第15話幕間2若い冒険者の決意


 俺は冒険者のダリオ。赤い絆のリーダーをしている。

 仲間は幼馴染の拳闘士のユリと魔法使いのセレットで、三人で赤い絆と言うパーティーを組んでいる。


 魔物の出現が少ないニオラの森で薬草採取をしていた俺達は、ゴブリンの奇襲を受けてしまった。


 D級になっている俺達が負ける筈のない相手だったが、油断していた俺の剣は折れ、セレットの魔力が残り少なくなり、ユリが浚われてしまった。


 戦う術がなくなり助けを呼びに街に戻るしかなかったが、ユリが心配で気ばかり焦っていた。


 ニオラの森を抜けると剣を持った青年に出会ったので助けを求めたが、僕は冒険者ではないので無理だと断わられてしまった。


 見た目にも弱そうな青年なので助力は諦めて、剣を借りるとユリを助けるために森の奥に走った。油断さえしなかったら決して負ける相手ではないと言う自信があった。


 涎を垂らした五匹のゴブリンが、防具を剥ぎとったユリを辱めようとしていた。


「おおッ!」

 借りた剣を握り締めた俺は雄叫びを上げながら群れに突っ込んでいったが、今まで何度もゴブリンを倒してきた俺の攻撃があっさりと躱されて、逆に棍棒で殴り飛ばされてしまった。


「ギャー、ギャー、ギャー」

 立ち上がれない俺に向かってきたゴブリンが、急に奇声を上げて向きを変えた。


 死を覚悟していた俺が顔を上げると、木の影から件の青年が姿を見せた。


 冒険者ではないと言っていた青年は、今は武器もなく一瞬で遣られるのが目に見えていたが俺には何も出来なかった。


 俺たちの油断で招いた戦いにひ弱な青年を巻き込んだ事を侘びながら目を閉じた時、


「ギャー」

「ギャウー」

「ギィー」

 と、青年に向かっていったゴブリンが悲鳴を上げて後ずさりを始めた。


 何が起きたのか分からなかったが、紙の束のような物を手にした青年は立ち尽くし、ゴブリンは腕や脚から緑色の血を流していた。


「キー、キー、キー」

 ボスと思われるゴブリンが甲高い鳴き声を上げると、五匹は森の奥に逃げていった。


「大丈夫か?」

 青年の声は震えていた。


「大丈夫です。ありがとうございます」

 危険が去った事に安堵する俺はユリの元に走った。

 ユリの服は引き裂かれていて、街まで戻っていては無事に救出することは出来なかっただろう。


 青年の力を借りで草原まで戻るとギルドに報告するために街に急ごうとしたが、青年は体力がないのか叢に座り込んでしまって先に行ってくれと言うので名前だけを聞いて別れた。


 その後、タカヒロと名乗った青年を探したが街で見掛けることはなく、虚無な日々が過ぎていった。


 油断していたとは言え弱小ゴブリンに負けた俺たちは、冒険者を続けていく自信をなくしかけていた。





「どうした? 最近元気がないじゃないか」

 ギルドで塞ぎ込んでいる俺たちに声を掛けてきたのは、知り合いで先輩のC級冒険者カントリーマークの連中だった。

 五人組の彼らも俺たちと同じ田舎出身で、一旗上げようと頑張っていた。


「あんたたちも知っているだろ、俺たちがゴブリンに襲われたのを」


「ああ。だから油断をするなと何時も言っているだろうが」


「油断があったのは確かだが、俺たちの力がゴブリンに全く通用しなかったのがショックで、冒険者を続けて行く自信がなくなってきたんだ」

 俺の言葉に曇った表情をしているユリとセレットが小さく頷いた。


「そうか、恐怖に捕らわれたか。冒険者を続ける以上は避けては通れない試練だな。俺たちも真鍮の守り盾のように強くはなれないだろうし、先の事を考えると不安にはなるからなぁ」


 冒険者と言う命懸けの仕事をする以上は、もっと強くならなければならないと皆が思っているようだ。


(あの人は強そうには見えなかったけど、五匹のゴブリンを簡単に追い払っていたなぁ)

 俺はニオラの森で出会った青年のことを思い出していた。


「俺たちは今度、試練のダンジョンに挑戦しようと思っているんだ。一緒にどうだ?」

 カントリーマークは最近力をつけてきていて、B級に上がるのも近いだろうとギルド内で噂されていた。


「俺たちはまだD級だから厳しいかな」


「C級のパーティーならクリア出来るらしいから、お前たちは今後の参考のために着いて来るだけいいさ」

 どうやら彼らは自信をなくている俺たちを鍛えようとしていてくれるようだ。


「どうする?」

 俺はユリとセレットの顔を見た。


「そうね。冒険者以外の仕事も出来そうにないし、もう少し頑張ってみようかな」

 ユリの言葉にセレットも頷いている。


「俺もここで終わりたくはないからな。同行させて貰うよ」


「そうか。三日後に出発するから、準備をして体調を整えておけ」


「分かった。勉強させて貰うよ」

 こうして俺たち赤い絆は、C級冒険者のパーティーなら無理なくクリア出来ると言われている試練のダンジョンに潜る事になった。



 カントリーマークは事前に色々と情報を仕入れているようで、一階の罠を難なくクリアして二階に下りていった。


 二階にはコボルトの集団が現れたがカントリーマークの敵ではなく、後ろから着いて行くだけの俺達はダンジョンの雰囲気に慣れることだけに専念していた。


「どうだ、お前達も戦ってみないか?」

 三階でゴブリンの軍勢と戦っているカントリーマークのリーダーが声を掛けてきた。


「遣ってみようか?」

 鬼のような顔に俺達は少しパニックを起こしたが何とか気を取り戻し、セレットの魔法で牽制しながら、ユリの拳と俺の剣でゴブリンを次々と倒していった。


「ゴブリンってこんなに弱かったんだ」

 戦闘が簡単に終わったことで、俺達に少し自信が戻ってきた。


「油断さえしなければ試練のダンジョンに出るような魔物に負ける筈がないのさ」

 カントリーマークのメンバーが俺達の戦いを見て笑顔を向けてきた。


「肝に銘じておくよ」

 ゴブリンの恐怖に打ち勝った俺達は、冒険者として生きていく決心をした。



 ダンジョンに潜って三日目。

 図体も大きく剣などの武器も使うオークは手強くて俺達では勝てそうになかったが、C級の実力は伊達ではなく連携を駆使するカントリーマークは勝利した。


「これで俺達の昇級も近いな。この勢いでボスのオーガを倒すぞ!」

「おお!」

 八体のオークを倒したカントリーマークのメンバーは、ボス戦に向けて気勢を上げた。


「俺達も早くこのダンジョンをクリア出来るように強くなろうぜ」

「「そうね」」

 俺の笑みに、ユリとセレットも笑顔で頷いていた。


「さあ、俺たちも行くぞ!」

 俺達は冒険者として輝く明日を夢見ながら、カントリーマークに続いてボス部屋に入っていった。


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