第30話古代龍のダンジョン その1
古代龍のダンジョンは、アスラン王国とウスラン帝国にまたがるランク山脈の麓にあった。
現在は国の監視下にあり、魔物が溢れ出てこないかを兵士が駐屯小屋を建てて交代で見張っている。
「なぜこんな危険なダンジョンに入るのだ。国の調査団もS級冒険者も、一月経っても戻って来ていないのだぞ」
「先日、このダンジョンに入った、この冒険者を探しに行きます」
心配で仕方がない僕は、ミリアナさんの似顔絵を兵士に見せた。
「この女なら十五人のパーティーで、七日前に入っていったぞ」
兵士の一人がミリアナさんを覚えていた。
「そうですか、ありがとうございます」
「しかし、何の準備もなしに入ったら、すぐに死んでしまうぞ」
兵士は武器と防具しか持っていない僕達を訝っている。
「収納アイテムがありますから大丈夫です」
「そうなのか。お前達では到底深層には辿り着けないだろうから、危険だと思ったらすぐに引き返してくるのだな」
兵士は急ごしらえの門を開けてくれた。
「よし、行くぞ!」
ルベルカさんを先頭にダンジョンに入っていた。
一階層は人工物のような石壁の通路で出来ていた。全員が魔道具のランプを腰に下げているので、明るさは充分にある。
「敵が居ないか調べますので少し待ってください」
スケッチブックの7ページ目を開くと、円を描いてレーダーを作動させた。
「敵の気配はないようです」
「ミノタウロスを封印した力にも驚いたが、他にも俺達の知らない能力を持っているのだな」
全員が、緑の○が現れているスケッチブックを覗き込んでいる。
「敵の動きは分かりますが、罠などは分かりませんのでダルさんお願いしますよ」
「任せておきな」
ダルさんを先頭に探索が始まった。
敵も現れず、罠もなく、三時間ほど進むと下層に下りる螺旋階段に突き当たった。
「この階は、侵入者を疲労させるだけが目的のようだな」
「待って下さい、下りてすぐに敵が五体います!」
螺旋階段に近づくと、自分達と重なるように赤い〇が現れた。
「待ち伏せとは、利口な敵だな」
ルベルカさんが盾を構えてゆっくり下りていくと、ゴブリンが襲撃してきた。
真鍮の盾で棍棒の打撃は防御され、ファブリオさんの剣が一瞬で五匹の首を刎ねた。
「油断をしていたら、ケガだけでは済まなかったぜ」
ダルさんがゴブリンを調べて、毒が塗られたナイフを発見した。
「このダンジョンの敵は、同じ種族でも今までとは比較にならないほど知恵がありそうだ。心してかかれ」
ルベルカさんの言葉に皆が大きく頷いた。
二階層は幅の広い石壁の通路が続いていて、Y字路、T字路、十字路と迷路状態になっていた。
「右か左か? ここはダルの直感に頼るしかないな」
「いつもはそうだが、今回はタカヒロがいるからな。何か分かるか?」
Y字路で立ち止まったダルさんが聞いてきた。
「右には何もいませんが、左は前方二百メートル付近に敵が六体います」
「右は行き止まりの可能性が高いな。左に行くぞ」
「俺もそう思うな」
ルベルカさんにダルさんが同意した。ほかのメンバーはリーダーの決断を全面的に信頼しているようだ。
慎重に通路を進み少し開けた場所に出ると、不意打ちをかけるようにゴブリンが襲い掛かってきた。
襲撃が分かっているからルベルカさんが攻撃を弾き、ファブリオさんが危なげなく敵を処理していく。
「凄いですね」
一瞬で終わる戦いに感心した。
「ゴブリンごときに手を焼いていては、A級冒険者とは言えないからな。次はどっちだ?」
前方には通路が三本あった。
「右に七体、真ん中に八体、左に九体の敵がいます」
「どう言う事だ、今度はどこを選んでも敵がいるのか?」
「五体、六体ときたのだから、今度は七体の右だと思うわ」
マルシカさんが右の通路を指さした。
「しかし、それはタカヒロがいるから敵の数が分かるだけで、本当なら直感を頼るしかないのだよな」
「一階と同じで二階も侵入者の体力を奪うのが目的なら、正解の通路を見つけるのが最善の選択じゃないかしら」
元S級冒険者の考えは理にかなっている。
「よし、右に行くぞ」
ルベルカさんの決断は早くて迷いがない。
ファブリオさんの一閃で五つの首が飛び、ダルさんのナイフ投擲で二体が倒れた。
「今度はどっちだ?」
行く手には広い通路と細い通路がある。
「右の広い通路の奥に八体います」
「八体と言う事は、六体倒した所からも行けたのじゃないか?」
「そうなりますが、それだと七、八、九の意味が分かりません」
「何か気になるの?」
初めてエルミナさんが声を掛けてきた。
「細い通路の奥が気になるのです」
「考えすぎじゃないかしら」
メンバーの中ではゾッタさんが、一番気が短そうだ。
「ごめんなさい、私が余計な事を言ったばかりに遠回りになったようね」
「そんな事はないと思います。たぶん、この細い通路の奥に何か仕掛けがある筈です。見てきます」
「俺が行く!」
細い通路に入ろうとした僕を止めて、ダルさんが入っていった。
「リーダー。行き止まりになっていて、スイッチのような物があるがどうする?」
「気を付けて押してみろ」
「分かった」
ダルさんがスイッチを押すと、遠くで低い音がしただけで何も起こらなかった。
さらに進むと八体のゴブリンがいる所に出たが、ルベルカさん達の敵ではなかった。
ここも同じ造りで広い通路と細い通路があり、六体いた場所に通じる通路も存在していた。
「タカヒロはここにいろ、俺が見てくる」
細い通路に入ったダルさんがスイッチを押すと、先ほどより近いところで低い音がした。
さらに進んだ九体の所は、六体いた場所に通じる通路と細い通路だけしかなかった。
「奥を見てくる」
ダルさんがスイッチを押すと、何もなかった壁に穴があいて新しい通路が現れた。
「やはり敵の数の順に進まないと、スイッチが隠された通路が現れないようになっていたのだな」
「順路を間違えると、何度でもやり直さなければならない訳か」
「タカヒロがいなかったら、無駄に時間と体力を消費した訳だな。この先も頼りにしているぞ」
ルベルカさんとファブリオさんが、笑顔で僕の肩を叩いた。
「マルシカさんのアドバイスのお陰ですよ」
照れ隠しに苦笑いした。
「この先に十体います」
さらに進むとレーダーに赤い〇が現れた。
「俺の探索能力より凄いって、どうよ」
ダルさんがぼやいた。
「どんな罠があるか分からないから、油断するなよ」
「任せな!」
ルベルカさんに声を掛けられたダルさんが、自分の頬を叩いて気合を入れている。
通路を抜けた広間にいたゴブリンは、弱小ながら力任せの攻撃をしてきた。
「ゴブリンの十体ぐらい物の数ではないが、さすがに疲れた。三階層に下りる前に少し休んでいくぞ」
ルベルカさんが盾を下ろしたので、僕は皆に水を汲んで回った。
「美味しいわ、ありがとう」
「羨ましくなるわ」
ゾッタさんがスケッチブックを食い入るように見ている。
「お前には使いこなせないから諦めな」
ファブリオさんもスケッチブックを見詰めている。
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