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陽葵が家に帰ると『病み期同盟』と書かれたLINEグループに招待されていた。
「柊、本当に作ったんだ……」
改めて文字で見ると病み期同盟なんて痛いような気がして少し恥ずかしい。
『誰か夜一緒に話せる人居ませんかー?』
柊がグループLINEにメッセージを送ってきた。
『俺、多分今日もオールすると思うんだよね。1人でずっと起きてる時って結構ネガティブになるから誰かと話していたいんだけど』
あの天然がネガティブになるなんて正直、実感が湧かない。
『いつも2時くらいに寝てるからそれまでだったら良いよー』
『ゲームしながらでも良いなら』
海音と雨宮が答えた。
『私も寝落ちするまでだったらいいよ〜』
陽葵も続けて返信する。
『おけ! じゃぁ決まりな!』
『あのさ』海音が一言送ってきた。
『みんなこの中では思ったことバンバン言っちゃって良いようにしようよ。みんながどんな事を言っても私は受け止めるから、みんなも私がどんなこと言っても受け止めてね』
私が知っている海葵のテンションじゃない。
陽葵が『わかった』と返信すると続けて柊と雨宮も『おけ』『了解』と返事をした。
するとすぐに海音からメッセージが届いた。
『終わんない。数学の課題が全然終わんない』
『課題が終わった人みんな提出したし』
『まじで死ぬ。死んでいいかな』
『机の中に包丁あるから』
唐突すぎる発言に思わず「えっ」と声が洩れてしまった。
海音は情緒不安定なのだろうか。
雨宮は『そんなこともあろうかと』と解き終わっている課題の写真を送った。
『え、本当に提出しなかったの?』海音は冗談だったのにと驚いているようだ。
『いや、昨日の夜に爆速で写した友達の課題』
『おぉ、びっくりしたwありがたく写させていただきまーす』
海音の言葉を聞いて思い出した。
夏休みの宿題が終わらないという理由で自殺をした男の子のニュースを。
世間では、そのくらいで自殺なんてするなという声が飛び交っていた。
そして、何も知らない学生たちは宿題を無くす理由にその男の子を使った。
男の子はたくさんの思いを抱えながら生と死の間を必死に生きていたのだろう。
つまり、宿題は自殺の引き金となっただけであり、直接的な原因なんかじゃない。
陽葵はその男の子のことを知らない。
だけどそうだったんじゃないかと今思った。
『てか、机の中に包丁あるってどゆこと? おもちゃ?』柊が尋ねる。
『レターナイフ』
なんとも言えない海音の返信に対して3人は『なるほどね?』としか返せなかった。
『俺、なんかめっちゃ頭痛いから寝るわ。多分夜にまた起きるー』
柊はそう言うとSeeYouと書かれたスタンプを送った。
3人は『お大事に』『薬飲んでな』と返信した。
柊は1週間に2回か3回くらいしか学校に来ない。
毎回、頭が痛いとかお腹が痛いとか微熱が出たとか言って休んでいる。
今までずっとズル休みしてるなと思っていたが本当だったらなんか申し訳ない。
『私も数学の課題しないとだから』
『俺もゲームしたいわ』
2人のメッセージを見た陽葵はスマホを閉じてベランダに向かった。
ベランダでぼーっとするこの時間が1番好きだ。
頬を撫でる優しい風が心地いい。10階だから遠くまで見える。
10階だからいつでも死ねる――
保険みたいなものだ。いつでも死ねる保険。
でも、ここから飛び降りて死んだらマンション全体が事故物件になるらしい。
死んでも尚、迷惑なんてかけたくない。
そしてぶっちゃけ痛そう。落ちている間怖そう。
だから死ねない。
そんなことを考えながら私は今日も10階から地面を見下ろす。
11時になると柊が目を覚ましたようだ。
『薬飲んでるけどまだちょっと痛いなー』
『その薬あってんの?』海音が尋ねた。
『一応病院で貰ったやつなんだけどなー』
『頭痛い時は緑のエナジードリンクが1番効くよ』
『あー。俺、エナジードリンク飲めないんだよね』
『俺は飲むけどね。たまに』雨宮が言った。
『私もたまにしか飲まないかなー』
『え!? 私なんて毎日飲んでるよ? 逆にみんな何飲んでるの!?』
『烏龍茶か水』と陽葵が言うと『同じく』と柊が言った。
『俺はー、いちごミルクかな』
へぇー、雨宮はいちごミルク飲むんだー。
――いちごミルク!?!?
『雨宮、意外と可愛いな!?wwww」海葵は雨宮のギャップにツボっているようだ。
『いちごミルク飲んでる陰キャオタクwwww』陽葵も笑いをこらえようと太ももを叩きながら返信した。
『いちごミルク飲んでちゃ悪いのかよ! てか、朝日が何でも受け入れる的なこと言ってたよな? 俺のいちごミルクは受け入れてくれないのかよ!?』
『そんなことでキレんなよー。いちごミルク好きの陰キャオタク〜w』
『柊は俺の仲間かと思ってたのに……! あー。もういいですー。ゲームしますー』
『あ、いちご君が拗ねた』海音が言った。
『朝日と葉月のせいでいちご君拗ねちゃったじゃん』柊が言った。
『柊がいちご君をフォローしなかったからでしょー』陽葵は柊に責任を押し付けた。
『あの、拗ねてもないし、いちご君って呼ばないでくれる!?』
『あれれ? いちご君はゲームしてるんじゃなかったの?w』海音が言った。
『やっぱりお前可愛いじゃねぇかよ!』柊が言った。
『あー、もうまじでゲームするわ』
陽葵はそのメッセージを見てクスッと笑うとそのまま眠りについた。
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