁とか建物を透過して探し出しているらしい。


 俺は、探索を中止し、目利きで光っている物を確認してまわった。念の為、棚に乗っているアイテムを確認して回ったが光っていなかった。棚自体は俺の予想通りカクホ可能だった。


 驚いたことに、動かなかった扉もカクホ可能だった。さらに、建物自体も光を発していてカクホ可能なことを示していた。

 つまり、外に出ること自体はいつでも可能だったわけだ。


 だが外に出られればいいというわけじゃない。エンプ族に見つからず逃げ切ることが大事だ。扉や建物全体をカクホして逃げ出すのは最終手段にとっておこう。


 そのためには、このままレベルアップするという基本方針で良いようだ。

 次のレベルアップのためには、アイテム20個が必要だが、これは、もう宝物殿の外に出なければ達成できそうにない。


 俺は、もう一度部屋の中を歩き回った。外に出るための穴を開けるのにふさわしい場所はないだろうか。カクホして穴が空いてもできるだけ小さい範囲ですみ、外のエンプ族に気付かれない場所を探しまわった。


 壁はどれも巨大な一本木を横に積んで組み上げられている構造だった。

 これらをカクホしたら、すぐに逃げ出したことがバレてしまう。下手をしたら建物自体が崩壊するかもしれない。


 床板はどうだろう。前足で音を確認した。低い音がした。厚みはだいぶありそうだ。床下は地面だろうか、それとも隙間はあるのだろうか。


 宝物殿に入る時階段を登ったことを思い出した。

 家の構造には詳しくないが、湿気が上がってこないように湿気を逃がす空間があるはずだ。


 床には長方形の板が何枚も隙間なく敷き詰められていた。その長方形の板、一枚一枚は大きく立派で、その板に足をつければ家族一同食卓で食事を囲むようなテーブルになりそうだ。床板を抜いたら、棚が傾いて倒れてきたなんて自体も起こりうる。


 俺は入り口の反対側の角に中途半端な大きさの板を見つけた。ここだけ長さをあわせられなかったのか、他に比べ極端に短かった。

 潜り込むのも可能な大きさでちょうどいい。建物の角だから、棚が傾く心配もない。


 そうは言ってもカクホすることに俺は躊躇した。縄と同じで、カクホしたらもう元にはもどせない。引き返すことはできない。


 慎重に行動するべきではないだろうか。

 あとどれくらい時間が残されているだろうか。

 他に都合のいい場所、方法はあるのではないだろうか。


 俺は、床や天井、壁を見ながらもう一度部屋の中を確認してまわった。

 しかし、新しいアイデアも、そこより適当な場所も発見できなかった。

 ここがベストだ。

 時間のほうが大切だ。

 そう自分に言い聞かせて、俺は角の床板をカクホした。


 地面や床下の空間が見えると予想していたが、板がもう一枚現れた。

 これは困ったことになった。

 この下の板がどれくらいの大きさなのかは、上から覗いているだけではわかなかった。この板をカクホしたときの影響が判断できない。


 俺は試しに、カクホした板をカイホしてみた。穴にはめようと必死に押し込んでみたりしたが、全然はまらなかった。

 カクホしてしまった角の板は、やっぱりもう元には戻せない。

 後戻りはできないのだ。


 先に進むに賭けるしかない。板をカクホしなおした。

 一度、深呼吸してから、下の板をカクホした。

 外の空気が吹き込んできた。夕日に染まる草むらが眼下に見えた。

 

 高い。

 二階の教室から地面を見ているような高さだった。

 

 今のところ、宝物殿の床が傾いたり、建物が揺れ始めたり、どこかに亀裂が入るような音はしなかった。

 

 首だけ出して下を覗き込んだ。高床式倉庫の底を支える板を一枚カクホしたようだ。この宝物殿を支えている何本もの太い柱が見えた。


 飛び降りれるか、どうか微妙な高さだ。穴を明けた場所のすごそこに建物の四隅を支える、一層太い柱が見えた。手を伸ばせば、届きそうな距離だった。


 入口の方角から笑い声が聞こえた。きっと宝物殿の入口の警備員だろう。籠城するといっていたわりにエンプ族はのんびり構えているようだ。


 俺は、穴から体を乗り出し、片手を伸ばし太い柱にしがみつこうと試みた。足が短いためか、届かなかった。床板に爪をたてて片手でぶら下がった。体を前後に振り、目をつむり柱に向けて飛びついた。


 柱に体があたった。

 夢中で爪を柱にたてた。

 柱につめが食い込み、落下がとまった。高さを確認した。残りあと1メートルぐらいで地面だった。


 柱から飛び降りた。草を押し倒す音がした。

 笑い声がやんだ。

 音に気がついた警備員が辺りを警戒しているのかもしれない。


 草むらの中で身を潜め、じっと様子を伺った。再び笑い声が起こった。

 よし。


 まずは、自分の体の下にある雑草をカクホした。なんと、宝物殿に乾燥して吊るされていた、防虫効果のある草だった。これでは、保存数は増えなかった。


 ついで、足元に転がっていた小石をカクホした。


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トラカイ石

通常品

特記事項なし

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 これでも立派な一品目だ。

 レベルアップまであと19個。

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