第35話古代龍のダンジョン その6


 食事と休息で疲れを癒した僕達は、湖の周辺を捜索して洞窟を発見した。


「この奥が下層に繋がっているとしたら、このダンジョンを攻略出来るのはS級冒険者のパーティーか勇者のパーティーしかいないかもしれないな」


「そうかもしれませんね。ヒュドラの討伐記録も勇者の物しか残っていませんからね」


「とんでもないとこに来てしまったみたいだな」

 B級冒険者達は、生きて戻れる可能性がさらに低くなって落ち込んでしまっている。


「皆、ここには不可能と思われていたヒュドラを倒したS級冒険者候補がいるのよ、力を合わせれば地上に戻る方法が見つかるは、頑張りましょう」

 マルシカさんの言葉に頷く冒険者達は、ルベルカさんとダルさんの後に続いて洞窟に入っていった。


 薄暗い洞窟を抜けると、石壁で出来た何もない広間に出た。


「敵の反応はありません」

 レーダーを見ていた僕はルベルカさんに報告した。


「待て! 何か変だぞ」

 ダルさんが危険を察知したようだ。


 突然、石壁の一部が崩れて人型を形成していく。人間と変わらない大きさの石の人形は、ゆっくりとした動きで一行を見つけると唸り声を上げた。


 それに反応した壁が数か所崩れて、同じように人型を形成していく。


「ゴーレム! それも六体だと」

 蒼ざめたルベルカさんが盾を構えたまま後退りをしている。


 ゴーレムは使役する術師の力にもよるが、強力な奴だと一体で国を亡ぼす力があると言われていた。


「どうする、リーダー!」


「退却だ、洞窟まで戻れ」

 来た方向に振り返った全員が絶句した。出てきたばかりの洞窟は壁で塞がれていた。


「火よ、我が敵を爆破せよ。ファイアボム!」

 ゾッタさんが杖を翳すと、最初に現れたゴーレムが爆発してバラバラになった。


「魔法が通用するのなら私だって。氷よ、我が敵を射抜け。アイスランス!」

 ゼリアさんの魔法はゴーレムに当たったが、よろめかすだけで終わった。


「次は俺だ!」

 ライフさんがよろめいたゴーレムを大鉈の一撃で破壊した。 


「やりますわね。火よ、我が敵を爆破せよ。ファイアボム!」


「ゼリア、次だ」


「はい。氷よ、我が敵を射抜け。アイスランス!」

 ゾッタさんは一人で、ライフさんとゼリアさんがコンビで六体のゴーレムを破壊してしまった。


「三人とも、やってくれるなァ」

 ルベルカさんは慌てた自分を恥じるように、苦笑いを浮かべた。


 最初のゴーレムが現れた跡に、新たな洞窟が出現した。


「先に進むぞ」


「待ってくれ。今のゴーレム、弱すぎないか?」


「何、私の魔法にケチをつけるつもり」

 ゾッタさんがダルさんに食って掛かった。


「そうじゃないのだ。ここまでの敵の強さを考えると、何か罠があるような気がするのだ」


「たしかに腑に落ちないわ。ゴーレムを使役しているのがこのダンジョンだとしたら、この程度だとは思えないわね」

 マルシカさんもダルさんの意見に同意した。


「もし罠だとしても先に進むしかないだろ」


「そうだけど……。十二分な注意が必要よ」


「よし、行くぞ」

 ルベルカさんとマルシカさんの意見が一致したので、さらに奥へと向かった。


 洞窟を抜けると石壁で出来た何もない広間に出た。先ほどと違うのは壁が少し光っている事だけだ。


「この壁は鉄鉱石のようね」

 壁が崩れると、人型の黒光りするゴーレムが三体現れた。


「火よ、我が敵を爆破せよ。ファイアボム!」

 ゾッタさんが杖を翳したが、人間の倍ほどの大きさの鉄鉱石のゴーレムは左半分が壊れただけで、すぐに再生が始まった。


「火よ、我が敵を爆破せよ。ファイアボム!」

 ゾッタさんが三回詠唱を繰り返す事で、やっと一体を倒した。


「氷よ、我が敵を射抜け。アイスランス!」

 ライフさんとゼリアさんのコンビも、鉄鉱石のゴーレムには苦戦を強いられている。


「タカヒロ、何とかしないとこのままでは、三人とも力尽きて動けなくなってしまうわ」

