第4話 ユニークスキル

 まだまだ、聞きたい疑問がやまほどある。

 神話級品とは何か、秘匿とは何か、秘蔵や封印ではないのか。


(なぜ、先代カーバンクルは転生の旅に出たのか、何か聞いてないですか)

(先程、仮初の勝利と申しましたが、カーバンクル様は、魔王を秘匿することに成功いたしましたが、脅威は残ったままとなりました。不甲斐ない自分には、修行がたりないと言われ、旅立たれました)


(秘匿というのは)

(カーバンクル様のユニークスキルの一つで、アイテムの中にアイテムを隠すスキルです)


 話を聞けば聞くほど新しい言葉が出てきて、いつまでたってもわかったという気分になれない。

 面倒でも、少しずつ解き明かしていくしかない。


(ユニークスキルとは?)

(カーバンクル様だけが持つスキルです。ステータス画面で現在有効なユニークスキルを確認できます。確認いたしますか)

(もちろん、する)


 目の前にテレビゲームでよく見るような半透明なウインドウ画面が現れた。

 一番上に、ステータスとカタカナで表示されていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

種族 神獣

属名 カーバンクル

HP 10

MP 0

ステータス異常 なし

ユニークスキル

アイテムブック

保管数 0

カクホ

通常品  接触のみ可

詠唱回数  10回。

カイホ

指先からのみ コントロール不能

レベルアップ条件

保管アイテム 10個

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 俺は、画面を食い入るように見つめた。


(ユニークスキルとは、魔法ですか?)

(いいえ、違います。カーバンクル様には魔力はございません。よってカーバンクル様は魔法を使うことはできませ)


 なるほど、MPは0になっている。


(この世界には、魔法がある)

(ございます)


(ミラさんにお尋ねしたいんだけど、このHP10ってどれくらいなんだろう)

(質問の意味がわかりません)


(いや、ほらHP 10ってすぐに0になりそうだなっ、と思ってね)

(はい。すぐに0になるでしょう)


(すぐって、ちなみにどれくらい)

(例えば、ナイフで腹を刺された場合、刺された部位によりますが、一撃で死亡する確率のほうが高いです)


(弱い、弱すぎないか。あくまでも神獣なんでしょう)

(こればかりは、仕方ありません)


(ちなみにレベルアップすればHPやMPは増えるよね)

(私の記憶では、カーバンクル様はいたしませんでした。カーバンクル様がレベルアップするのは、ユニークスキルのみでした)


 俺は、ステータス画面をもう一度眺めた。

 魔法が使える世界で魔法が使えず、物理的攻撃を受ければほぼ一撃で死亡確定。


 なんとも心細いが、できることをコツコツやるしかない。現代アート作品収集と同じだ。自分の購入できる範囲を見極め、あ、俺、ヤクザに借金して殺されたんだった。


 それは、それ。これは、これ、だと割り切ろう。ポジティブシンキング。

 望みはある。ユニークスキルだ。とりあえず、レベルアップのことだけを考えよう。そのうち、ものすごいユニークスキルを習得するかもしれない。


 突然、正面の草むらが音をたてた。俺は身構えた。そこから、大きなイノシシ、よく見れば、牙が象のように長く反っている動物があらわれた。


 その生き物の目は半分閉じている状態で、酒でも飲んだのか千鳥足で神殿内に進み、まっすぐ俺に向かってきた。俺の手前まできて、ばたっと倒れた。お尻に何かが刺さっていた


(なんですか、これ)

(ユニークスキル、カクホによって情報が得られます)


(カクホとは)

(カクホには、一括でカクホする方法と個別にカクホする方法がございます。個別カクホは更に様々な条件を付与することが可能です。指定がなければ一括カクホになりますので、個別カクホにする場合は、その旨、先に宣誓してください。カクホしたいアイテムに接触した状態でカクホと10回念じてください。カクホしたアイテムは、すべて一度アイテムブックに保管されます)


 普通は一括、指定すれば個別。その違いはよくわからないけどせっかくなので、普通ではない方法、個別カクホを試してみよう。


 俺は、倒れている体にふれ、言われたとおりに念じた。

 途中で何回念じたか忘れたが、続けて念じていると、突然半透明な画面が目の前に現れ、目の前の動物が消えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヤシシ

通常品

特記事項 なし

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

麻酔針

通常品

特記事項 麻酔効果あり

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


(おめでとうございます。カクホ成功です)


 いきなり2つのアイテムを手に入れることができた。この動物がヤシシで、きっと誰かに麻酔針をうたれたのだろう。

 そのものが何かはわかったが、俺が思っていたほどの情報は得られなかった。


(通常品とはどういう意味でしょうか)

(はい、アイテムは、その希少度によって普通品、希少品、別格品、伝説級品、神話級品の5つに分類されます。現在のカーバンクル様のレベルでは通常品の場合のみカクホすることが可能です)


 やっと神話級品という言葉が出てきた。つまり、最高に希少なアイテムが神話級品というわけだ。


(ミラさん、今回の場合、もし、一括カクホしていたらどうなったの)

(その場合、アイテムブックにはヤシシと表示されるのみで、麻酔針の情報はえられません)


 アイテムを細かくきちんと管理するには個別カクホが良さそうだが、一括カクホがデフォルトなのには何か理由があるのだろうか。

 その時、俺のお尻のあたりに、注射針を刺されたような痛みが走った。


(はっ?)


 俺は、痛みが走った部位を見ようと、体を曲げた。ちょうど尻尾とお尻の境目あたりに、小さな針がついた吹き矢が刺さっていた。


(げ、これってもしかして)


 俺は、自分の鼻面で尻に刺さった針を叩き落とした。針が飛んできたと思しき方向をじっと見つめた。

 森は変わりないように見えた。不審な物音も感じなかった。


 誰かが居ることは確かだ。360度柱以外遮る物のないこの神殿の中でぼーっと立っているわけにはいかない。

 すこしでも身を隠せる場所を探して石碑のそばに向かった。


 まっすぐ歩いているつもりだが、まっすぐ歩けなかった。まずい、薬が効いてきたのか眠気が襲ってきた。これでは、ヤシシと同じじゃないか。


(ミラさん、なんか解毒剤とか眠気をとるクスリとはもってない)

(残念ながら、もっておりません)


 逃げないと、とは思ったが、意識は朦朧とし、足がもつれて倒れないでいるのが精一杯だった。

 もう一歩も歩けない、ちょっと横になりたいと思った瞬間から俺は、気を失った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る