二章 めんどくさがり屋の休波逸花
2-1 倫理観どうなってんだよ
1
駅前商店街のイベントを日曜日に終えて、正式にお笑い研究部の一員となったわけだが、今後の活動については何もわからない。
まあ、今日の放課後に部室に行ってみれば、夏姫先輩から次の目標が言い渡されることだろう。
そんなことを思いながら自転車を漕いでいると、俺は見知った人影を見かけた。
自他ともに認めるめんどくさがり屋で、だらしがなく、怠惰で、どこでも寝れるという特技を持っている……らしい。
その逸花は、まさにグダグダ、といった擬態語がぴったりなほど、覇気のない足取りで歩いていた。どういうわけかバカでかい袋を、ずるずると引きずりつつ。
「逸花、おはよ」
俺は自転車から下りて、逸花の横に並んだ。
「おー?」
と逸花は半開きの目で俺を見る。
「あ。真白だ。おはよー」
「昨日はおつかれ」
「おつかれー。めちゃ楽しかったよねー。でもちょっと疲れたかもー。ふぁーあ」
のんびりとした口調で言って、逸花はあくびをした。
ずるずると、重そうに袋をまた引きずり出す。
「……なあ逸花、そのバカでかい袋はなに?」
「ああこれねー。ビニールプールが入ってるんだ」
「ビニールプール? 何に使うんだ?」
「これで桃と、部室で遊ぶ約束してるんだよ」
「正気の沙汰じゃねえぞ」
まだ四月だぞ? そもそも学校でそんなもんやるなよ。びちゃびちゃになるだろが。
「夏姫先輩の許可は取ったの?」
「これからだよー」
「さすがの夏姫先輩も、絶対に許可しないと思うけど」
俺はバカでかい袋を、自転車のカゴに乗せてやった。
「お、ありがとー。あんまり重いから、この辺に捨ててこうか迷ってたところだったんだよー」
「不法投棄っていうんだぞそれ」
さっきから倫理観どうなってんだよ。
「いっそのこと、私のことも自転車に乗せてほしいなー。ダメ?」
「ダメだよ」
俺の自転車はママチャリだから、一応後ろに人は乗せられる。だが道路交通法違反の前に、男女が二人乗りするのは問題がある。
「二人乗りなんかして学校へ行ったら、変な誤解を招くぞ」
「変な誤解って? あ、私たちが中国雑技団だと思われちゃうってこと?」
「なんでアクロバディックな乗り方するのが前提なんだよ」
逸花も逸花でめちゃくちゃボケてくるんだな。
「ところでさ、商店街のイベントが終わったわけだけど、これからの活動ってどうなるの?」
「えっとねー、とりあえず今のところは何も予定がないから、みんなそれぞれ好きなことをやるって感じになるー」
「ネタとか作ったりしないの?」
「夏姫先輩は作ると思うよ。あと、藍ちゃんも一人ショートコントシリーズを増やしたりするんじゃないかな。律っちゃんについては、まだ入部したばかりだからわかんなーい。私はネタ作れないから、今日は桃と遊ぶ約束したのー」
実質、漫才やコントのネタを作れるのは夏姫先輩だけってわけか。
「ネタ作れるのってすごいよねー。どうやって作るのー?」
「あ、いや、実は俺も、ネタが作れないんだよ」
「じゃあ学漫のときは、相方の子がネタ作ったの?」
「そうなんだよ。相方が作ってきたネタに、俺がツッコミを入れるって感じで。まあようするにさ、俺はボケを考えられないから、ネタも作れないんだ」
だからこそ、お笑い研究部のメンバー全員を、俺はすごいと思ってるんだけどな。みんなすごいボケてくるから。
「逸花ならネタ作れそうだけどな」
「えー? そんなのめんどくさいよー。私はただ、みんなと楽しくお笑いができてればいいんだよ。学漫で優勝したいとか、そーゆー目標もないしー」
「まあ、それはそれでありだよな。楽しむことが一番だと思うし」
「そうそう。だから真白も一緒にプールで遊ぼー」
「それは断る。っていうか、夏姫先輩にマジで怒られるぞ?」
「そうかなー? 先輩も一緒に遊んでくれそうな気がするけど」
そう言われるとそんな気もしてくる。
夏姫先輩とは出会ってから日も浅く、まだまだ知らないことばかりだ。
もちろん、逸花のことだって、俺はまだ何も知らない。
そんなこんなで俺たちは学校へと着き、それぞれの教室へと向かった。
「んじゃ逸花、また放課後」
「うん! ほいじゃねー」
そうして迎えた放課後――。
起こるべくして、事件は起きてしまうのだった。
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