第2話・水の子

 俺は目が覚め、老人が言ったことを思いだす。


「思った通りに水を操れる? いったいどういうことだ?」


「剣に水の力が宿る? 意味わからん」



 とりあえず、俺は近くにあった唯一の短剣を手にとった。


 パーティー内でも、荷物持ち、雑用係の俺は武器を持つ必要がなかった。

 持ったとしても最弱の俺が敵を倒せることもなく、必要なかったからだ。


 最悪、敵に絡まれた時に自己防衛するために短剣。


 だが、幸いパーティーメンバーが優秀だったおかげで俺は今まで敵に絡まれるようなこともなく、この短剣は専ら、料理用や、メンバーが倒した魔物の解体時ぐらいにしか使用していなかった。



 その短剣を持って近くの雑木林に行った。


 短剣を手に握り、大きな木を切りつけた。



 木には小さく薄い傷がついただけだった。


「やっぱり何もできないじゃないか……まぁ当たり前か、短剣で大木に切りつけても傷ができる程度のは当たり前のことだな」


 俺は納得して、帰ろうと思った。


「ん? でも、じいさんが言ってたのって、水の力を使って? 水が力を宿す? って言ってたよなぁ?」


「ただ切りつけるだけじゃダメなのか? 水を纏わせるようにイメージするのか?」



 今度は、俺は普段やっているように、水を出すときに念じている感じで、剣に水が纏うように念じてみた。



 そうすると今まで小さかった短剣の剣先が伸びたように見えた瞬間、水飛沫が飛び散った。



「なんだこれ!」


 俺はビックリして思わず短剣を放り投げ、尻餅をついてしまった。


 途端に短剣からは、水が出るのが止まっていて、いつもの小さなちっぽけな短剣に戻っていた。



「は? 何?」

「何だったんだ? 今のは?」


 恐る恐る俺は短剣に近づき、もう一度手にして、再び水を纏うように念じてみた。

 先程と同じように短剣の剣先が伸び、表面には水を纏っていた。



 俺は思い切って、その短剣を大木目掛けて振った。



 !



 ギリ、バキッ、メリッ、メリ

 バキバキバキーーーーッ


 ドーーーーーンッ



 大木は、大きな音を立てて地面に倒れた……






「はぁ? なんだこれ? ありえないだろ?」


 俺は自分の短剣をゆっくり見た。

 その短剣からはスッーと水が流れ落ちた。


 怖くなった俺は短剣を投げ捨て、しゃがみ込んでしまった。



「今の俺がやったのか? なんだこれは? これが『水の子』の力?水を自由に操れるってこゆこと?」


 あまりにもの衝撃で言葉もおかしくなっている自分に気づかなかった。

 そして非現実的な行為に驚愕し、知らず知らず独り言が増えていたことにも。





「思った通りに操れる?」





「ハハハッなんだそれ? 聞いたことないや……」


「水で大木を切る? ハハハッ」





「マジか……」



 それから、俺はさっき思わず投げ捨てた短剣を拾い、再び手に握り念じた。


「水よ纏え!」


 さっきと同じように、短剣の剣先が伸び、水飛沫が剣から飛び散っている。

 再び俺は近くの大木に向かって剣を振った。


 メキメキと凄まじい音をたてながら、先程と同じように大木は地面に倒れた。

 その後も、俺は一心不乱に剣を振るい、夢中で何本も大木を倒し続けた。




「ハァ」  

「ハァハァッ……」


 カラン

 剣が落ちた。



「ハハハッ何だこれ?」


「うそだぁー」


「ありえない。ハハハッ」


 一瞬で大木が薙ぎ倒され、ゴロゴロと地面一杯に横たわったその異様な光景を見て

 俺は笑うしかなかった……



「水の子?」



「チート過ぎだろこれ……」


 短剣で大木が倒せる?

 しかも全くと言っていい程、力を込めずに?

 まるで、こんにゃくを切るぐらいに、スッと切れたし。



 おかしいだろ。

 絶対……


 自分の安物の短剣を見つめる。


 刃こぼれすらしていなかった。

 短剣から水の雫がポトリと一粒落ちただけだった。


 木々が倒れ、視界が広くなった雑木林を見て、俺は目眩がしそうになった……










「俺、木こりになろうかな?」










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