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「誰かぁぁあ〜。数学の宿題が終わってる神はいらっしゃいませんかぁ……?」
そんな馬鹿みたいなセリフを口から放ったのは私。
「もー、
「
「はいはい。次からはちゃんとしなよね?」
「はーい」
妬ましく見える優等生に親切にされると正直いい気分じゃない。
素直に感謝すら出来ない私は酷いやつだ。
「すまん! あたしにも神の宿題を写させてもらえないだろうか……!?」
声のした方を見ると
「あんたもか!? まぁ、想像はしていたけれども……! まったくもう……」
梓は呆れたように深く息をついた。
「
「
2人はそう言うとドラマなどでよく見る感動の再会シーンのように抱き合った。
「くだらない茶番はもう終わり! 数学1時間目だよ? ちゃんと終わるの?」
梓の言葉に2人は思い出したかのようにシャーペンを握った。
「すいません。全力で答えを写させていただきます……」
――キーンコーンカーンコーン
「みなさん朝礼ですよー? 早く席に着いてくださーい」
先生が教室に入ってくるとみんな慌てて自分の席に着いた。
「出席をとりまーす。今日来ていない人は……」
先生が出席簿を開くと「遅れてすいません!」という声が教室の後方から聞こえた。
声がした方向に首を動かすとドアの前に
先生は「柊くんおはようございます。なにかあったの?」と心配そうに尋ねた。
「いやー。乗り換えの時に反対方向の電車に乗っちゃったんですよね〜」
柊は照れたように頭をかいた。
「あら〜。それは大変でしたね。お疲れさまです」
先生はクスッと笑いながら言った。
クラスメイトも「お前何やってんだよ〜」と笑っていた。
陽葵も柊らしいなと笑う。柊はちょっと天然で愛されキャラだ。
「今日は特に連絡はありません。柊くん、葉月さん、朝日さん、雨宮くんはこのあと職員室まで来てください。以上です」
え――
先生からの突然の呼び出しに陽葵は驚きの色を隠せなかった。
朝礼が終わると4人は不安を胸に膨らませながら先生のいる職員室へと向かった。
「あのね。これをみんなに渡さないといけなくって」
先生はそう言うと4人にプリントを配った。
そのプリントに目を通してみると背中に水をかけられたような感覚になった。
「な、なんですか……? これ……」
そう言った海音の声は頼りなく震えていた。
『心の相談窓口一覧』と書かれたプリントにはたくさんの電話番号が書いてあった。
「心のアンケートってあったでしょ? まぁ、その結果ですね」
こんなことになるなら正直にアンケートに答えるべきじゃなかったと少し後悔した。
「え、じゃぁ俺達ただ病んでるってことですか?」
単刀直入すぎる。もう少し空気を読んでほしいものだ。
「まぁ、何かあったら先生に相談していいからね!」
学校の対応は紙切れ1枚と相談しにくい先生との相談権だけなのかと呆れる。
先生は授業の準備をしないといけないと言ってその場を去った。
取り残された私達。変な沈黙が続くこの空間は鉛のように重かった。
「――あ! 数学の宿題やらないとやばくね!? ね! 海音!?」
沈黙に耐えれなかった陽葵は飛び上がるように大きな声で海音に尋ねた。
「あ、忘れてた! まじやべぇ。そういえば、あんた達はもう終わってんの?」
海音は宿題が終わっていない仲間を見つけて安心しようとしているのだろう。
「あー。家に忘れちゃったから明日出すー」
柊は少し笑いながら頭をかいた。
「俺は昨日の夜、爆速で答え写したからもう終わったぞ」
雨宮は海音に得意げな顔を向けた。
「あんたそんな友達いたっけ?」
「えー、酷くない?」
――キーンコーンカーンコーン
「あーー! 授業開始じゃん! 結局宿題終わらなかったし!」
「大丈夫だ陽葵。私も、きっと柊も終わっていない。そして雨宮も私達が宿題を写すために提出しないことだろう」
「たしかに〜! 雨宮様! 感謝永遠に!」
「ちょ、なんでそうなるんだよ! 俺は絶対に見せないからな!」
「雨宮! 俺にも見せてくれ!」
「柊は家にあるんだろ!? 絶対嫌だね!」
4人はプリントを握りしめながら教室まで走った。
みんな、生きづらさを抱えている。全員がそのことに気づいた。
だけど、誰もそのことに対して突っ込まなかった。
気遣ってくれているだろうか、それとも隠しているのだろうか。
だけど、このまま終わってしまうのは寂しい。
そう思ってるのは私だけかもしれない――
休み時間になると
「ねぇ、陽葵。同盟組まん?」
「同盟って何の同盟よ」
「私と陽葵と柊と雨宮で。病んでる同士もっと仲良くしたいじゃん……?」
海音は恥ずかしそうに小声でそう言った。
『同盟』私はその言葉を聞いて自分の胸に淡い喜びが滲むのを感じた。
「いいじゃん。『病み期同盟』でも結成するか!」
海音は私の言葉を聞くと少し安心したように笑った。
「だよね! 陽葵なら分かってくれると思ったよ!」
「じゃぁ、残りの2人も勧誘しましょうかね!」
柊と雨宮に声をかけると意外に2人ともあっさりとオッケーした。
「じゃぁ、俺が家に帰った時にグループLINE作っとくわ」
柊は任せとけとグッと親指を立てた。どうやらノリノリのようだ。
「柊って俺のLINE持ってたっけ?」
「は!? 入学式の日に交換したの覚えてないのかよ!」
「えー。覚えてない」
「雨宮ぁ! 俺は覚えてるんだぞ!? 酷いじゃないか!」
柊がそう言うと4人は笑いに包まれた。
学校では普通に明るい私達。
家でも明るく振る舞って自分の居場所がどこなのかよくわからなくなっていた。
私がこんなに辛い思いをしながら生きてることなんて誰も知らないんだなと思うと孤独で押し潰れそうになる毎日だった。
でも、今は独りじゃない。
そんな気がする。
【病み期同盟員】
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