第36話幕間6アンリーヌの苦悩


 古代龍のダンジョンを調査する宮廷軍の護衛任務についた私達は、宮廷騎士団五十人、宮廷魔術師三十人と共にダンジョンに潜った。


 護衛には私達の他に、同じS級冒険者の放浪の探究者が同行していて、力を誇示する彼らは隊長に取り入って先頭を歩いている。


 今回の任務で成果を上げて、私達を出し抜こうとしているのが見え見えだ。


 一階はただ通路が続いているだけで敵は現れなかったが、十時間以上歩かされて、やっと二階に下りる螺旋階段に辿り着いた。


「困難を極めるダンジョンとはお笑いだな。ゴブリン一匹出てこないじゃないか」

 ヒラリオとムサイが階段を下りていった。


 後方の警備に当たっている私達は、注意を怠らずに下りていった。


「敵だ!」

 階段の裏に隠れていたゴブリンが不意打ちを掛けてきたが、ヒラリオとムサイが一太刀で五体を片づけてしまった。


「流石ですね。貴方方がいてくれたら、今回の調査はすぐに終わりそうですな」

 隊長は放浪の探究者に頼りきっている。


「こんなダンジョン、我々に掛かればそこら辺の洞窟と同じようなものですよ」

 ヒラリオはゴブリンを倒した位で調子に乗っている。


「右は行き止まりか、左に行くぞ」

 二階はY字路、T字路、十字路と迷路状態になっていて、兵士がマップを作るのに手間取っているので中々進まなかった。


 一度だけゴブリンが不意打ちを掛けるように隊を襲ってきたが、放浪の探究者が難なく対処しているので私達が出る幕はなく、時間だけが過ぎていった。


「今度は三方向か。分かれて調べるか」


「それは危険です。隊を崩すと合流出来なくなる可能性があります」

 隊長が時間ばかり掛かりイラつき始めているので、私がアドバイスをした。


「ゴブリンしか出ないダンジョンで、何を怖気づいているのだ。俺達は右に行く。隊長さん達は真ん中を、氷結の乙女は左でどうだ。分かれ道にぶつかったら、ここに戻ってくれば合流できるだろ」

 ヒラリオは強引に進もうとしている。


「浅い層でこれ以上の時間を掛けている訳にはいかないから、そうしよう」

 隊長がヒラリオに同意したので、私達も従うしかなかった。


 進んでいくと九体のゴブリンが現れたが、フロリアが魔法を使うまでもなく私とオルタで簡単に倒す事ができた。古代龍様が難攻すると仰っていたダンジョンとは到底思えない、弱い魔物しか出現してこないのが腑に落ちなかった。


「結局は同じ場所に出る訳か」

 放浪の探究者と調査隊が私達の前に現れた。


「先に進む通路がないと言う事は、途中で間違ったのかな?」

 隊長は部下が作ったマップを睨んでいる。


「螺旋階段まで戻って、調べ直す必要がありそうね」

 隠し通路も見つからなかったので、ヒラリオも私の意見に賛成した。


 十時間近く掛けて調べ直したがゴブリンが復活していた事意外は、三方向まで分かれる所までは何も変わった事は見つからなかった。


「階段の所にいたゴブリンが五体で、途中で襲ってきたの六体。私達が進んだ先に居たのが九体だったわ。隊長さん達が進んだ真ん中の奥にゴブリンは何体いたのですか?」

 頭の切れるカトリエが、二階のマップを見ながら質問した。


「八体だったな」


「放浪の所はどうだったの?」


「七体だが、それがどうした?」

 全員に歩き疲れが出てきてヒラリオの声が、一層刺々しくなっている。


「この階は、ゴブリンの数の順に進まないと、先に進めないのではないかしら」


「俺達は慎重に調べたが何もなかったぞ。このダンジョンはここで終わりじゃないか」

 ヒラリオがカトリエの意見を一笑にした。


「よし。全員で右の通路から進んで、何もなければ探索を打ち切りにしよう。今度は氷結の乙女に先頭をお願いする」

 何か言いたそうなヒラリオを無視した隊長が、調査隊に前進を命じた。


 右の通路の奥には七体のゴブリンが待ち構えていて、倒すと細い通路が現れた。


「俺達だけが来たときは、こんな通路はなかったぞ!」

 ヒラリオ達の驚きようからして事実だろう。


「別の通路を私達や宮廷軍が進んでいたから、現れなかったのだわ」


「私が調べてくるわ」

 オルタが一人しか通れない通路に入っていった。


「行き止まりに、ボタンのような物があるわ」


「押してみてくれ!」

 部下に周囲を警戒するように命じた隊長が、オルタに声を掛けた。


「押しました」


 遠くで何かが動くような低い音が響いてきた。


「次に行きましょう」

 私を先頭に調査隊は進んだ。八体のゴブリンを倒すと同じように細い通路が現れて、ボタンが発見された。


「やはり隠されていたわね」

 次に進み九体のゴブリンを倒すと細い通路が現れ、先に進む通路のスイッチが隠されていた。


「何とも手の込んだトラップだったな」


「隊長。少し休まないと動けません」

 大量の荷物を背負って歩き回された調査隊は、完全に体力を奪われていた。


「ここは場所が狭いから立ち止まっているのは危険よ」


「休息は広い所に出てからだ」

 隊長が私の意見を聞いてくれるようになったので、護衛が遣りやすくなった。


 通路を抜けると十体のゴブリンが巣くう広間があり、三階に下りる螺旋階段も発見されたので食事と休息を取る事になった。


 古代龍のダンジョンの大きさは分からなかったが、一階と二階を調べるだけに三日も掛かったのは予想外だった。


 食料などは十日分しかなく、どこで引き上げを忠告するか悩まずにはいられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る