第63話、穏やかな夏の日①
海水浴の翌日。
朝起きると身体はバキバキの筋肉痛になっていた。昨日は慣れない砂浜で遊んだり、ビーチボールで動きまくったせいで全身が悲鳴を上げている。
舞の方はあれだけはしゃぎ回っていたというのに、昨日の疲れを一切見せないまま部活へ向かう。相変わらずタフな奴だなと、勢い良く家を飛び出していった姿を見て思った。
「さて……俺も支度を始めるか」
筋肉痛で軋む体に鞭を打ち、俺は出かける準備をし始める。
実は今日もまた真白の家にお呼ばれしている。二人で夏休みの課題をやりながらのんびりした時間を過ごそうという話をしていて、鞄に筆記用具や教科書、各教科のプリントを詰めて真白の家に向かう予定なのだ。
お部屋キャンプに海水浴に夏休みを遊び尽くしている俺だが、学生としてやるべき事もきっちり済ませる。
不良キャラを脱却し真面目な優等生として振る舞う為にも、夏休みの課題はしっかりと終わらせておかなければならない。
真白と課題を進めれば一緒に過ごす時間も増えて一石二鳥。そういうわけで俺は勉強会という名の夏の思い出作りをする支度を整える。
歯磨きに洗顔、それから髪をセットし、洗面所の鏡の前でぼーっと自分の姿を眺めた。
「たった一日の海水浴でこんなに焼けるもんか」
昨日の海水浴で日焼け止めを塗らなかったわけだが、その結果として鏡にはこんがりと焼けて褐色肌になった俺が映っていた。肌質は割と強い方なので日焼けした肌が剥けてしまったりもせず、赤くもならずにちょうど良い色黒になっている。
舞の方も海ではしゃぎすぎたせいか、こんがりと焼けていて健康的な小麦色の肌になっていた。海で遊ぶのに夢中になりすぎて、途中で塗っていた日焼け止めが落ちてしまったんだろう。
塗り直すのも忘れるくらい遊んでいたし、妹の日焼けはそれだけ海を楽しんだ証拠でもあるので兄としては微笑ましい。
真白はどうだっただろうかと思いながら着替えを済ませ、リビングに戻った時だった。
「~♪」
スマホから聞こえるのはメッセージが届いた時の通知音。
真白からのメッセージかな? と思いながら開いてみるが今回はその予想を外してしまう。
差出人は
山奥の合宿所でバスケ部の練習の為に缶詰状態だと聞いていたが、どうやら長かった合宿も無事に終わったようだ。
メッセージにはその報告が書かれており、俺はすぐに画面をタッチして玲央に返信する。
『なるほど。バスケ部の合宿、随分と大変だったみたいじゃないか』
『まあね。先輩達が僕ら一年に「逃げ出すなよ」って何度も言ってた理由が良く分かったよ。あれはマジでキツいね。死ぬかと思った』
『でも山奥の合宿所だから逃げ場はないと。鬼畜すぎるな。でもまあ頑張ったんだろ?』
『もちろん。レギュラーを任されてるんだ、弱音は吐けないさ。それに
『あいつもレギュラーになって活躍するって話してたもんな。そうかそうか、二人共頑張れたなら良かったよ」
俺が真白とお部屋キャンプや海水浴を楽しんでいる間、玲央も西川も部活で汗を流し高校生らしい爽やかな青春を送っていたようだ。次に会う時はまた一段と成長しているんだろうと思わせる文面である。
『ところで龍介。合宿も終わって多少は時間に融通が利くようになったんだ。せっかくの夏休みだし、またみんなで遊べたりしないかな?』
『もちろん。玲央と西川が練習休みの日を教えてくれればいつでも空けておくし、真白も暇だと思うからその日に誘っておく』
『ありがとう、恭也も誘って四人で集まろう。早速なんだけど今週の日曜とかどうかな、龍介と真白さんの都合はつく?』
日曜日は真白と夏祭りに出かける予定を入れていた。
二人で屋台を回ったり、夜になったら花火大会を楽しんだり、そんなふうに夏の思い出を作るつもりだ。
そこに玲央と西川が加わったら楽しさは倍増するだろうし、友達みんなで夏祭りを楽しむなんて夢みたいな光景だ。真白も二人とは仲が良いからきっと喜んでくれるに違いない。
その話を玲央にすると『夏祭りに行くの大賛成だよ。もし良かったら僕らも混ぜて欲しい』と快諾してくれる。
『これから真白の家へ遊びに行く予定だから、その時に玲央と西川の事も聞いてみる。多分大丈夫だと思うからまた連絡するな』
『分かった、連絡を楽しみにしてるね。それじゃあまた』
玲央とのやり取りを終えた俺はスマホを片付け、それから鞄を持って玄関に向かう。
お部屋キャンプに海水浴、どちらも最高に楽しい思い出になったが、玲央のおかげで更にまた楽しい思い出が作れそうな気がする。
その事を嬉しく思いながら俺は真白の家へと向かった。
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