第17話 幕間3秘書のマルシカ
私は冒険者ギルドでギルドマスターの秘書をしているマルシカ。元冒険者の勘が働くのか、今日は朝から嫌な予感がしてならなかった。
「今日はお出掛けにはならないのですか?」
珍しく真鍮の守り盾のメンバーが待機場に居たので声を掛けた。この時間、他の冒険者は既に仕事を請け負って出払っている。
「今日は休息日と決めていたのですが、いつもの癖で足が向いてしまったのですよ」
リーダーのルベルカさんが、仲間の顔を見て苦笑いをしている。
「そうですか。たまにはゆっくり休んでくださいよ」
「そうしますよ。皆、解散するぞ」
ルベルカさんたちと話をしていると、入り口の扉が荒々しく開いてミリアナさんが駆け込んできた。
「マルシカさん、助けて! タカヒロが!」
息を切らすミリアナさんが泣きついてきた。
「マスターを呼んできて! 何があったの?」
受付嬢に指示を出すと、落ち着かせるためにミリアナさんを椅子に座らせた。
「何があった!」
マスターが凄い勢いで階段を駆け下りてきた。
「試練のダンジョンのボス部屋にミノタウロスが現れて、タカヒロが!」
「タカヒロが遣られたのか!」
真鍮の守り盾のメンバーが全員、驚愕の表情を浮かべている。
ミリアナさんが首を横に振っているので、大事には至っていないようだが要領を得なかった。
「落ち着いて、詳しく話せ!」
マスターが険しい表情でミリアナさんを見詰めている。
「タカヒロを鍛えようと試練のダンジョンに潜ったら、コボルトキングが現れ、ボス部屋にはオーガじゃなくてミノタウロスが居たの」
「本当なのか?」
「そんな話、聞いた事がないぞ!」
マスターだけでなく、真鍮の守り盾も疑問の表情を浮かべている。ダンジョン内の魔物が変わる事は、今までなかった事なのだ。
「それで、ミノタウロスはどうしたのだ?」
「タカヒロが力を奪ったので、ボス部屋で倒れています」
「力を奪った? 要領を得ないが、タカヒロは無事なのだな?」
「うん。ボス部屋でミノタウロスを見張っています」
ミリアナさんが大粒の涙を流した。タカヒロ君の事が心配なのだろう。
「真鍮の守り盾の諸君、力を貸して貰えないだろうか?」
「分かりました」
「マルシカ。試練のダンジョンに行くから、直ぐに準備をしてくれ」
「分かりました」
職員に後の指示を出すと、馬車の準備をしてダンジョンに向かった。
私達八人にとって試練のダンジョンはさほど危険な場所でもなく、駆け足で進んでいった。
「魔物がいませんね?」
「そうだな」
殆ど会話もなくただただ先を急ぐと、一日でボス部屋の前に辿り着いた。
ミリアナさんが急いで扉を開くと、土の壁に覆われていて中に入る事が出来なかった。
「タカヒロ、皆を連れてきたわよ」
ミリアナさんが声を掛けると、突然壁が消えたので全員が驚いている。
玉座のような椅子に腰を下ろしていたタカヒロ君が、ゆっくりと立ち上がったので安堵した。
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