第5話 前のバイトの人


「そう言っていただけるといいんですが・・・」

「前の人はすぐいなくなってしまって」

「え?他にもいたんですか?」

 俺はびっくりした。自分だけだと思っていたからだ。

「ええ。いましたよ。僕は信用してたんですけどね。金を持ち逃げされてしまって・・・」

「それは災難でしたね。警察に届けましたか?」

「はい。でも、見つからなくて」

「その人とはどうやって出会ったんですか?」

「江田さんと同じですよ。ツイッター」

「で、いくら取られたんですか?」

「五千万」

「えええぇぇぇぇぇ!そんなに!」

「ええ。リバースモーゲージでお金を借りてたんですよ。家を担保にして借りて、僕が死んだら家を取られちゃうんですけどね」

「でも、リバースモーゲージって利息がけっこうかかるんじゃ?」

「ええ。でも、お金があるっていう安心感が欲しくて」

「はぁ・・・五千万は大きいですね」

「僕の残りの人生では稼げない金額ですよ」

「じゃあ、どうやって生活してるんですか?」

「まあ・・・いろいろ」

 障害年金かなと思った。

「何級ですか?」

「僕は2級です」

「そうですか・・・」

 聞いてもよくわからない。後でネットで調べよう。俺の小遣いの毎日五千円を本当に払えるんだろうか・・・。俺は不安になった。

「その人はどのくらいいたんですか?」

「半年くらいですね。お金がない人で、住むところがない人でした」

「じゃあ、ちょうどよかったんですね」

「ええ・・・でも、ここに女を連れ込んだりもしてて。僕の精神状態が悪くなっちゃって。女と二人で金を取って逃げたんです」

「えっ?でも、何で捕まらないんですか?」

「さあ・・・警察も忙しいんでしょうね」

「どうしてその人にしたんですか?」

「まあ・・・返信くれたんで。DMしても、あまりくれる人がいないんですよね」

「あ、そうですか。じゃあ、DM出しまくっていたんですか?」

「もう何千人ですよ・・・江田さん、よく返事くれたなと思って」

 俺はむっとした。ナンパの極意はやっぱり数を打つことだ。俺はそれを忘れていた。


「前のバイトの人はなにやってる人だったんですか?」

「音楽関係でした。歌手志望の人で、軽かったですよ。一緒に住まないか聞いたら全然迷いませんでしたから」

「その人にもお金は払ったんですか?」

「いいえ。その人の場合はないです。江田さんは・・・イケメンだし」

 俺はぞっとした。やっぱりゲイかもしれない。

「イケメンっていいですよね。女性にもてるし。自分のこと好きになれそうだし」

「いや・・・そうでもないですよ」

「僕も江田さんみたいな顔だったらなぁ。女の人も、江田さんが誘えば断らないでしょう」

「そんな訳ないじゃないですか。女性はそんなに軽くないですから。男とは違いますよ。で、どうして僕には金を払ってくれるんですか?」

「ただ、イケメンって普段、どんな感じか一緒に暮らしてみたくて」

「はあ」

 意味がわからなかった。

「僕なんかつまらない生活してますよ。金がないからほとんど出かけないし」

「そうですか。じゃあ、どっか、行きたいところがあったら行きましょう」

「そうですねぇ・・・」

「ありませんか?行きたいところ?」

「う~ん。どこでもいいなら、名店でご飯を食べるか、風俗ですかね」

「いいですね。行きましょう!」

「俺、金ないですけど」

「払いますよ。じゃあ、明日とかどうですか?」

「え、平日に?」

「土日の方がいいですか?」結局、金曜日にしてもらった。ただ飯をご馳走になって、ただで遊ばせてもらうなんて、いいバイトだなぁと思った。


 寝るまで俺たちは内容のない話をしていた。俺が寝たのはAさんの部屋。床に布団を敷いて、Aさんはベッド。楽だった。これで1万円か。ただの話相手。しかも、うつ病には全く見えない、気さくな人だ。


 Aさんは俺がいる間は普通だった。ただ、いびきがすごかった。寝れないほどではないが。


 朝起きた時、俺は早速「1万円もらえるんですよね?」と聞くと、彼は「すいません。お金おろすの忘れてて」と謝った。俺は本当にもらえるのか不安になったが、怒っても仕方ないので、次回お金を下した時にまとめてもらうことになった。

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