第30話

中弓家の皆様が今日の夜にお越しくださるということで我が蛍雪高校は新装と見間違えるような輝きを我々教師一面に見せていた。

あらゆるものが整理整頓され各教室、いやこの校舎に埃の住処はないのではというくらいのきれいさを誇っていた。

そんななか...

「全員撤収」

今回、校舎に残る、つまり中弓様と面会できるのは三人。

あんまり多くても中弓様のお気分が悪くなられてしまうのではという配慮の下だ。

残る先生方は電話をとった、私、坂月と校長の笹原、そして編入したら、なるであろう学年の主任である長島先生

そんなとこで私は勿論、普段から頼れる姉御肌の長島先生も今は借りてきた猫のようにびくりとも動かない

そして笹原校長先生も緊張しすぎているのかスーツのボタンが掛け違っている...ってまずいまずい

「笹原先生」

「な、なななな何ですか、坂月さん」

「緊張しすぎですよ、それにスーツ...」

「あ!」

「お願いしますよ、笹原先生はここの教師陣のボスですから」

「わ、分かったわ」

プルプルプルプル!!!

「ひゃう!」

「笹原先生、電話電話」

「....っごく...」

がちゃ

「もしもし」

「お電話ありがとうございます、蛍雪高校、学校長の笹原です」

「あら校長先生が出てくれるなんて太っ腹な学校ね」

「は、はぁ」

「まあいいわ、中弓志保よ、あと10分で着くわ」

「かしこまりました。ちなみにお車でしょうか?」

「そうだけど?」

「駐車場..........」

電話口であと十分で来ると分かってから私と長島先生は言葉が出なくなっていた。

これが緊張なのか男性に会えるとということで興奮しているのか、または両方なのかはわからないが...

そんな私と長島先生は先に正門に向かった。



車のライトが通りを照らす度にびくっと反応してしまう私の体はどうしてしまったのだろうか。

ライトがたびたび通り過ぎる見ている中、私は昔のことをふと思い出した。


そんな昔の思い出は今でも自分が信じられないほど濃い記憶でもあった。

今から約20年前、当時、まだ小学一年生だった私は何にもわからず他人の庭に入ってしまうことがたびたびあった。

そんなある日、まだ右も左もわからなかった私はいつものように他人の庭に侵入した。

その家はとんでもなく広い家なのに全周が柵に覆われていてはいるのは不可能なはずだった。

しかしそんな不可能な目標が私の遊び心を動かしたのか、私は躍起になっては入れそうな穴はないか探した。

そして侵入する前の前日に見つけた。

そんなこんなでなんとか侵入した私はある一人ぽつんと席に座っている人間を発見した。

連日の雨でどろどろになった私の眼にはその人が神様のように感じた...いや神様だったのだろう。

私の目の前にはその人を中心にした虹が映った。

そこまでは覚えている、しかし...

そんな奇跡の出会いをしたあと、私はふと気づいたら自分の部屋にいた。

そのことを母親に話しても、あなたは普通に帰ってきたわよとにわかには信じがたいことを伝えられた。

そんな私は....これを自分の心の中にずっと止めておこうと思った。

だってその人の顔はこの世界のすべての人間より整っていて完璧だったから...


昔話を思い出していただけでもうすでに十分は経ってしまっていたのだろう。

私は長島先生につられて正門を開けた。



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