 落雷で大剣にヒビが入ってしまっているミリアナさんは、手をこまねいている事しか出来ずにイラついている。


「あれだけ動きが遅ければ、僕の魔法も当たるかも」

 3ページ目を開くと炎の槍を描き、先端に小爆発を起こす火の玉を描き足した。これでファイアランスのようなスピードと、破裂を一度に得られる筈だ。


「いくよ!」

 『Aizawa』のサインをゴーレムに向けてスライドさせた。


 高速で飛び出した炎の槍はゴーレムの胸に当たると、灼熱の炎を上げて弾けた。


「私達を焼き殺す気!」

 ゾッタさんが目くじらを立てて睨んでいる。


「本当。危なかったわ」

 とっさに氷壁を張って熱風から皆を守ったゼリアさんが、笑みを浮かべて僕を見ている。


「ごめんなさい。魔法に不慣れなもので」

 ペコペコと頭を下げて謝った。


「無詠唱でぶっ放すなら、これからは魔法を使う前に私達に教えなさいよ」


「はい、分かりました。気をつけます」


「六体から三体に数は減ったけど、ゴーレムを構成している材質が硬くなり、大きさも大きくなっているわ。これは魔力を奪うトラップかもしれないわね」

 マルシカさんが戦闘を分析している。


「ゾッタ、魔力はどれぐらい残っている?」


「そうね、半分ぐらいは残っているわ」


「半分か! ゴーレムには魔法攻撃が一番効果的だからな。その可能性が高いな」


「タカヒロの今の魔法を見たでしょ。もう、私達の出番はないわ」

 ゾッタさんが少し不貞腐れている。


「タカヒロとは張り合わない方がいい。俺だって剣術のスキルで負けているからな」

 スラッシュで真っ二つになったワイバーンの骸を見て気が滅入っているファブリオさんが、魔法の火力で後れを取ったゾッタさんを慰めている。




「この広間には入らない方がよさそうね。あの壁の白銀の輝きは、鋼鉄より遥かに硬いミスリルの輝きよ」

 さらに進んだ洞窟の出口で、マルシカさんが皆を止めた。


「ここにもゴーレムが現れるとしたら、ミスリルゴーレムと言う訳か!」

 ルベルカさんが顔を強張らせている。


「最上級魔法でないと倒せない化け物だわ。今度はタカヒロの魔法でも無理よ」

 ゾッタさんが断言した。


「集団攻撃魔法はどうかしら。先ほどタカヒロ君が放った魔法は、ファイアランスにファイアボールを足した物だったのでしょ。魔法の火力は波長が合えば足し算ではなく掛け算になるのよ」


「それであんな爆発が起こったのですか」

 僕はマルシカさんの説明で、自分が放った魔法が暴走したのではない事を知った。


「集団魔法は波長が合わなければ意味がありません。波長を合わせるのには、かなりの訓練が必要です」

 ゾッタさんが肩を落として首を振っている。


「波長なら合わせられと思います。ゾッタさん、ゼリアさん、お二人の力をお借りしますよ」

 今日初めて見た二人の魔法をもっと詳しく知りたくて、7ページ目に似顔絵を描くと『Aizawa』のサインを入れた。


「何? 力が抜けていくわ」

 まず、魔力が少なくなっているゾッタさんがフラつき、ルベルカさんが彼女を支えた。


「私も立っていられないわ」

 ゼリアさんはグランベルさんに支えられた。


 3ページ目に燃え滾る炎の槍を描きその先にゾッタさんのファイアボムを描き足し、4ページ目には分厚い氷壁を描きゼリアさんのアイスランスを棘のように描き足した。


「準備が出来ました。行きますよ」

 僕達が広間に入るとミスリルの壁が崩れて、人間の三倍近い巨大ゴーレムが現れた。


「マジかよ、でか過ぎないか!」

 白銀に輝くゴーレムは一体だったが、振り上げている拳を一撃でもくらえば、跡形もなく潰されてしまうだろ。


「お二人の力をお借りしますよ!」

 驚愕に目を見開くメンバーをよそに、3ページ目に『Aizawa』のサインを入れて魔法を飛ばすと、4ページ目に少し時間は掛かるが『T.Aizawa』サインを入れて魔法を発動させた。


