幕間

第XX話、クリスマス特別書き下ろしSS

「メリークリスマス! 龍介っ!」


 真白の家の玄関を開けた直後、パアンと弾けた音がして俺の周りに紙吹雪とリボンが舞った。


 突然の事に驚いて目を丸くする俺だったが、クラッカーを持った真白の姿を見てすぐに理解する。


 クリスマス仕様の赤いサンタ帽を被って、白いふわもこの付いた愛らしいスカートに、ポンチョの様な赤いコートを着ている真白の格好はまさしくサンタクロース。

 

 今日は夜にクリスマス会をするから来て欲しいと誘われていたので、事前に分かっていたはずなのだが……。


 それでも驚いてしまうのは仕方ない。

 

 二人で美味しいフライドチキンやケーキを食べたり、ゲームをしたりして楽しく過ごすものだとばかり思っていたのだが、まさかサンタコスチュームまで用意しているとは思わなかった。


「す、凄い気合の入れようだな……びっくりしたぞ」

「えへへ、だって龍介を驚かせたかったから。ねえねえ、似合ってる? わたしのサンタ衣装!」


 真白は得意げな顔をしながら腰に手を当てた。


 サンタ姿の真白は俺を見上げながら、ふんすと鼻息を荒くしていてご機嫌な様子である。どうやらこの衣装にかなりの自信があるらしい。確かにサンタ姿の真白はいつにも増して可愛いかった。


「ああ、すごく似合っていると思う。どこで買ってきたんだ?」

「うっ、そこは聞かないで欲しいところなんだけど。一応コスプレの衣装屋さんに行って選んできたんだよ」


「わざわざお店で……まじで楽しみにしてたんだな、今日のクリスマス会」

「もちろんっ、龍介とはクリスマスっぽい事してみたいなーってずっと思ってたから。今日は本気の本気で準備してたの。ケーキだって手作りだからね、わたし頑張ったの」


 えへへと微笑む真白は自慢気に胸を張る。確かに玄関から見渡しただけでも、部屋の中が綺麗に飾り付けられているのが分かった。おそらく真白は今日の為にずっと準備をしてくれていたのだろう。


 家の中のクリスマスな様子に感嘆の息を漏らしていると、真白がぎゅっと俺の腕に抱きついてきた。柔らかい感触が伝わってきて思わず心臓が跳ね上がる。そんな俺の様子を真白は悪戯っぽい笑顔を浮かべて見上げていて、澄んだ青い瞳を上目遣いで向けてきていた。


「あはっ、龍介ってば照れてる。可愛いっ」

「……きょ、今日はいつにも増して積極的だな」


「だって、せっかくのクリスマスだもん。こういうのもたまにはいいでしょ?」

「ま、まぁ……」


「ほらほら、龍介。あがってあがって~。早くしないとお料理冷めちゃうよー。クリスマスは一緒にご飯食べて、その後はケーキを食べるのですっ」

「わ、分かったから。引っ張らないでくれ、靴を脱ぐから。あとあんまり暴れると真白の胸が……」


「ふふーん、顔真っ赤にしちゃって。やっぱり男の子だね?」

「う、うるさい。これはもう不可抗力だ」


 悪戯っぽく笑う真白に俺は慌てて言い返す。全くもう、とんでもないサンタさんである。こんなに可愛い女の子から密着されて平常心でいられる訳がないだろ。


 それから真白は俺の腕を掴んでリビングの方へと連れて行く。廊下を歩いている最中に真白は何度も振り返りながらニコニコと嬉しそうに笑っていた。


 リビングでは既にパーティーの準備が整っていて、テーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。


 室内用のクリスマスツリーには色とりどりの鮮やかなオーナメント、そして壁にはきらきらと煌めくパーティーモールが飾り付けられ、ガラスの窓にはスノースプレーで雪だるまの絵が描かれている。


 どれもこれも真白が一人で用意したものだ。俺とのクリスマスを楽しむ為だけに、ここまで一生懸命準備してくれただなんて。健気でいじらしくて、そんな真白の事が愛おしくて仕方ない気持ちになってしまう。


