2-3 どこ強調して言ってんの!?

 3


「急に演劇部と対決することになっちゃったね」


 と、原因の七割を作った夏姫先輩が、やる気に満ち満ちた笑みを浮かべた。


「でも、前向きに考えてほしいな。これって、お笑い研究部のレベルを大幅に上げる良いチャンスだと思うの。雨降って地固まるって、こういうことを言うんだよ」


 今は土砂降りの段階です。せめて地が固まってから言いましょうよ。


「お笑い研究部のレベルを上げるために、今回は私以外のメンバーに台本を書いてもらおうと思う」

「なるほど。それはいい。さすがは私が尊敬する夏姫殿だ」


 と藍堂が一歩前に出る。


 どうやら藍堂は台本を作る気まんまんであるらしい。ほんとヤル気だけはすごいんだよな。


 しかし夏姫先輩は藍堂にニコリと微笑むと、すぐに視線を外して、別の部員を視線に据えた。


「逸花ちゃん」

「うえぇ~!?」


 夏姫先輩にロックオンされた逸花は、とたんに顔を曇らせた。


「なんで私なんですか~?」

「今回は、逸花ちゃんが原因だから。それに、逸花ちゃんって元々演劇部でしょ?」


 え? そうだったのか?


「逸花ちゃんがやりたいお笑いを、私たちが全力でサポートするから。だから、頑張ってみて」

「ムリです! お遊びのコントならまだしも、演劇部との対決のコントなんて背負切れませんよぉ! なによりも台本書くなんてめんどくさ過ぎます! ほんとに、ほんっとにめんどくさいんです! 信じてください!」


 どこ強調して言ってんの!? 最低か!


「大丈夫。ちゃんと補佐を付けるから」


 夏姫先輩は俺を見た。まあ、そうなるわな。


「真白くん、逸花ちゃんのフォローをお願いね」

「はい、わかりました」

「私はみんなとワイワイ楽しくやりたいだけなのー……。勝負とか、そんなのムリだよー……」


 そう言って、逸花は机に突っ伏してしまった。


 ◇ ◇ ◇


 俺と逸花は部室を出て、食堂へと向かうことにした。夏姫先輩と台本作りをしたときもそうだが、食堂のテーブルは広々していて作業しやすい。それに雑談も許可されているから何かと便利な場所だった。


「ああーん! どうしてこんなめんどくさいことになったんだよー!」


 と逸花はまだ、グダグダと文句を言っている。


「まあ元はと言えばさ、逸花がビニールプールが遊んだことが原因なんだから、もう覚悟決めてやろうぜ?」

「私にはムリだよー。勝負とか一番苦手だし」

「やってみなきゃわかんないって」

「やってみて、ダメだったらどうするの?」

「ど、どうするのって言われても……」


 そんなこと聞かれても困る。


「負けたら私たち、文化祭に出れなくなっちゃうんだよ……?」

「勝ちゃいいんだよ勝ちゃ」


 俺はルーズリーフと筆箱をバッグから取り出した。


「ほら、逸花も筆記用具を出して。頑張ってネタ作るぞ」

「……ふわぁー」


 逸花はバッグをテーブルへと置いて、制限後の低速回線くらいの遅さでバッグのジップを引いた。


 日が暮れるぞ?


「シャキッとしろって」

「……うへぇ。真白って意外と厳しいんだね」

「そんなことない。普通だよ。っていうか、俺だってどっちかっていうと、めんどくさがりな人間だし」

「うそぉ~? 絶対違うよ。どうせ真白の言うめんどくさがりって、明日の準備を前日にしないとか、そんなもんでしょ? 本当のめんどくさがり屋っていうのは、当日になっても準備しないんだよ」

「今までどうやって生きてきたんだよ……」

「たくさん怒られて生きてきた」

「メンタル強すぎないか?」

「メンタルが強いっていうより、怒られ慣れちゃったんだよ」


 どんだけ怒られてきたんだ。


「どうしたらやる気を出してくれる?」

「んー。あ、私、真白と一緒にゲームしたい! ゲームしてくれたら、やる気出るかも!」

「……ゲーム?」

「『ポンコツ勇者のグダグダ冒険記』っていうゲーム、知ってる?」

「いや知らん」

「じゃあダウンロードして! これ、めちゃ面白いからー!」


 言われるがまま、俺はポンコツなんちゃらのアプリをダウンロードした。

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