 炎の槍がゴーレムに当たると、ファイアボムの灼熱の炎が広間全体に広がった。


「火龍が吐くと言われているフレームブレスなの?」

 マルシカさんだけではなく、全員がミスリルゴーレムを熔解させていく劫火のような炎に呆然としている。 


 強烈な熱風はジュウ、ジュウと音を立てて氷壁の表面を溶かしていくが、アイスランスと融合しているので溶ける速度が遅くなっている。


「終わったようですね」

 僕は額の汗をぬぐった。大量に魔力を使った訳ではないが、勝てるのか気が気でなかったのだ。


「ミスリルゴーレムを溶かしてしまうなんて、どれだけの火力なのだ。これで魔法に不慣れなんて言われたら、恐ろしくなるぞ」

 ルベルカさん達が呆れ返っている。


「お二人の魔法と魔力があったから出来た事ですよ」

 似顔絵を破棄すると、呪縛から解放されたゾッタさんとゼリアさんが意識を取り戻した。


「一気に魔力を吸い取られて、吐きそうだわ」


「私もです」

 魔力を消耗してしまった二人は、顔色が悪くなっている。


「これは私が調合した魔力を回復させるポーションよ、飲むと少しは楽になりますよ」

 マルシカさんが瓶に入った緑色の薬を二人に渡した。


「薬師としても有名なマルシカさんのポーション、ありがたく頂きます」


「タカヒロ君がお二人の魔力を完全に使い切ったようですから、あまり回復はしないでしょうがね」


「不慣れなもので申し訳ありません」

 ペコリと頭を下げると、全員が苦笑いを浮かべた。


「ゴーレムはこれで終わりだろうな」


「あるとしたら、次はオリハルコンゴーレムですからね」

 真鍮の守り盾のメンバーとマルシカさんが、熔解したゴーレムを調べている。


「これは何だ!」


「あの熱でも溶けないなんて、何で出来ているのかしら。タカヒロ君、これが何か分かるかしら?」


「綺麗な石ですね」

 マルシカさんから受け取った石を透かして見ると、透き通ったタマゴ型の石の中には魔法陣が封印されていた。


「ゴーレムの核に使われていた物だと思うのだけど」


「調べてみます」

 アイテムボックスに石を収納すると、1ページ目を開いた。

 



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    

    

 石のようなアイテム   クリスタルドラゴンの鱗の欠片。(ゴーレムを起動する魔法陣が付与)


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    




「これは、クリスタルドラゴンの鱗の欠片で、ゴーレムを起動させる魔法陣が付与されているようです」

 アイテムボックスから取り出した石を、マルシカさんに返した。


「クリスタルドラゴンと言えば、古代龍が率いているドラゴンの一体だわ。どうしてこのような物が、ここにあるのかしら?」


「それにだ、ほかの広間のゴーレムにはなかった物だぞ」


「推測ですが、この核に流し込む魔力の量でゴーレムの数が変わり、近くにある素材で形を成すのではないでしょうか」


「もしも、これが他の部屋のゴーレムも動かしていたのなら、これの力はかなりの広範囲に渡っていた事になり厄介だぞ。ギルドに持ち帰って詳しく調べる必要があるな」


「そうね。タカヒロ君、預かっておいてくれるかしら」

 マルシカさんとルベルカさんが、ゴーレムの出現した原因を予想していた。


「分かりました」

 預かった鱗の欠片をアイテムボックスに入れてスケッチブックを閉じると、表紙が淡い光を発した。


「それ、どうしたの?」

 マルシカさんが目ざとく指摘してくる。


「まさかですが、新しい力が覚醒したようです」

 スケッチブックを開くと八枚目と九枚目の画用紙が捲れるようになっていたので、切り取ってアイテムボックに収納してみた。




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


 8ページ目の画用紙     スケッチブックの付属品。(雷属性魔法の媒体)