「凄いな。これ全部真白が作ったんだよな」

「うんっ、ちょっと張り切り過ぎちゃったかもだけどね」


「いや最高だよ。真白の想いが詰まったクリスマス会だと思うと、なんだか感動するな」

「ふふ、ありがとね。そう言ってもらえて嬉しいなっ」


 俺の隣で真白は可愛らしい笑顔を見せる。

 その笑顔はまるで向日葵のように明るくて、見ているだけで幸せな気分になれるのだ。


「早速だけど始めちゃおっ。まずは一緒に夕食だね。全部手作りだから味わって食べてね?」

「もちろん。真白の手料理なら何だって最高に美味しいからな。遠慮なく頂くとするさ」

「ふふっ、たーんと召し上がれ」


 俺達は笑い合いながら食卓に着く。


 目の前に広がるのは真白特製の豪華なディナー。唐揚げやフライドポテト、ミネストローネスープにサラダなど色とりどりのメニューが並んでいて、とても美味そうだ。


「あっ、先に飲み物注いであげるね」


 真白はグラスを手に取るとシャンメリーを注ぎ始めた。


 シュワシュワという音と共に泡が弾けて小さな雪の粒みたいだ。クリスマスらしい演出に思わず胸が躍ってしまう。


「それじゃあ龍介。メリークリスマスっ」

「ああ、真白。メリークリスマス」


 俺と真白は見つめ合って、グラスを軽く当てる。

 カチンッと心地よい音が響き渡って、俺達だけのクリスマス会が始まった。

 

 グラスを口につけ、こくりと一口飲む。炭酸の爽やかな風味と甘いフルーツの香りが口に広がっていく。


 うんうん、クリスマスと言えばシャンメリーだよな。


 そんな事を思いながら真白の方を見ると、彼女は楽しそうにこちらを見つめていた。


「美味しいね、龍介。こうやってシャンメリー飲むと、なんかすっごくクリスマスって感じする」

「クリスマスって感じか。確かにそうかもな、こうしてるだけで今日がクリスマスだって実感できるよ」


「クリスマスっぽい料理もたっくさんあるからね、どんどん食べて! そだ、あーんしてあげよっか?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。それは流石に……自分で食べられるって!」


「いいのいいの。ほらほら、早くしないとせっかくの料理が冷めちゃうよ? それに今日くらいは素直になってくれてもいいんじゃない?」

「うぐ……。わ、分かったよ……」

「ふふっ、素直でよろしいっ」

 

 結局俺は真白に押し切られてしまう。真白はフォークに刺した唐揚げを差し出してきて、俺は恥ずかしさを堪えながらもぱくりと食べた。


 程よく下味のついた肉汁たっぷりな鶏肉にスパイスの効いた味付け。このスパイシーさがまた食欲をそそってくる。……うん、めちゃくちゃ美味い。


「龍介にあーんしちゃった。えへへ、なんだか楽しいね」

「でもこれ、結構恥ずかしいぞ……?」


「でも嬉しいでしょ?」

「それはまぁ……否定は出来ないな」


「じゃあ次はフライドポテトいっちゃうね? はい、あーんっ」

「うぐっ……」


 その後も真白は次々に俺に食べさせてくる。


 まるで餌付けされてるような気分だが、こんなに可愛いサンタが相手なら全然悪くない。恥ずかしくて言葉には出来ないが。


 この後、真白と一緒にケーキまで食べて、それからプレゼント交換。そして夜遅くまでゲーム大会だ。


 間違いなく今年は最高に幸せなクリスマスになるだろう。


 そう確信しながら俺は真白の作ってくれたディナーを堪能する。どれも美味しくてお腹も心も満たされていく。


 再びシャンメリーの入ったグラスを口に付けると――真白が窓の方を見て呟くように言った。


「わあ……雪だ」


 俺もつられて視線を向けると外ではしんしんと雪が降っていた。


 真っ暗な空から白い結晶が舞い降りて、それが街灯や家の明かりを受けてきらめいている。


 幻想的な光景に目を奪われて俺達はしばらくの間その景色に見入ってしまった。


「ホワイトクリスマス、だな」

「そだね、とっても綺麗」


 真白は窓から見える雪に目を向けてふわりと柔らかな笑みを浮かべる。


 俺も同じように微笑んで、その横顔を見つめる。

 その表情はどこか大人びていて、美しくて、まるで天使のようだった。


 そして彼女は外の銀世界を瞳に映しながら言う。


「明日、積もるかな?」

「積もったら雪だるまでも作るか?」

「うん。一緒に可愛いの作ろうね」

「任せてくれ。最高の雪だるまにしてやるよ」

「ふふっ、期待してます」


 そうして俺達は笑い合う。


 それはとても幸せな時間。

 かけがえのない大切な思い出。


 俺と真白のクリスマスは降り注ぐ雪のようにゆっくりと過ぎていった。



---☆☆☆---


悪役だって青春したいを読んでくださって本当にありがとうございます。


なんとなんと本作が◤GA文庫様◢より書籍化する事が決定しました‼️


これも応援してくださっている読者の皆様のおかげです!

本当にありがとうございました!


龍介くんと真白ちゃん、二人の悪役が織り成す恋の物語。書籍化に向けて二人の魅力度増し増しで仕上げて、読者の皆様を楽しませられるよう頑張りますのでこれからも応援よろしくお願いします!


Web版の方、更新止まっていますが第三章を書く為に日夜がんばっています。

そちらの方もよろしくお願いいたします!

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