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    


 9ページ目の画用紙     スケッチブックの付属品。(闇属性魔法の媒体)


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇    




「嘘だろ!」

 8ページ目が雷属性なのを知って思わず叫んでしまった。


(有るのなら教えておいて下さいよ)

 苦労して発生させた落雷が絵を描くだけで起きるのを知って、神様にぼやきたくなるのを必死で堪えた。


「どうしたんだ」

 期待の眼差しを向けていたファブリオさんが聞いてきた。


「新しい力ではなく、湖で使った雷が簡単に発生させられるようになっただけでした」


「簡単にって、それだけでも凄い事じゃないか」

 苦笑いするファブリオさんが僕の肩を叩いてきた。


「二枚目は何だったのだ? まさかとは思うが、ゴーレムを作れたりはしないだろうな」

 ダルさんの危険を察知する能力が敏感に働いたようだ。


「闇属性ですから、それはないと思いますよ」

 ここで『賢者になるための魔術書』を開く事も出来ずに、検証を先送りにする事にした。


「物は試しだ、やってみろ」

 ルベルカさんが発破を掛けてくる。


「しかし、ここにはミスリルしかありません。万が一にもゴーレムが現れて暴れ出したら、今度こそ抑えようがありません」


「タカヒロの絵がゴーレムになるのなら、スケッチブックを閉じれば消えるのじゃないか」


「さすが、ファブリオさん。やってみます」

 溶けて散らばっているミスリルを一握りアイテムボックスに収納すると、9ページ目にアニメに出てきそうなロボットを描いた。


「何やっているの?」

 B級冒険者と一緒に距離を取っていたミリアナさんが、覗き込んできた。


「ゴーレムを呼び出すのだよ」

 『Aizawa』サインを入れると、画用紙に黒い波紋が広がりミスリルの塊が飛び出すと形を変えていった。


 小さな悲鳴を上げて後退る者もいたが、現れたのは掌に乗りそうな小型のロボットだった。


「可愛いゴーレムね、命令は出来るの?」


「どうだろ。ガ〇ダム、前進」

 ゴーレムはチョコ、チョコと歩き出した。


「凄いじゃないか、俺と戦わしてみろ」

 ルベルカさんが盾を構えた。


「リーダー、そんな小さなオモチャを相手にするのですか?」

 ダルさんが引いている。


「ガ〇ダム、ルベルカさんと戦え!」

 ロボットが走り出し真鍮の盾とぶつかると、『ドスン』と大きな音がした。


 ロボットが小さな腕を振り回して殴りかかっていくと、最初は余裕だったルベルカさんが少しずつ押され始める。


「小さいくせに、力があるし硬いぜ」

 ルベルカさんは盾を使って必死で攻撃を防いでいる。


「ガ〇ダム、止めろ!」

 ファブリオさんが僕の口真似をしたが、ゴーレムはパンチ攻撃を止めなかった。


「ガ〇ダム、止めろ!」


「やはりタカヒロの命令しか聞かないか」

 動きを止めたゴーレムを見ているファブリオさんは、またまたガックリと肩を落とした。


 スケッチブックを閉じるとゴーレムは、一塊のミスリルに変わった。


「皆、散らばっているミスリルを集めてくれ」

 レベルカさんの指示で集められたミスリルは大人三人分ほどの量があり、全て僕のアイテムボックに収納する事になった。


「ミスリルゴーレムと言う新たな戦力が増えた事だし、古代龍のダンジョンを攻略するのも夢ではなくなったぞ!」

 レベルカさんの言葉に、疲れ切っている筈の冒険者の顔に笑みが浮かんだ。


「タカヒロ君、頼んだわよ」


「僕の方こそ、ミリアナを探すのに力を貸して下さってありがとうございます」

 マルシカさんを初め、真鍮の守り盾の皆に頭を下げた。


「何を水臭い事を言っているのだ。それにまだこのダンジョンの全てが解明出来た訳じゃないのだ、気を抜くなよ」


「はい」

 何時もは陽気なファブリオさんが真顔になっているので、気合を入れて返事をした。


「よし、行くぞ!」

 ルベルカさんの指示で、ミスリルの広場から続く洞窟を進んでいった。

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